長年この業界を見てきたが、かつて見たことがないような決算報告だった。

NVIDIAの第2四半期(5-7月期)の決算では前年同期比で売り上げが約2倍、純利益が9.4倍とアナリスト達の予想をはるかに超えたとんでもない数字が飛び出した。これにより米国の半導体関連株価が一気に押し上げられた。スタートアップ企業ならともかく、世界の半導体ランキングの10傑にリストされる巨大企業のNVIDIAが今回発表した決算は、全盛期のIntelの「ため息が出るような素晴らしい業績」といった通常の表現をはるかに超えた「とんでもない、ありえない数字」として業界関係者を大きく揺さぶった。

驚異的なNVIDIAの決算発表内容

先週発表されたNVIDIAの5-7月期の決算内容の概要は下記の通り。驚異的な数字が並ぶ。

  • 売上高は135億700万ドルで前年同期比の約2倍
  • 純利益は約62億ドルで前年同期比の9.4倍
  • この驚異的な伸びをけん引したのはH100を始めとするAI向けのGPU製品群であり、今後も堅調な売り上げが予想される

昨年末にChatGPTの登場で幕を開けたAI市場の熱狂は、半年後のNVIDIAの決算発表でその市場が今までに経験したことがない驚異的なスピードで急拡大しているという事実となってはっきりと現実化した。

NVIDIAのGPUチップと開発環境ソフトウェアの組み合わせであるAIプラットフォームは、現在のところ事実上の競合が存在しない状態で、独占状態を続けるNVIDIAのA100/H100といった半導体製品を求めるユーザーが殺到している状況が続いている。NVIDIA自身は取引価格には一切言及していないが、ハイエンドのH100製品についてはスペックと相場によって単価が2-4万ドルに達しているという報道もある。これについては「利益率が最高で1000%」と計算するアナリストがいるほどだ。特に、米国政府による輸出規制によってハイエンド品の輸入が制限されている中国では、その規制をかわすためにNVIDIAがわざわざダウングレードしたA800製品や、グレーマーケットで取引されるA100/H100などもかなりの高値で売買されているという報道もある。バイドゥ、バイトダンス、テンセント、アリババといった中国を代表するIT大手もまとまった発注をかけており、膨大な受注残を抱えるNVIDIAは次期(8-10月期)の予測もかなり強気であることが株価の上昇を支えている。

  • NVIDIAの2024会計年度第2四半期(5-7月)の決算概要

    NVIDIAの2024会計年度第2四半期(5-7月)の決算概要 (出所:NVIDIA)

驚異的なNVIDIAの決算は今後の熾烈な競争加速化への号砲

今回の決算発表でCEOのJensen Huangは、AI中心のこれからのデータセンターの要件について、「汎用CPUによるコンピューターの時代は終わった。これからはアクセラレーターの時代だ」と宣言した。今後のデータセンターの要素技術からCPUがなくなることは考えられないが、GPUを始めとするAIアクセラレーターの分野での技術革新が加速化される事は明らかなようだ。NVIDIAは今回の決算発表に合わせて、自社開発のArmベースのCPUとGPUを搭載したソリューション「GH200 Grace Hopper」も発表した。GPUでの市場支配力をてこにして、ArmベースのCPUでデータセンターの主要部分を全て掌握する戦略と見える。

  • 「GH200 Grace Hopper」

    HBM3eを搭載した「GH200 Grace Hopper」の外観イメージ (出所:NVIDIA)

この分野でNVIDIAの対抗軸として最もポテンシャルが高いとみられるのが、サーバーCPUで確固とした足掛かりを築いたAMDである。Intelの独占が長く続いたこの市場で現在では20%以上の市場シェアを奪取し、その勢いは止まらない。かつては群雄割拠だったGPU市場でも、カナダのATI Technologies社の買収でGPUの技術を取り込んだAMDは今やGPU市場をNVIDIAと2分する存在だ。そのAMDも現在ではNVIDIAをAI市場での明確なターゲットととらえて、新製品MI300シリーズを発表し、NVIDIAを猛追する準備を整えつつある。またTenstorrentのようなスタートアップもAI市場への参入を伺っている。

NVIDIAの強みは、ハードウェアとしてのGPUの絶え間ない技術革新に加えて、AI市場のユーザーに向けた開発環境を掌握している点だ。NVIDIAは数多くのAI分野でのライブラリーを含むソフトウェアの蓄積に過去10年間で30億ドルの投資を行ってきたという。これが現在のNVIDIAの一強状態を支えている。現在、AI開発の現場では「NVIDIAのハードとソフトがなければAI開発に必須な大規模言語モデルのトレーニングができない」という状態だ。

またNVIDIAは新興のGPUクラウドCoreWeave社に出資、4万5000個のH100をベースとした開発プラットフォームを構築し、自身でハードウェアを持たないユーザーに対してもNVIDIAのソリューションを時間貸しで提供する。

AI開発に必要なCPU+GPUハード、ソフト、それを利用したクラウドサービス、この全てを掌握し急拡大するAI市場に提供した結果がこの「とんでもない決算発表」だったと考えられる。現在のところ、NVIDIAのGPUはファウンドリのTSMCがいくら造っても足りない状態で、少なくとも今年いっぱいはNVIDIA一強の構図は変わらないと予想されるが、市場の利益のほとんどを一社で独り占めする状況は時間とともに変わる可能性が大いにある。急速に拡大するAI市場では他の方法で何とかビジネスチャンスをものにしようとする勢力が出てくるのが必定だ。

コンピューター/半導体の歴史を見て明らかなのは、「自然が真空を嫌う」ように、この業界には特定企業による独占状態を嫌いそれを崩そうとするパワーが常に内在することだ。それを可能とするのが技術革新であり熾烈な競争である。

実際、NVIDIAと協業する自然言語処理ライブラリーの開発プラットフォームを運営するHuggingFaceなどは「市場の拡大がハードウェアのボトルネックによって制限されるのは好ましくない」という発言をしている。

今回のNVIDIAの驚異的な決算報告は、今後展開されるであろう熾烈な技術革新競争への号砲であると感じる。