Intel入社後に学んだ8つのValue

Intel HQ(カリフォルニア州サンタクララ)およびインテルジャパンで過ごした8年半の年月は、私に真のプロフェショナルとしての志に加え、情熱と信念を養ってくれた。

Intel(設立1968年)は、私が入社した年には既に設立12年目を迎え、全世界の従業員数は8千数百人、年間売り上げは8億7000万ドルの規模を誇り、飛躍的な成長を遂げていた。入社一年後には、全従業員数はほぼ2倍に膨れ上がった。会社の廊下では"Nice to meet you !"と頻繁に初対面の挨拶を交わした。

昼休み時間になると、社内のカフェテリアは、興奮気味の新入社員の活気に満ち溢れ、騒然としていたが、私は自然と笑みがこぼれ、幸せ気分になれた。

所属先のSPD(Special Product Division)マーケティング部では、毎週金曜午後4時になると、全員がマリアットホテル(サンタクララ)に集結し、アルコール付きのスタッフ会議が開催された。会議中であっても皆は平気な顔をしてビールやワインを口にした。 

入社後に最初に学んだのは、Intel社名の由来「INTegrated Electronics(集積電子)」であり、そして企業文化-Core Values(価値)であった。Intelには当時8つのValueがあり、個々のValueは存在感を誇示していた。

  1. Openness(開かれたコミュニケーション)
  2. Issue Resolution(課題解決型の発想)
  3. Result Oriented(成果に重点を)
  4. Discipline(規律)
  5. Trust & Integrity(信頼と誠実)
  6. Our Employees(人を大切に)
  7. Risk Taking(あえてリスク負担、挑戦を)
  8. Quality(質の高い実行)

私が特に魅せられたValue、価値とは"Risk Taking"であった。Andy Grow社長(当時)から社員宛のメッセージは、社員に大きな勇気と挑む精神を宿らせた。

"会社に取って最も望まし人材は、リスクを恐れず果敢に挑んで成功を収める者。最も望ましくない人材は、リスクを恐れ、避ける者である"、"リスクを恐れず、挑んだ結果、例え失敗したとしても、決して責められるべきではない"

8つのValueが刻まれたプレート

業務よりも優先された社員向けトレーニング

入社当初は、上司や仲間が新入社員の私に率先して話しかけてくれるのを期待し、自分のパーティションで待機する事が多かった。廊下ですれ違う際は、皆気軽に声をかけてくれるのに、自分のパーティションには何故か誰も来てくれなかった。同様に、週末に仲間のホームパーティに招かれて行っても、誰も私に積極的に話しかけてくれなかった。

そしてとても大切なレッスンを学んだ。米国人とコミュニケーションを取りたいならば、自ら積極的に相手にアプローチすべきであることを。この事は今でも事実である。

Intel社内にはIntel Universityと呼ばれる教育機関が存在し、全社員を対象に、一般講座と専門講座が定期的に開講された。社員向けのトレーニングは業務よりも優先されるべきであるとの共通認識が存在し、自己啓発は企業風土として奨励された。

Intel社員の特権の1つにOne On One(ワンオンワン)請求権がある。One On Oneとは部下と上司間の個別面談であり、部下からの申し出によって上司が時間を設けて実施される。部下は直属の上司に対し仕事に関する報告、または、プライベートの相談も出来る。幾度も個人的にOne On Oneの恩恵に与った。そしてOne On Oneの効力に心惹かれて、いつの間にか私はOne On Oneの信仰者となった。 

Intel社員は四半期ごとに達成目標と手段 - "MBO(Management by Objectives)"を策定し、自己管理する事が求めれている。定めた目標をレビューし、目標達成を目指す。One On Oneが国を超え、日本の職場に於いても上司と部下との間で活用されることを期待したい。MBO - 目標による自己管理は、とても有効な管理手法であり、成果への道しるべになってくれる。

Intelは長期ビジョンを視野に入れ、部署ごとに中長期計画(SLRP:Strategic Long Range Plan)を年1回立案し、実現に向けて最善を尽くす。開催されたSLRP社内会議には創業者の3人(Dr.Robert Noyce, Dr.Gordon Moore, Dr.Andy Grove氏)が顔を揃え、社長のDr.Andy Groveは最前列に、CEOのDr. Mooreは中央に、そしてChairman Dr. Noyceは最後尾に座席を構えていた。Intel三位一体型の経営を象徴するシーンとして今も脳裏に刻まれている。

(次回は6月7日に掲載予定です)

著者紹介

川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任