IntelとAMDの2023年第3四半期(7-9月期)の決算発表がそろい、海外メディアを中心に多くの関連記事が出た。この競合2社は決算月が同じで、先ずはIntelが発表し、その次の週にAMDが発表という順番で毎期繰り返されるので、メディアとしても比較記事を書きやすいのだろう。
今回、浮き彫りになったのが「攻めるAMDと守りを固めるIntel」の構図だ。
PC市場での復権を果たし、守りを固めるIntel
今回のIntelの決算は、前四半期(2023年4-6月期)の決算で3期ぶりの黒字転換をした後ということもあり、業界が注目したが「予想以上に改善の兆しが見られる」というアナリストの評価を受け、株価が上昇した。
Intelの売り上げの55%以上を占めるのがパソコン用プロセッサー製品だ。よってIntelの決算の行方はPC市場の動きに大きく左右される。PC市場での在庫調整が進む中、この屋台骨の事業分野でのIntelの立て直しがやっとうまくいき始めたとみられる。これにはIntelの果敢な価格攻勢がある。かつては「ハイエンドはIntel、廉価版はAMD」というCPU選びのイメージがついて回っていたが、今ではハイエンドPC製品をリードしているのはAMDだ。
長らく製造問題を抱えていたIntelは今やっと問題を解決しつつあり、出荷が順調に回復しMid-Lowエンド製品領域で潤沢に出荷が行われた結果であると思われる。コモディティー化してしまったパソコン製品で大きな益を生むのは容易なことではない。いくつかの証券アナリストのレポートによれば、今回IntelはCPUの価格をかなり下げてAMDからのシェア奪還に走ったようだ。ハイエンドでのシェア奪還は「Core Ultra」のブランドで12月に登場するMeteor Lakeコアの製品発表まで待たなければならない。それに比して、半導体市場で最も利益率が高いサーバー市場では、製品の世代交代の息が長くまだAMDのリードが続いている。
CEOのPat Gelsingerが高らかに掲げる巨大ファウンドリ企業への転換。IDM 2.0への道はまだまだ遠く、今後も果敢な技術開発と巨額の設備投資が必要となる。Intelは今後の4年間で3-2nmの最先端を睨んだ5つの技術ノードを開発すると宣言しており、この製造技術の開発と製造ファブへの本格移植には膨大なコストがかかる。GelsingerはCEOへの就任以来9つの事業部門からの撤退を敢行し年間30億ドルの経費削減を進める中で、直近のビジネスにもしっかり対応しなければならない。今回の決算発表で、Intelは当初発表した再建計画に驀進するために必要な守りを固めた印象がある。
巨大企業を指揮するPat Gelsingerの仕事はその始まりがやっと見えた感じだ。
サーバー市場での好調をてこにAI市場での攻勢を強めるAMD
屋台骨のPC市場でのビジネスの立て直しに集中したIntelと対照的に、AMDはサーバー市場での攻勢に集中している。
というのも、AMDではPCとサーバー市場でのプロセッサーの売り上げが約50/50の割合なので、単価と利益率が格段に高いサーバービジネスに集中することで、自然と全体の売り上げと利益率が上昇するといういいポジションにつけているからだ。
実際、AMDのサーバーCPUビジネスでの実績には目を見張るものがある。これにはRyzen Threadripperシリーズのロードマップに沿った出荷が順調に推移していることが背景としてある。今後のAMDの成長のカギはCEOのLisa Suが公開の場で何度も言っているように、NVIDIAの牙城であるAI市場でのシェア拡大にある。この分野でAMDは既にMI300A/Xシリーズという大規模なチップレット製品を発表していて、現在TSMCにて増産中である。また、今までのAMDの弱点であったAI開発ソフトウェア環境の強化を積極的に進めている。NVIDIAが囲い込むCUDAのソフト環境に対抗してNod.ai、Mipsologyといったオープン・ソース環境でAIソフトウェア開発を支援する企業の買収で自社のソフトウェア開発環境ROCmを強化している。
MI300A/Xシリーズは現在HPCやデータセンターの大手企業に向けて出荷中で、Lisa Suは決算後のインタビューでこの製品シリーズの売り上げだけで来年は20億ドルの売り上げを見込んでいて、10億ドル超の売り上げをAMD史上最短で達成するラインアップになると発言し、株価が上昇した。現在公表されている出荷先は米国のLawrence Livermore国立研究所だけであるが、来期の決算発表にはハイパースケーラーの大手企業がずらりと顧客リストに並ぶと予想される。
Lisa SuがCEOとして打ち出した「ハイエンド戦略」が着実に実績を上げている印象だ。
Mercury Researchの発表で両社の市場シェアに明らかな変化が、AMDが20%を超える日
この記事の執筆中に、PC/サーバー市場でのシェアの調査では定評のあるMercury Researchからの発表があった。
第3四半期の両社のCPUシェアをサーバー、デスクトップ、ノートブックに分類してユニット数と売り上げの結果を予想して、前年同期比を並べている資料で、大変に興味深い。CPU出荷ベースの両社の決算発表に比して、このリサーチ結果はCPUを組み込んだサーバー/パソコンの出荷をベースにしているので、両社にとっては通信簿のようなものだ。全ての市場とセグメントでAMDはシェアを伸ばしている。
私がAMDで現役で働いていたころはシェア20%越えというのはAMDの悲願で、またそれを超えることは「危険水域」に達することを意味していた。Intel社内ではこのシェアの推移を注意深く観察している部門があって、AMDが20%をうかがう事態になると何か非常に戦略的な手を打ってくる、という事がよく言われていた。第3四半期でのパソコン市場でのIntelの思い切った値下げはその結果であったかもしれない。しかし、今回のMercury Researchの調査結果ではサーバー市場において出荷ユニット数であっさり20%を超え、売り上げに至っては30%をうかがう勢いとなっている。
AI機能の拡大、巨大ハイパースケーラー企業による自社プロセッサー開発、ArmコアのWindows参入など、プロセッサー市場を取り巻く環境は日々変化している。来月に発表されるNVIDIAの決算、その後に続くAMD/Intel両社の通年決算発表と今後も目を離せないイベントが控えている。