時価総額で世界一の企業となったNVIDIAが生成AIブームの後押しを受けて破竹の勢いを続ける中、GAFAMをはじめとするビッグテック各社はできるだけ多くのGPUを確保するのに躍起になるのと同時に、旺盛な電力需要を満たすために原子力発電を含むクリーンエネルギー発電設備の確保に奔走している。また、莫大な石油収入をテクノロジー分野強化につぎ込んできた中東のサウジアラビアはそのターゲットをAIデータセンターに絞る。各国のエネルギー政策はAIブームの到来で、新たな局面を迎えている。

AIデータセンター電力を確保するために原子力発電所の確保に走る米国のビッグテック

NVIDIAのAI GPUの最新製品「Blackwell」は「B100」として出荷が開始されているが、2025年にはさらに性能を向上させた「B200」の出荷も予定されている。NVIDIA自身はB200のスペックについて概要しか発表していないが、一部の報道によるとGPU単体の消費電力が1000Wを超えると予想されている。

  • Blackwellプラットフォーム

    2024年11月12日と13日に開催された「AI Summit Japan 2024」にて、Blackwellプラットフォームの紹介を行うNVIDIAのジェンスン・フアンCEO (編集部撮影)

GPUのデータセンターへの実装ではGPUの駆動だけでなく、さまざまなデバイスの発熱を抑えるための冷却ファンや液体冷却装置などにも多くの電気が必要となり、将来的にはこれまでのデータセンターの10倍の電力が必要となるという予測もある。ビッグテック各社は温室効果ガスの排出規制などに配慮し、データセンターでの電力消費についてはできるだけ太陽光・風力といった再生可能エネルギー発電で賄う方向でやってきたが、生成AIブームでより多数のGPUノードを使用することとなり、電力確保の方向性に変化が表れている。ここで注目されているのが原子力発電だ。事故による放射能汚染、核廃棄物の処理など問題の多い原子力発電だが、地震国の日本とは事情が大いに異なり、米国では二酸化炭素を発生させないという意味で原子力発電は「クリーンエネルギー」として類別される。

  • クリーンエネルギー

    クリーンエネルギーとしては太陽光発電がよく知られているが、そのほかに風力発電やバイオマス、原子力なども活用されつつある

最近、マイクロソフトがペンシルバニア州のスリーマイル島原発の電力を20年間購入する契約を結んだ事が話題となった。スリーマイル島原発は1979年に2号機で部分的なメルトダウンが起こり閉鎖された。しかし、1号機は2019年に経済的理由から閉鎖されるまで安全に発電を続けていた。今回マイクロソフトはこの1号機の所有会社と契約を結び、その再稼働を目指すようだ。また、アマゾンは同じペンシルバニア州にあるサスケハナ原発のすぐ隣にデータセンター用地を購入した。こうしたビッグテックの動きは今後も広がっていく予想である。益々増加する電力需要に対応し安定電力の確保とグリッドにおける送電ロスを減らすために、データセンターによる電力の地産地消に向かっているということだろう。

AIデータセンター設置でテクノロジー分野の強化を諮るサウジアラビア

サウジアラビアは過去10年間にわたって莫大な石油収入をテクノロジー企業に投じてきたが、同国の首都リヤドで最近開かれた国際的な投資会議で、AIデータセンターの主要拠点になることをアピールした。

サウジアラビアのサルマーン皇太子が運営する国営投資会社PIF(Public Investment Fund)はソフトバンク社とのヴィジョンファンド設立などで知られるが、その潤沢な資金を国内での大規模なAIデータセンター構築のために、2030年までに130GWの再生可能エネルギー発電能力を達成するべくインフラ増強を行うと発表している。その収入を原油の輸出に頼るサウジアラビアは、将来AIデータセンターを基盤とする電子立国を目指す。そのためには外資の導入が必須となっていて、PIFはビッグテックに対する積極的なアプローチを続けている。すでにオラクルは15億ドルを投じてサウジアラビアにデータセンターを設置しており、最近グーグルも同国での大規模データセンター建設の契約を結んでいる。

以前、AMDが独ドレスデン工場を切り離し、グローバルファンドリー社が設立された経緯にはアブダビ首長国の投資機関の資金提供が有力なバックアップとなった事を書いたが、中東産油国は「石油後」の経済基盤を構築するべく、再生エネルギー、半導体、AIデータセンターといったテック分野により積極的に関与してくる予想だ。

米国次期政権のエネルギー・外交政策が不安要素

こうした状況にあって、ビッグテックのみならず、各国政府が注目しているのがトランプ次期大統領に率いられる米国次期政府のエネルギー政策と外交政策である。

すでにCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)からの脱会を表明しているトランプ次期大統領のもっぱらの関心は高関税による政府収入の増強である。「再生エネルギーよりも自国の原油をもっと掘れ」と公言する次期大統領の今後の言動は、太陽光をはじめとするクリーンエネルギー推進企業にとっては不安要因だ。というのも米国は太陽光パネルの輸入を大きく中国に頼っていて、高関税が導入されればエネルギーコストの上昇に直結するからだ。

外交政策の枠組みで決定される輸出規制はAIデータセンターに注力するサウジアラビアにとっても不安要素となる。現在米国政府はNVIDIA/AMDのAIチップの中国向けの輸出規制をより厳格化している。米国政府は中東経由のAIチップの転売についても目を光らせており、システムレベルで中国に転売されるAIチップは規制違反の対象となる。輸出規制は次期政権ではより厳格化される予想がされている。

不安要素を抱えつつ、テック企業のかじ取りには常に是々非々の判断が要求される。