まさに激動の年であった。半導体/ITの業界での変化は成長の原動力となるが、アメリカ次期大統領選、韓国大統領による戒厳令発令とその解除、シリアのアサド独裁政権の終焉など、期せずして夏以降に次々と起こった世界情勢での出来事は、今後来るであろう国際社会での大きな変化を予兆させるものであった。業界も直接・間接的にこうした社会状況の変化の影響を受けながら日々変化している。

AIを中心に動く市場、NVIDIAの驚異的な成長とIntelの凋落

言うまでもなく、今年の半導体/IT業界はAIを中心に大きく変化した。その象徴的な出来事が決算発表のたびに昨年対比倍々ゲームで驚異的な成長を遂げたNVIDIAと、AI半導体への取り組みに遅れを取り凋落の一途をたどるIntelの対比であった。

11月に発表されたSemiconductor Intelligence(SI)による2024年第3四半期の各社の売上ランキングは(決算発表時期が各社異なるのでSIによる予測が含まれている)、2024年が半導体各社にとってどういう年であったかを如実に映し出す結果となった。

NVIDIAが突出したトップの座を奪い、カスタムAI半導体で伸びたBroadcomと、Instinct MI300シリーズの市場浸透で汎用AIチップレースに食い込んだAMDが二桁代の成長を見せた。

  • AMDのAI向けGPU「Instinctシリーズ」の外観

    AMDのAI向けGPU「Instinctシリーズ」の外観 (編集部撮影)

またSK hynixをはじめとするメモリブランドはAIサーバセンター用のHBM(広帯域メモリ)が成長の原動力となった。これらの企業群と鮮明な対比を見せるように大きな落ち込みを見せたのがIntelだ。過去30年間にわたってトップ集団であり続けたのが、4位にまで陥落した。Intelは第3四半期の発表でそれまでのすべてのネガティブ要因を一気に吐き出したため、空前の2.5兆円の大赤字の結果となったが、「これからが本番だ」と自信ありげに語っていたCEOのパット・ゲルシンガーがその後まもなく突然「引退」するという発表であっけなく姿を消した。AIの大波は波に乗った企業には大きな成長をもたらしたが、対応の遅れで波にのまれた企業には大きな試練を与えている。この波は来年も引き続き継続され、その振幅はさらに大きくなる予想である。

  • 2024年第3四半期の半導体企業売上高ランキングトップ16

    2024年第3四半期の半導体企業売上高ランキングトップ16(15位に同額で2社がランクイン)。BroadcomとAnalog Devicesはガイダンスの値を集計 (出所:各社公表決算データを基にSIが集計作表したもの)

サプライチェーンの反グローバル化と高まる規制当局による市場介入

あくまでも「自由競争」という条件下で競争を繰り広げる環境が技術革新の原動力となっているのは確かだが、実際のビジネスの現場ではその条件が大きく揺り動かされている。その第一が、米中の技術覇権競争激化の結果出現した輸出規制である。

このトレンドは米中間のみでなく各主要経済圏間での反グローバル化という形で各企業に大きな選択を迫る。高度にグローバル化した世界中の半導体のサプライチェーンには、当局による輸出規制によって大きなタガをかけられる結果となった。対象はAI半導体を含む最先端のデバイスから、その製造に必要な装置・材料へとその網は広がるばかりである。戦略的重要性を増すAI半導体は、第3国からの密輸入ルートを経由して相当数量が中国に輸入されていたが、米当局はこの密輸入ルートを遮断するために規制が及ぶ範囲を国別に割り出し、罰金を含む規制強化に乗り出す。

TSMCを筆頭とするファウンドリ各社は各国が競って提示する巨額の政府補助金を取り込みながら、生産拠点のグローバル化をはかってリスクの分散を目指す。この動きは時を同じくして世界の主要各国で起こりつつあり、長年休眠状態であった日本の半導体産業が活気を取り戻すきっかけとなった。こうした米国の輸出規制に押されるような形で、世界最大の半導体市場を国内に抱える中国は自国での技術開発と生産能力の向上に大きく舵を切ったという印象が強い。

2025年で注目されるのは、政府主導の中国の技術強化策がどれだけの進展を見せるかということだ。「自由競争」を市場の前提条件として発展してきた米国中心の技術進化論が一党独裁という全く異なる市場条件下でどういう結果を生み出すかを見るのは大変に興味深い。

米国企業の圧倒的な技術力は「自由競争」という基本条件のもとに発展してきたが、同じ米国の独禁当局は技術力の偏在に大きな懸念を抱いている。当局が問題としているのは、熾烈な技術競争の結果生まれた特定企業の影響力が「自由競争状態」を阻害するのではないかという点である。GAFAMを代表とするビッグテック各社はいずれも米国内に限らず欧州を含む政府当局からの訴訟問題を抱えている。この動きは、全世界に広がる気配を見せている。ごく最近の実例ではGoogleに対して日本の公正取引委員会が排除命令を出す方針であるという。米国当局が問題視しているケースと非常に似た動きだ。検索エンジン「クローム」をGoogle以外の各社のスマートフォンに搭載する商取引を見直す必要ありと判断された結果だ。確かに我々が日常手にするスマートフォン上での各アプリの配置を眺めると、知らないうちに特定企業のサービスに取り込まれている自分を認識することが多々ある。この状況は巨大企業による要素技術の独占状態を現出させ、競争新興企業の市場参入のチャンスを狭めることとなり、「自由競争」の担保が成されない結果、技術の停滞や価格の上昇を生むというのが独禁当局のロジックである。

当局が問題視する第二の分野は個人情報の保護である。日々手にするスマートフォンでの利用経験で誰もが身近に感じる、「なぜ検索した事項に関連した広告がすぐに表示されるのだろう」という気持ち悪さは、その利便性ゆえにそのまま許容されやすいが、個人情報の問題はスマートフォンの利用が若年層にも大きく広がっている点でも問題視されている。この分野では特に欧州当局が問題視の態度を強めている。EUではEU域内の個人データ保護を規定する法として、早くも1995年から「EUデータ保護指令(Data Protection Directive 95)が制定され、その後、さらに包括的な「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規制)」が2018年に施行され、変化する状況に合わせながら監視の目を光らせている。社会的影響が広がるSNSの環境にも大きな規制がかけられる。オーストラリア議会は11月に「16歳未満の子供がSNSを利用することを禁止する法案」を可決、この法案は連邦総督の署名などを経て成立し、2026年1月には全面施行される予定、というニュースを記憶している読者も多いと思う。

大量の電気を消費するAIトレンドに起因するエネルギー問題や、技術革新の継続に必須となる人材確保の問題など他の分野でも様様な問題が表面化した2024年であったが、これらは2025年にはさらに深刻化する予測で、各社の動きが注目される。業界ではこうした多様な問題を孕みながら更なる技術革新が継続されていく。

今年も私のつたないコラムを愛読していただいた読者の皆様に感謝いたします。

来年が皆様にとって素晴らしい年となりますように!!