ある日漫然と半導体アナリストの市場分析記事を眺めていたら、AMDとNVIDIAが躍進しているという趣旨の記事が出てきて興味を持って読んでみたら、かなり衝撃的な事実が浮かび上がってきて思わず詳細を調べてしまった。
記事の内容は、データセンター市場でのCPU/GPUの売り上げの推移に関するもので、Intel、AMD、NVIDIAの3社がデータセンター市場向けに供給するCPU/GPUの売り上げを四半期ごとに追いかけた形で構成されていた。GPUで強みを発揮するAMDとNVIDIAという構図は以前から感じていたが、各社の四半期の決算の数字をずらりと並べると、この2年間でデータセンター市場では劇的な変化が起こっていることがはっきりと見て取れた。
GPUノードの急増で激変するデータセンター市場
Intel、AMD、NVIDIAの3社はオープン市場で汎用のCPU/GPU半導体製品を供給している。
この2年くらいは3社とも決算発表にてデータセンター市場での売り上げを抽出した数字を発表しているので、各社の決算発表を期を追って調べていけば各社の比較は簡単にできる。各社ともCPU/GPUを市場投入するリーダー的企業であるが、各社の製品群の最近事情は下記のように大きく異なっている。
Intel
従来からx86ベースのサーバー用CPUでは業界標準であり圧倒的な強さを誇ってきた。Xeonを主力ブランドとする高性能CPU製品は集積度・単価・利益率ともに半導体製品の中では最も付加価値が高い製品群であった。
IntelのサーバーCPU市場での大きな成長は、Intelの企業としての成長そのものを支えた重要製品領域であるが、この3-4年間は同市場での長年のライバルAMDの猛追を受けて、シェアを失いつつある。GPUの製品投入ではNVIDIA/AMDからかなり遅れを取っていて、データセンターでの主導権がCPUからGPUに急激に移る中で全体的にシェアを落としてきている。
AMD
従来からCPU市場においてIntelのライバル企業として、GPU市場ではNVIDIAの競合2番手として両社に食らいついてきた長い歴史を持っている。
最近はIntelの独壇場であったサーバーCPU市場で、EPYCを代表とする高性能品を投入することで、徐々にIntelの市場シェアを奪取している。GPU市場でも長年NVIDIAとグラフィックボード市場を2分する存在であったものの、AIアプリケーションにおけるアクセラレーター市場ではNVIDIAの後塵を拝していた。今年に入って大規模なチップレット仕様のInstinct MI300シリーズでNVIDIAを追撃するが、NVIDIAの驚異的な強さに押されてまだ対抗軸としての存在感はない。
NVIDIA
生成AIの登場でデータセンターでの主導権を一気に引き寄せた。AI市場を見据え、開発環境ソフトの充実に早くから取り組んだJensen Huangの先見の明が、ハード製品の優秀性を見事に補完し、現在AI市場では向かうところ敵なしの一強状態である。
Armの買収計画があったが、このプロジェクトは当局とArmの顧客たちの反対によって頓挫した。よって、単体のCPUでの製品投入はないが、H200などの大規模なAI製品には自社開発のArmベースの独自開発CPUを統合している。この2年間で「世界最大の半導体企業」の座をIntelから奪取した。
下記の簡単な表は、各社が四半期決算で発表したデータセンターでの売り上げを四半期ごとに比較して、単純に3社におけるシェアを割り出した図である。AMDとIntelの会計年度はカレンダー通りなので単純比較できるが、NVIDIAの会計年度はAMD/Intelの会計年度から1か月ずれた形となっているので、この表では便宜上最新期を起点としている。AMD/Intelは2024年第1四半期(1-3月)と、NVIDIAの2025会計年度第1四半期(2024年2-4月)を起点に2年間ほど遡った数字に基づいて算出している
各社の発表の数字を拾いながらシェアを計算する過程で驚いたのは、生成AIの登場とそれに伴うNVIDIAの売り上げの急成長によってデータセンター市場における半導体の構成が激変している点が浮き彫りになったことである。この中で独り勝ちのNVIDIAは今や文句なしの世界最大の半導体ブランドとなった。また、CPU市場ではAMDがIntelのシェアを徐々に奪い取っているものの、両社ともNVIDIAのGPUの急拡大に取り残されている状態である。この中でもIntelは伸び悩んでおり、「AMDとNVIDIAの挟み撃ち」という表現を使う向きもある。
データセンター市場を支配しつつあるNVIDIAに厳しい目を向ける独禁当局
かつてデータセンター向け半導体市場を支配していたのはIntelであった。IntelはPC市場での支配的な立場をそのまま勃興期のPCサーバー市場に持ち込み、AMDを始めとする競合の市場参入障壁を高めて優位性を確保してきた。
PC市場での足がかりをやっと掴んだAMDに対してIntelは、AMDがまだ参入しきていないサーバー用CPUとの「抱き合わせ販売」など、様々な手法で対抗しようとしている。また、高速メモリインタフェースの分野でも、その独占的地位を濫用する強引な業界標準を目指したりもした。その当時のIntelの「飛ぶ鳥を落とす勢い」を憶えている人には、現在のデータセンター市場での激変は隔世の感があるのではないだろうか?
今回の3社の比較で明らかになったのは、半導体業界における変化をもたらす唯一の原動力はイノベーションだという事だ。変化の激しい半導体市場では、一旦新たなトレンドが生まれると、その影響は瞬く間に大規模なうねりを生み出す。現在我々が見ているのがまさにその変化で、Jensen Huangが「第4の産業革命」と呼ぶのもあながち誇張ではない気がする。
しかし、そのイノベーション改革には「公正な市場競争原理」という条件が必須だ。米国FTC(公正取引委員会)はMicrosoft/OpenAIとともにNVIDIAの一強状態についても調査を開始する発表をした。かつてのIntelもFTCからの是正勧告を受けている。さらなるイノベーション改革は、競争原理が正常に機能する公正な市場が前提となっていることは変わらない原理である。