AMDの2024年第3四半期決算は予想されていた通りの好成績であった。特にデータセンター分野での売り上げは前年同期比で2倍以上(122%の増加)の成長を見せた。この結果、AMDはデータセンター半導体分野でIntelを追い抜き、AI用GPUで爆走するNVIDIAに次ぐ第2位のポジションを獲得した(AMDのデータセンター事業は35億4900万ドル、IntelのDCAIは約33億ドル)。今後のAMDの成長はNVIDIAにどれだけ迫れるかにかかってきた。
サーバーCPU/GPU市場で急成長し一強NVIDIAを追撃するAMD
データセンター市場はこの2年間でその景色が激変した。2年前の今頃まではデータセンター半導体市場ではCPUのトップシェアを掌握するIntelが最大のブランドだったが、生成AIの登場でGPUベースのアクセラレーターがデータセンターノードで急成長した結果、そのほぼ100%を供給するNVIDIAのデータセンターでの売り上げは、CPUをベースとしたIntelをあっさり抜き去り、全体シェアのトップに躍り出た。
今回のAMDの決算で注目されるのはデータセンターでの総売り上げが約35億ドルとなり、前年同期比で2倍以上の成長を見せた点だ。この中にはCPUとGPUが含まれるが、その割合は公開していない。CEOのLisa Suのコメントによれば「CPU/GPUともに売り上げが拡大した」模様である。特にNVIDIA製品に真っ向勝負を挑むInstinct MI300シリーズに対する需要がMeta、Google、Microsoft、Oracleなどの大手クラウドベンダーを中心に急増しているらしく、生産が需要に追い付いていないのではないか、という一部のアナリストの見方が出ているほどだ。サーバーCPUの売り上げだけで前年対比で2倍ということは考えにくいので、MI300シリーズの市場からの引きは本物であると考えられる。AMDは既に次世代製品MI325/350のロードマップを公開しており、これまでCUDAを中心とする開発ソフトウェア環境の強みで顧客を囲い込んできたNVIDIAへの対抗軸としては、ベンチャーを含む他のベンダーの中で抜き出た存在になった。 製品ロードマップを製造面で強力にバックアップするTSMCとの協業関係は良好で、現在建設進行中のTSMCのアリゾナ新工場の顧客となることを早々に発表した。
AMDの3日後に決算発表を行ったIntelの決算概要を見ると、データセンター分野(DACI)の売り上げは約33億ドルということであり、AMDは創立以来初めてIntelを抜き、この最も利益率が高い半導体分野で第2位のポジションを獲得したことになる。この急成長の原動力がAI用のGPU製品である事は明らかで、20年前にK8ベースのOpteronブランドのCPU製品でサーバー市場に参入したAMDに在籍していた私としては隔世の感がある。CEO、Lisa Suが半年前に宣言した通り、現在のAMDのターゲットはNVIDIAであり、今後のAMDの躍進が期待される。
ATiテクノロジーズ社の取り込みに成功したAMD
AI半導体でNVIDIAを追撃するAMDのGPU技術の基となっているのが1985年にカナダで創立されたATiテクノロジーズ社の2006年での買収である。
ATi(Array Technologies Inc.)社はその名も示すように、もともと並列/ベクトル演算を加速しグラフィックス表示技術にフォーカスした会社であった。CPU分野でIntelと熾烈な戦いを繰り広げていたAMDは2000年の中ごろからハイエンドパソコンのグラフィクス性能を向上させる技術に注目していて、企業買収による技術の取り込みを計画していた。幾多あったグラフィクスチップの中で、当時隆盛を誇っていたのがNVIDIAとATiだった。AMDは最初NVIDIAに話を持ち掛けたが、創業者でCEOのJensen Huangが買収後もCEO職にとどまることを条件としたので協議は進まず、AMDはカナダのATiに提案を持ち掛けた。
一年余の交渉の後、ATi幹部はAMDによる買収に合意した。実質はAMDによる買収ではあったが、両社の上層部はATi従業員のやる気を削がないために、実際の組織の統合については「あくまでも対等な合併」という基本を強調した。AMD/ATi両社は日本にも法人格を構え、中規模ながら独立の営業活動を行っていた。こういった世界各国にある法人を同時並行で一社にまとめ上げ、一つのチームにするためにAMDの上層部は“OGT:One Great Team”という標語を用いて、両社のチームが補完的に動きながら相乗効果を生むことに特に気を使った。現場でのまとめ役の一員として働いていた私にとっては初めての経験だったが、いろいろと勉強になった。
半導体業界は現在でも企業合併などによる再編の兆しがあるが、二つの異なる文化/技術を持った企業が一つになる場合、1+1=2という等式以上の結果を導くには細心の注意が必要で、そのプロセス如何で結果を最大化することができるし、その逆も大いにある。
AMDとATiのケースは非常にうまくいった例ではないかと思う。その後AMDはCPU+GPUのヘテロ構造APUの先駆けとなったし、現在NVIDIAに対抗しうるGPUの技術資産もこの合併からもたらされた。
持続可能な成長が予想されるAI半導体市場
最近のNVIDIAの株価高騰の現実を目にして、米国の株式市場では「このAIブームは急速にしぼむのではないか?」という懸念が見られた。「クラウド大手各社が競うように高価なNVIDIA製品を買いあさる結果は、NVIDIAにしか利益をもたらさないのではないか?」、という疑問である。
AlphabetのCEO、スンダー・ビチャイは、果敢なAI分野への投資が過剰なのではないか、という質問に、「充分な投資をしなかった事により負うリスクは、過剰投資がもたらすリスクよりも遥かに大きい」、と明確に答えた。そんな状況で、先週クラウド大手各社の決算が発表されたが、各社とも増収増益でAIが次世代のサービスを支える基盤であることが判明した。
NVIDIA一強の状態にすぐに変化が現れる気配はない。設計上の不具合が指摘されたBlackwellもCEOのJensen Huangが明確に「問題は修正され第4四半期から本格出荷する」と宣言し、この市場分野での存在の強化を明確に宣言した。今後、AMDをはじめとする挑戦者がどれだけ市場に食い込めるかは大きな注目分野である。