クロック・リカバリ
アイ・ダイアグラムで理解すべきは、後述のジッタも含めて、リカバリされたクロックを基準点としてレシーバの入力信号を観測するものであるということです。つまり、クロック・リカバリのPLLが吸収しきれないデータ・リカバリに影響を与えるジッタを評価したり、リカバリされた点での信号レベルやマージンを評価したりします。
このように説明すると、「リカバリされたクロックは通常はチップから外部には出ていない。どうやって測定するのか?」と疑問に思われるでしょう。
そこで計測器では、下記2種類のクロック・リカバリ方法とアイ・ダイアグラム表示を用意しています。
- ハードウェアにより被測定信号からクロックをリカバリし、連続的にトリガをかけアイ・ダイアグラムを描画。オシロスコープやBERTで提供
- オシロスコープでシングルショット・モードで取り込んだ連続したシリアル・ビット・ストリームに対してソフトウェアによりクロックをリカバリし、取り込んだデータを切り出してアイ・ダイアグラムを描画
ここの長所、短所をご説明する前に理解しておくべき事柄として、測定に用いるPLLの特性は規格で指定されているということです。これは特性が異なったPLLで測定した場合、ジッタ成分によっては測定結果が異なるためです。つまり測定を行う場合、PLLの特性を合わせる必要があります。ときたま「ジッタの測定結果が使う測定器により大きく異なる」と言った声を聞くことがあります。その場合、各々の測定器の初期設定値を使って計測してしまいPLLの特性を合わせていないことが1つの原因です。
なお、PLLを考慮しない、すなわち全ジッタを観測したい場合には平均クロックやリファレンス・クロックを使用します。逆に言えば、平均クロックやリファレンス・クロックを使用した場合、全ジッタが測定されます。
またクロックを並走するインタフェースでは、周波数分割したクロックを転送する場合があります。またクロックの立上り、立下りの両エッジに同期させる必要もあります。このため、逓倍機能を備えたり、クロックの同期するエッジを選択できたりします。前者ではさらにPLLも併用させることも可能です。
タイミング測定
UI(Unit Interval)とビット・レート - データの1ビット分の周期を測定します。データ・レートが速い場合にはタイム・マージンがとれなくなり、誤動作することもあります。SSC測定はデータのUIを測定し、その時間的推移から変調周波数や周波数偏移を測定します。
立上り/立下り時間 - 信号の変化が速すぎると、EMIに影響したり、インピーダンスの不連続性の影響で波形にひずみが発生したりします。逆に遅すぎると、伝送路による高周波損失の影響を受け、受信端で波形がなまり過ぎ、振幅が低下し、データ・エラーを引き起こす可能性があります。
波形アイの幅 - 前述の振幅方向におけるアイ・ダイアグラムの開口幅と同様に、時間方向のアイの開口幅のことです。アイの幅が狭くなると、それだけ受信特性が悪化する恐れがあります。
著者
畑山仁(はたけやま・ひとし)
テクトロニクス社 シニア・テクニカル・エクスパート