レシーバ・イコライザ

送信側で施される信号改善方法であるディエンファシスに対し、受信側で施される信号改善がレシーバ・イコライザです。

レシーバ・イコライザの基本的な考え方は伝送路の周波数特性による損失を受信側で補う方法で、特に新しい技術ではありません。ただし最近は規格の中で積極的に使用する傾向にあります。

レシーバ・イコライザの基本は、ハイパス・フィルタとローパス・フィルタの組み合わせです。単にハイパス・フィルタだけではノイズを増強してしまう可能性があるため、ローパス・フィルタで高域の成分を減衰させます。

簡単なものでは、図5-7aのようにアナログ回路で実現されたものがありますが、最近は図5-7bのようにデジタル回路で実現されたものもあります。前者は時間軸上連続的な動作なので、CTLE(Continues Time Linear Equalizer)、後者では例えばビット単位、つまりビット・レートで動作し、時間軸上断続的になるので、DTLE(Discrete Time Linear Equalizer)と呼ばれます。

後者ではきめ細かい制御が可能です。例えば、CTLEではノイズ成分を単純に増強してしまいますが、DTLEの1種であるDFE(Decision Feedback Equalizer)では、データ・パターンに応じてイコライザ強度を変えるので、より効果的に補償することが可能です。従来では回路規模や消費電力が大きくなるため、実装上問題となり得ましたが、低電圧化や微細加工プロセス技術の進歩に伴い、導入する事例や話題にもなるようになりました。高速化に伴い、まずCTLEを導入し、さらなる高速化でDFEを併用する傾向にあります。例えば5GbpsのUSB3.0では送信側のディエンファシスを3.5dB(±0.5dB)に抑え、受信側のイコライザで不足分を補います。さらに8GbpsのPCI Express 3.0では、標準でCTLEを採用し、1タップのDFEをオプションで採用する方法が提案されています。最近の高性能トランシーバを内蔵したFPGAでも、この両者を組み合わせられるようになっています。

USB3.0の例を見てみましょう。USB3.0は従来のUSB2.0の480Mbpsより10倍以上高速の5Gbpsでパソコンおよび周辺機器間をケーブル接続で実現したインタフェースです。図5-8のように、規格で想定している最長伝送路は、マザーボードのトレースが30cm、デバイスのトレースが15cm、ケーブルが3mで、受信端のアイは閉じてしまいます。そこで図5-9のようなレシーバ・イコライザを併用し、図5-10のように受信特性を改善しています。このイコライザはリファレンス・イコライザと呼ばれ、測定の際に併用するイコライザを規定したものであり、実際のイコライザはベンダに委ねられます。

図5-8 USB3.0のトポロジ

図5-9 USB3.0のイコライザ

図5-10 イコライザ適用前の受信端とイコライザ適用後の波形

レシーバ・イコライザの基本的な狙いは伝送路で損失した成分を補うという考え方です。ただし注意すべき点は、

  1. クロストークで説明したように、レシーバ近傍で受けたクロストークやノイズを逆に強めてしまう可能性があるということです。特に双対単方向伝送では、レシーバとトランスミッタがペアで構成されており、ペアとなっているトランスミッタが与えるクロストークが大きいことになります。それゆえ、基板設計、あるいはケーブル接続の場合には、レセプタクル/ケーブルの選択に注意を払う必要があります。最近の規格認証テストではこの点を考慮し、レシーバの特性も測定する傾向にあります。
  2. 効き目がある周波数が固定されている場合が多く、自分の使うデータ・レートで必ずしも性能が発揮されないことにも注意を払う必要があります。例えば上記のUSB3.0のイコライザは5Gbps(2.5GHz)付近で3.3dBの効果がありますが、もし2.5Gbps(1.25GHz)で使用した場合には絶対値として1.4dB程度の効果しかありません。