厳しい市況が続く半導体市場で、注目されたIntelとAMDの第2四半期(4-6月期)の決算が発表された。永年のライバル関係にあるこの2社の決算は、毎回Intelに続きAMDが一週間後に発表されるスケジュールなので半導体株の趨勢を測る指標として常に注目される。
半導体の話題の中心がデータセンターやAIに移っている現在では、NVIDIAというもう一つの注目ブランドとも比較したいところだが、NVIDIAの次の決算発表スケジュールは8月末なので、どうしてもIntelとAMDの2社がハイライトされる関係にある。PC/サーバー市場におけるCPU技術を牽引する2社は両社とも流通在庫調整の影響を受けて昨年の同期比では減収であるが、市況が回復する今後に向けての準備を着々と進めている。
ようやく赤字を脱したIntel
Intelの決算発表の報道で目立ったのは「ようやく黒字化」の表現だった。かつては半導体産業全体の儲けの約3分の1を独占したIntelであるがプロセス技術の躓きとCPUロードマップの遅延によって、このところ2四半期続けての巨大赤字を記録した。今回ようやく黒字転換した。総売り上げは昨年同期と比較して15%の減収という中で、黒字化をしたということは、「2023年末までに30億ドルのコスト削減」という当初の目標通り削減を徹底的に行ったということだろう。今回のIntelの決算発表のハイライトは以下のようなものである。
- 総売り上げでは昨年同期と比較して15%の減収だった。売り上げの大きな部分を占めるPCクライアントとサーバーのビジネスがまだ在庫調整期を脱していない。
- ポジティブな驚きをもって受け取られたのが、CEOのPat Gelsingerが就任以来推し進めるファウンドリビジネスの売り上げが2億3200万ドルにジャンプした事だ。Intelは最先端プロセスを使用するファブレス企業のカスタマーをまだ取り込めてはいないので、このファウンドリビジネスの売り上げの多くの部分は自社製品の内製部分と思われる。
- 今年後半のビジネスの趨勢については段階的な回復を謳ってはいるが、かなり慎重な表現だった。プロセス技術・ロードマップの問題に鋭意取り組んでいることを強調しているが、最近になってハイエンドサーバーの広範囲なCPU製品に関わるセキュリティーの脆弱性も報告されており、AMDからのシェアの奪還は予断を許さない。
今後の設備投資については大きな発表があった。ドイツ政府からの補助金について合意が得られず延期されていたマグデブルグ市を含む2つの工場建設について、総投資額を300億ユーロに増額した。これに呼応してドイツ政府も100億ユーロの補助金パッケージを提供する。世界の先進国政府は半導体を戦略的重要物資ととらえ、そのサプライチェーンの確保に躍起になっている。Intelは足元の自社技術の問題解決と並行して、将来への巨大投資計画を着実に推し進めなければならない。
AI市場への本格参入が期待されるAMD
AMDの決算も全体の数字的には、在庫調整が続く現状を覆すものではなかったが、CEOのLisa Suがハイライトとして具体的に語った各製品がらみのかなりポジティブな状況を受けて、株価は上昇した。
- 最も利益率が高いビジネスセグメントであるサーバー用のCPUでは、第3世代のEPYCの売り上げが減少したが、第4世代EPYCの売り上げがほぼ2倍に伸びた。これはハイエンド製品の世代交代が順調に進んでいることを示す。
- PCクライアントビジネスでは未だに在庫調整が起こっており、総売り上げは減少したが、直前の4半期と比較するとRyzen7000シリーズの売り上げが増加している。これは、AMDがハイエンドセグメントにおいて、Intelのシェアを奪っている証拠である。
- 先月大々的に発表したAIソリューションであるMI300シリーズが特定顧客向けに順調にサンプル出荷がされており、第4四半期での本格増産に手ごたえを感じていることを語った。この分野ではAMDがそのターゲットをNVIDIAに合わせた事を表明しており、今年後半に向けていくつかの採用パートナーとの発表があるだろうと予想させる。
売り上げ全体の数字を追うだけでは見えてこないが、CPUではサーバー/ハイエンドPCでIntelのシェアをさらに侵食していることは明らかだ。また活発化しているAI市場でのNVIDIA一強状態をAMDがどのように突き崩すかは非常に楽しみな分野だ。
ファブレスのAMDには大きな設備投資の計画はもちろんないが、近年半導体産業へ本腰を入れる様相のインドで大規模なデザインセンターの設置を計画していることを発表した。インド西部のグジャラート州において開催された半導体産業の振興イベント「SemiconIndia 2023」でAMDの幹部が発表したもので、詳細はまだわかっていないが今後の趨勢が注目される。半導体エンジニアの養成と確保は業界全体の喫緊の問題となっており、若い優秀なエンジニアリソースを多く抱えるインドでの取り組みは他社も追従する可能性がある。
AI市場を見据えて動き出す各社
あるリサーチ会社の調べによれば、AIチップは2025年までに総半導体市場の20%になるとも予測されるという。半導体のイノベーションをけん引する主戦場はデータセンターに移っているが、この分野で今までAMDとIntelが主役を演じたx86系のCPU市場では、ArmやRISC-VベースのCPUが次第に存在感を増す事が予想される。かたやAIプロセッサー市場はまさに群雄割拠の状態だ。最近大きな発表があった。深層学習用のAIチップを手掛ける新興企業TenstorrentがSamsungとHyundaiから1億ドルの投資を受ける事が発表された。もとAMD・AppleでCPU設計を手掛けたJim Kellerが率いるファブレス企業である。
この他にも大手どころがAIチップ開発を活発化させている。
- GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)は現在第5世代チップを開発中である
- AmazonはAWSユーザーに対し機械学習用のTrainiumチップ、推論用のInferentiaを提供している
- MicrosoftはAMDとの協業で独自開発のAIチップAthenaを開発中と伝えられる
NVIDIAは人気のA100/H100でAIプラットフォームの標準を打ち立て、AIチップ市場では文字通り1強の存在だが、巨大市場を見据えた各社が独自のソリューションを開発中で、来年はこれらのAIチップの実力が試される年になりそうだ。