CEOの人柄に惹かれZilogへ
1998年の夏休み休暇中、家族と一緒にサンフランシスコ空港からコロラド州デンバー空港へと移動する飛行機の中に置かれていた機内誌の特集に思わず眼を奪われた。
満面笑顔の精悍な黒人CEO、Curtis Crawford(カーチス・クロフォード)氏がZilog本社役員室から優しく語りかけている一面写真と新たなる経営方針が掲載されている特集記事を一気に読み終えた。特集記事には再生Zilogを目指し、NASDAQ株式市場から一時撤退し、経営再構築を成し遂げようとしているマイクロプロセッサの老舗"Zilog"の未来像が鮮明に描かれていた。
特集記事を隅から隅まで読み終えた瞬間、Zilog最高経営者Crawford氏と直接話がしてみたいとの衝動に駆られた。
後にXicorに熱心に誘ってくれたKrish Panuに相談すると、幸いにも彼はZilogのアジア地区営業担当副社長と面識があり、私の為に面談の機会を設けてくれた。彼はザイログジャパンの現状と今後の課題を克明に語ってくれ、そして彼の好意により、Crawford氏との面会という私の念願が叶うこととなった。
1998年9月上旬、私はZilog本社(カリフォルニア州クパチーノ)に招かれ、Crawford氏CEO(経営最高責任者)との面接が実現した。Zilogは1974年Intelの元社員がスピンアウトして設立した半導体製造メーカであり、Intelで4004と8080の開発に従事した島正利氏が転職し、マイクロプロセッサ「Z80」の開発を成功に導いた企業でもあった。
当時Zilogは、Intel、Motorolaと並んでマイコン御三家として一躍名を馳せたが、1998年に投資会社Texas Pacific Groupに企業買収された。そしてCurtis Crawford氏が最高経営責任者兼代表取締役社長に抜擢され就任した。
Crawford社長は、濃紺のスーツに白のワイシャツ、そして紺色のネクタイを身に纏い、約束の時間に会議室に現れた。満面笑顔で片手を添えながら、握手に応じてくれるCEOの人柄に先ずは魅せられてしまった。
Crawford社長が私との面接で語ってくれた夢とロマンへの挑戦はとても感動的であり、亡きキング牧師のスピーチ"I have a dream"を彷彿させる程の迫力に溢れていた。「我がDream Teamを完成させるためにも、日本にMakotoの力が必要だ」。殺し文句とも思える熱き言葉に、私の心は躍った。
面接の終わりにCrawford社長は立ちあがり、窓越しに拡がる駐車場を指差しながら、「あそこの駐車場は近い将来、Zilog社員やZilogへ入社を希望する者の車で満車になるはずだ」と力強い言葉で結んだ。そして私をエレベーターホールまで見送って下さった。
(次回は8月30日に掲載予定です)
著者紹介
川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任