最近のオラクル社の製品発表会で会長兼CTOのラリー・エリソンが、オラクル社が今後採用するプロセッサー供給ベンダーからIntelを外すと宣言したことが業界で話題になっている。

企業データベース業界の有名人であるエリソンももう78歳であるが、最近のニュースに登場したその姿はまだまだ矍鑠としていて、歯に衣着せぬ物言いとともにまだまだ現役という印象だった。オラクルのExadata新製品の発表会で飛び出した公然の「Intelとの決別」宣言に海外の報道記事には衝撃的なタイトルが躍った。

  • Intelのサーバー向け最新CPU「第4世代Xeonスケーラブルプロセッサー(開発コード名:Sapphire Rapids)のウェハ

    Intelのサーバー向け最新CPU「第4世代Xeonスケーラブルプロセッサー(開発コード名:Sapphire Rapids)のウェハ (編集部撮影)」キャプションがここに入ります

NVIDIA、AMD、Ampereにプロセッサー資源を集中させるオラクル

新製品群Extrada X10Mの発表に登壇したオラクル会長のラリー・エリソンは「今年オラクルはCPUをAMDとAmpereの2社から、またGPUをNVIDIAから大量に調達する。その額は何十億ドルにも上る」、と発言した。さらに「Intelのx86サーバーCPUは限界にきている」とも発言し、オラクルのIntelへの決別が公然となった形だ。度重なる遅延によりサーバーCPUのロードマップに顧客の不安が付きまとうIntelにとっては痛いことだろう。

もっとも、エリソンのこの発言には多分に歴史的な背景も関係しているような気がする。1977年にカリフォルニアでエリソン自身によって創立されたオラクルは、リレーショナル・データベースなどの企業データベースの基礎ともなった製品の発表後、データベースを中心とする多分野にわたる企業買収で巨大ソフトウェア企業に成長した。

そんなソフトウェア企業のオラクルがハードウェアの強化を図るきっかけとなったのが2009年のサン・マイクロシステムズ社の買収である。自社設計の独自CPUアーキテクチャーSPARCを擁するサン・マイクロシステムズは、一時はメインフレームにとって代わってサーバー市場を席巻した。しかし、空前のPCブームが起こり、コストパフォーマンスに優れるx86 CPUベースのサーバーCPUが市場拡大を始めると、あっという間にその波に呑みこまれてオラクルに買収された。結局SPARCアーキテクチャーは終息の方向となったが、高速ネットワークや大容量ストレージ等に関する技術は継承され、今回の新製品にも生きているという。

  • Itaniumプロセッサーのウェハ

    かつてSPARCをはじめとするRISC陣営のプロセッサーへの対抗軸としてIntelが提供していたItaniumプロセッサーのウェハ (編集部撮影)

一方、IntelのサーバーCPU事業にかかわっていたエンジニアたちが2017年にスピンオフして立ち上げたAmpere Computing社は、ArmコアのサーバーCPUを完成させた数少ない企業の1つである。2020年に発表された80CPUコアを搭載するAltraプロセッサーは、その後コア数を増やしながら進化し、現在ではAmazon、マイクロソフト、オラクルなど主要なデータセンター企業に採用されている。ArmコアベースのAmpere社CPUの大きな優位性は何といってもその省電力性能だろう。オラクル自身が直接投資をするAmpereにとっては、今回の発表でデータベース界で大きなお墨付きを得たことになり、記念碑的な一歩といえるだろう。

それに加えて、NVIDIAからの大量のGPU調達を全面的に打ち出したオラクルは、学習・推論といったAI系のワークロードの急激な増加に対応するという姿勢をはっきり打ち出した。

各方面からプレッシャーを受けるIntelのX86サーバーCPUロードマップ

昨年私が見かけた証券アナリストのレポートに興味深い分析が載っていた。この分析はサーバーCPUにおけるシェアの推移を予測したもので、下記のようなものである。出典は記録していなかったが内容はメモっていたので、それを基に箇条書きで書き出してみる。

  • Intel:2022年の77%から、2023年には75%以下へ減少
  • AMD:EPYC製品が幅広い顧客層に採用され2023年には17%以上に増加
  • Arm:2022年の7%から、2023年には8%に増加

昨年の中ごろに見たこのレポートを鮮明に憶えていたのは、Armのシェアが予想以上に大きいという印象を持ったからだ。レポートではこのArmのサーバー市場での快進撃をリードするのはAmazon(Graviton)、NVIDIA(Grace)とAmpereであるとも言及していた。

エリソンの今回の発言が業界全体を代表するものではないとは思うが、サーバーセンターの要件は急激に変化している。消費電力の急激な増加の問題は喫緊の状況で、ArmベースのCPUはその総合性能次第では今後急激に拡大する可能性がある。またAI系のワークロードの急激な増加を支えるアクセラレーターとしての汎用GPUによるCPUの置き換えも進む予測である。この分野ではTenstorrentなどの新興企業も本格製品を市場投入し始める。今後のデータセンターを構築する半導体プロセッサーミックスには大きな変化が予想される。

x86サーバーCPUの総本家ともいえるIntelの今後のロードマップには大きなプレッシャーがかかる。