最近発表されたNVIDIAの2025会計年度第3四半期(2024年8-10月期)の決算は、結局AI半導体分野でのNVIDIA一人勝ちをさらに印象付けるものとなった。売り上げ、純利益ともに前年同期比でほぼ倍に増え続けている驚異的な成長は、NVIDIAを時価総額でAppleを抜く世界最大の企業にまで押し上げた。
今後の成長についても強気なCEOのJensen Huangだが、取り巻く環境には変化が現れている。
あくまで強気のJensen Huangと市場の警戒感
AI半導体市場をほぼ掌握したH100をはじめとするNVIDIAのGPUアクセラレーターの次期製品「Blackwell」は一時指摘された設計上の不具合を解決し、すでにTSMCでの量産体制に入っている。
大規模なAIサービスを提供する巨大テック企業の2025年のビジネスの趨勢はこのNVIDIAの高額なチップをどれだけ確保できるかにかかっている。「特定の半導体ハードに投資しすぎでは?」という投資家からの懸念をよそに、大手顧客はこぞってチップの確保に奔走する。NVIDIAの決算を追ってゆくと2年前のちょうどこの時期から成長が加速を始めた。このような特定企業による特定製品の独占状態は、Intelのx86マイクロプロセッサーがWindowsとともにブレークした時以来だ。それにしても、これほどの規模の企業が売り上げ/利益ともに倍増のペースで成長する状況は私は経験したことがない。75%という驚異的な粗利率は、AI業界で生み出される利益の大部分がNVIDIA一社に回っていることを示している。一社独占を極端に嫌うこの業界にあって、今後の成長についてあくまでも強気のJensen Huangであるが、取り巻く環境には変化が現れている。気になるのが、多くの挑戦者グループから頭一つ抜け出したAMDが着実に実績を上げている事実だ。
HPC分野での実績を基盤に明かな2番手として存在感を増すAMD
最近発表されたスパコンランキング「トップ500」の結果で一位となったのは米LLNL(ローレンス・リバモア国立研究所)に設置された「El Capitan(エル・キャピタン)」で、LINPACK性能は1742.00PFlops(1.742ExaFlops)を誇る。印象的だったのは、トップのEl Capitanに加えて、10位に同じLLNLが導入したスパコン「Tuolumne」が、AMD製のCPU(第4世代EPYC)とGPU(Instinct MI300A)という構成でトップ10入りをしたことだ。このほか、2位の「Frontier」と8位の「LUMI」もAMDの同じCPUとGPUを搭載するなど、トップ10のうち、AMDのCPUもしくはGPU、またはその両方を搭載したシステムは実に半分の5システムにのぼる。
AMDのEPYC CPUはこの5年くらいでトップ500のHPCシステムでは搭載実績が急増したが、今回の注目点はAMDのInstinct GPUが上位システムに搭載され始めたことであろう。相変わらずNVIDIAのH100/200はアクセラレーターとして搭載実績が多かったが、今年の初めから本格出荷が始まったAMDのInstinct製品群はHPC分野で着実な実績を上げている。AMD、CEOのLisa SuはCPU製品戦略をあくまでもハイエンドに集中させた。その戦略は見事に成功して、今やAMDのRyzen/EPYCといったCPU製品群はPC・サーバーのハイエンド分野で多く採用され、「ハイエンドはIntel、低価格品はAMD」、というかつてのイメージは完全に逆転している。
Lisa Suのハイエンド戦略はGPUでも結果を出しつつある。NVIDIA製品と互角かそれ以上の性能を目指したInstinct製品群はターゲットをぴたりととらえ、実績を上げつつある。その結果が今回のトップ500でのランキングで如実に示された状況だ。
HPUのみならず、クラウド大手でもAMD Instinctベースのインスタンスの採用が相次いでいる。以前から採用を公表しているMETAやOracleに加え、最近IBMがクラウドサービスにAMD Instinctアクセラレーターを導入する事を発表した。このサービスは2025年上半期での提供開始を予定しているという。
2番手戦略を熟知するAMD
永らくIntelの2番手としてCPUでの熾烈な競争を繰り広げてきたAMDは2番手戦略を熟知している。NVIDIAの次期製品、Blackwellの市場評価を眺めていると、NVIDIA一強状態が市場のダイナミズムを削ぐ結果となり、業界全体の利益が一社に吸い取られている印象が強い。こうした状況へのユーザーの不満は増加し、それがAMDの2番手戦略の梃となる。市場は常に複数の選択肢を求めるからだ。AMDにとって、その梃を利用し一強NVIDIAに続く明かな2番手のポジションをものにするためには、次の諸条件を満たすことが必須である。
- NVIDIAに対抗できる製品ロードマップに沿った着実な製品投入
- NVIDIAの代替品を強く求める顧客との信頼関係
- 製造パートナーTSMCとの密な連携
AI半導体の級数的な市場拡大は、半導体サプライチェーン全体に大きく影響を与えている。その1つがバックエンドのキャパシティ不足だ。TSMCのCoWoSに代表される大規模な実装技術は極めて複雑で、その製造キャパシティは急増する需要に追い付いていない。この状況が恒常的なNVIDIA製品への品薄状態の原因の1つとなっている。TSMCはこの分野への設備投資を加速しているが、AMDのエンド市場でのNVIDIAとの競争は、同じ条件下にあるNVIDIAとのTSMCを挟んだ競争とも言える。