今日の標準技術である高速シリアル・インタフェースを理解しよう
チップ間、モジュール間、あるいはボード間、さらに装置間を接続するインタフェースで、データ転送する手段としては、並列にデータを転送するパラレル方式と、直列に並べて時系列的に転送するシリアル方式の2種類があります。
従来、インタフェースと言えば、前者が主流で、後者は長距離データを送る場合(いわゆるデータ通信)や低速の補助的なインタフェースでの使用に限定されていました。ところが今日では様相は一変。後者でしかもギガ・ビット超のインタフェースがPC/サーバ、通信機器のみならず、デジタル家電、医療機器、放送機器、半導体製造・検査装置をはじめ、多くの機器、アプリケーションで利用されています。
実際に現在のパソコンの中を覗いてみると、DDR2とかDDR3などのDDR-DRAM以外のバスはほとんどシリアル化されています(写真1および図1-1)。ハイエンドのパソコンではCPUにMCH(Memory Controller Hub)が統合され、FSB(Front Side Bus)も消えています(図1-2)。デジタル家電ではHDDレコーダやゲーム機器と薄型ディスプレイ(FPD)との接続にHDMIが使われています。HDMIは携帯電話とFPDの接続にも使われ始めました。HD動画の撮影が携帯電話でも可能になり、大画面に映し出すためです。図1-3に代表的な高速シリアル・インタフェースの規格を示します。
ここでは、
- もともとシリアルだったインタフェースの高速化:USB、Ethernet、Fibre Channelなど
- かつてパラレル転送方式が主流だった機器内部のインタフェースがシリアル化された:PCI→PCI Express、ATA→SATA、Rapid IO→Serial Rapid IO(SRIO)など
- いったんシリアル化されると、世代が変わるごとに、より高速化される
- 規格化団体によりテスト方法も含めて標準規格化
という傾向があります。
今日の電子機器を実現する上でFPGAを利用することが多いですが、高性能版はもちろんのこと、中規模のFPGAでも高速シリアル・インタフェースを利用できるようになったり、チップ間を高速シリアル・インタフェースで接続するマイクロプロセッサも登場したりしています。標準でPCI Expressをハードウェアで備えているFPGAも出回っています。
これらが意味するところは、もはや高速シリアル・インタフェースは標準技術であり、高速シリアル・インタフェースを使いこなすことが、設計者に求められる必須条件となったと言えるのではないでしょうか。
実際の設計では、高速シリアル・インタフェースは階層化されているため、アプリケーション以下をブラック・ボックスとして捉えることが可能でしょう。しかしながら特に実際に信号を伝送する役割を担う物理層についてはきちんと理解しておきたいところです。何故ならば、それにより引き起こされる問題や注意点をあらかじめ意識することができるからです。
そこでこの連載では、高速シリアル・インタフェースについて物理層技術と測定について説明していきます。特に測定・評価技術を通すとそこで利用されている技術をよく理解することができます。
なお、高速シリアル・インタフェースには様々な方式・規格があります。PCでは2010年12月にPCI Express Rev.3.0が規格化されましたが、現在はPCI ExpressやUSB3.0の5Gbpsまでです。一方、通信機器になると10Gbpsでの電気による伝送が光モジュールと電気回路の接続としてXFIなどですでに確立していますが、2010年6月にIEEEで承認された次世代の40G/100Gbpsイーサネットを実現すべく、10Gbps×4、×10などのマルチレーンやバックプレーンでの用途が広がろうとしています。またレーン数の削減、あるいは将来の100Gbpsを超える規格対応のために25~28Gbpsの規格化も進められていますが、今回の連載では次回以降、PCI Express、USB3.0、SATA、DisplayPortやSerial RIOなどで共通的に利用されている技術を中心に説明していきます。
著者
畑山仁(はたけやま・ひとし)
テクトロニクス社 シニア・テクニカル・エクスパート