AMDとIntelの第2四半期の決算発表は永年のライバルである両社の現状をはっきり示す結果となった。
通常はIntelの決算があってその翌週にAMDというパターンなのだが、今回はAMDが7月30日に発表、3日後にIntelの発表と順序が逆になった。AIアクセラレーター「MI300シリーズ」の好調ぶりを強調するAMDに対し、Intelは経費削減策の発表などもあり、発表日が逆転した背景にはIntel側で相当な社内調整が必要だったのだろうと察する。明暗を分けたのはデータセンター市場での両社のパフォーマンスだ。
データセンター分野の売り上げでIntelにほぼ並んだAMD
かつてIntelはXeonに代表されるサーバーCPUの圧倒的な強さでデータセンター市場を掌握していた。Intelは群雄割拠であったメインフレームCPUの半導体市場をx86アーキテクチャーで塗り替えることにより、半導体市場で最も利益率の高いサーバー用CPUというセグメントを創造し、世界最大の半導体企業に成長した。この市場セグメントでのIntelの圧倒的な強さは、サーバーにぶら下がる企業用クライアントPC市場でのIntelのポジションも確固たるものとした。
私自身、AMD勤務の多くの部分がこのIntelの鉄壁の構えに対し挑戦することの繰り返しであったが、その道のりはかなり厳しかった。それから20年、今回の両社の決算発表では、データセンター市場での売り上げはIntelが30億ドルに対し、AMDが28億ドルとほぼ並んだ。両社の現状を浮かび上がらせる象徴的な結果となったと思う。Intelの下半期の予想もかなり弱含みで一時Intel株は25%以上下落し、世界のハイテク株全体に影響を与えることとなった。
両社の売り上げを詳しく見ると、Intelのデータセンターでの売り上げは前年同期比で3%のダウンに対し、AMDは2倍以上の売り上げを記録した。こうした急激な伸びは昨年後半から今年にかけてNVIDIAが記録した伸びと同じ動きで、規模にはまだ大きな開きがあるが、AMDがAIデータセンター市場で着実に地盤を固めている証拠と言っていいだろう。
かつてのデータセンター市場はCPUノードが圧倒的な割合を占めていたが、生成AIの登場でAIワークロードを高速処理するGPUノードが急激に増えた。その市場をほぼ独占するNVIDIAのAIアクセラレーターの単価はCPUよりもはるかに高く、利益率も大きく違う。この違いは各社の利益率、NVIDIA(78%)、AMD(49%)、Intel(35%)を見れば一目瞭然だ。AMDがNVIDIAに対抗するべく市場投入を始めたAI製品群、MI300シリーズは徐々に市場に受け入れられている状況だが、IntelがNVIDIA製品よりも性能が高いと謳うGaudi製品群の売り上げ貢献は第3四半期以降になるという。
Intelは現在、ファウンドリービジネスの基礎固めをしており、巨額の設備投資が続く。本業での売り上げが伸びない状況は今後の運営に大きなプレッシャーをかけることになる。
独走を続けるNVIDIAの新製品Blackwellに問題が発生か?
AIブームに乗って独走するNVIDIAであるが、最近、次期製品「Blackwell」に技術的な問題が発生して、2024年後半の出荷開始予定が3か月ほど遅延するとの予測記事が海外メディアに掲載された。
その記事によると、製造プロセスのかなり後半の部分で不具合が確認され、製造への影響を避けるために改良を施すという。記事では“Design Flaw(設計上のミス)”と表現されているこの不具合の具体的な内容は不明であるが、現行製品のH100シリーズが恒常的に品薄状態で、価格の高止まりが続いている現状では、NVIDIAの今後の売り上げ全体には大きな影響はないだろうという予測が出されている。しかし、この事態は基盤を含むアクセラレーター・サブシステムを構成する他の多くの部品サプライチェーン各社で構成されるNVIDIA経済圏には大きな影響を与えることが考えられる。また、Blackwell対抗製品としてMI325/350/400シリーズを準備するAMDには有利に働く。最近のクラウドサービス提供者はNVIDIA製品の高騰を受けて、NVIDIAに加えて、他の半導体製品で構成されたインスタンスを準備する企業も出てきている。AIアクセラレーターも選択の時代に入ってきているということだろう。
独占状態を嫌う半導体業界のエネルギー
技術革新で市場全体が疾走する半導体業界では、ある潮流が生まれるとあっという間にデファクト(標準)プラットフォームを形成し、独占企業が生まれる。
しかし、この業界では自然が真空を嫌うように、必ずそれに抗う挑戦者が次々と現れる。そのダイナミズムが業界全体に満ちるエネルギーの源泉だ。かつてメインフレームを牛耳ったIBM、そしてそれを崩したIntel、そして現在AIブームの潮流に見事に乗ったNVIDIAが独占状態を形成し、それをAMDが追いかける。MicrosoftやGoogleといったクラウドサービス巨大企業もNVIDIA製品の使用と並行しながら、自社開発のAIチップの開発に余念がない。
今後注目されるのが、世界最大の半導体市場を擁する中国企業の動きだ。安全保障上の脅威となるとの理由で、NVIDIA製品については中国への輸出規制がかかっている。闇ルートでのNVIDIA製品の取引が盛んとなっているという報道もあるが、中国企業による自社開発AIチップも登場している。現在最も有力なのはHuaweiが開発した“Ascend”と呼ばれるAIチップだ。そのパフォーマンスはNVIDIA製品には及ばないが、国産チップとしてBaiduなどの巨大プラットフォーム企業が本格的に使うことになれば、その量産による価格の低減は必至で、NVIDIA製品の強力な代替え品となる可能性もある。
AI半導体市場にはNVIDIA一社だけで抑えきれない巨大な膨張エネルギーが閉じ込められている印象がある。