Intelの第2四半期の発表を受けて、一時、株価が10%以上の急落をした。近年にない散々な結果で、アナリストたちは「悪夢を見ているようだ」とか「まるでホラー映画だ」など大きな落胆を隠さなかった。そして最近発表されたAMDの同四半期の発表は、それらを裏付けるような内容で、“Intelの一人負け状態”が映し出された印象だ。

この両社のコントラストはAMDの時価総額がIntelのそれを超えるという信じられないような事態を招いた。時価総額とは、上場企業の株価に発行済み株式数を掛けた総体で、企業価値をはかる重要な指標である。有体に言えば「今やIntelの企業価値はAMDのそれに劣る」、ということになる。長年AMDに勤務した私にとってこんな日が来るとは夢にも思わなかった。その概要と、それを取り巻く業界の動きに目を向けてみよう。

  • この10年で最悪の決算発表だったと言われるIntel

    この10年で最悪の決算発表だったと言われるIntel

両社の決算報告の内容比較で明らかになったIntelが抱える問題

2021年の初めにIntel再建のためにVMWareからCEOとして古巣に舞い戻ったPat Gelsingerであるが、すでにCEOとしての7四半期目を迎えている。かねてより指摘されていたロジック製品の先端プロセスでの躓きは、新製品の市場での競争力に大きく悪影響を与えた。

それと対照的に、Zenアーキテクチャを中心に据えるAMDが台湾TSMCとの協業でロードマップ通りに繰り出す新製品は、すべてのCPUセグメントでのAMDの主導権を確実なものにした。

その事実は、下記の製品領域での両社の前年同期比の数字の違いが明確に裏付けている。

  • クライアントPC用CPU市場:Intelの牙城であったデスクトップ/ノートブックPCセグメントでのIntelの売り上げは25%のダウン(利益では73%のダウン)。これに対しAMDは25%のアップ。
  • データセンター用サーバーCPU市場:すべての半導体セグメントの中で最も利益率が高いと言われるサーバー市場は元来Intelが創造した市場で、Intelの驚異的な利益率はこのセグメントでのIntelの独占状態で成り立っていた。しかし、第2四半期ではIntelの売り上げは16%のダウン(利益で言えば90%のダウン)。これに対しAMDは83%の売り上げアップであった。

苦し紛れの説明でGelsingerは、コロナ禍で寸断されたサプライチェーンと、世界的景気後退による市場全体の縮小を強調したが、両セグメントでAMDに対し大きくシェアを失っているのは明白で、「市場全体の動きによる影響は顕著だが、Intel社固有の問題に起因するものもある。この点については不本意で、これから我々はこの問題解決に全力を尽くす」と言うのがやっとであった。

PC市場の軟化についてはAMDも認めていることで、今後の予測については慎重であるが、アナリストが厳しい目を向けているのがデータセンター用サーバーCPUでのIntelの大きな不振である。製品サイクルが比較的長いこのセグメントでは、一旦技術の優劣がはっきりしてしまうと、それを逆転するにはかなり優位性がある製品をロードマップ通りに市場投入しなければならない。しかし、現実は厳しい。Intelは次世代製品Sapphire Rapidsの市場投入時期をすでに2回も遅らせていて、本格投入は来年にずれ込む模様だ。

  • Intel CEOのPat Gelsinger氏

    Intel CEOのPat Gelsinger氏 (出所:Intel)

ようやく成立を見たCHIPS法案は米国の半導体復権を可能とするか?

惨憺たるIntelの第2四半期決算発表と期を同じくして報道されたのが、米国における半導体の国内生産を支援する7兆円レベルの財政支援を可能とする通称CHIPS法案の可決だ。

社会インフラ自給の観点から、シェール革命以来の快挙と盛んに成果を主張する米政府だが、この法案の恩恵を一番に受けるのがIntelである。Pat Gelsingerはかねてより、Intelが立ち上げるファウンドリ会社構想IDM2.0プロジェクトの拠り所として、この政府による巨額財政援助の早期実現をアピールをしてきたが、その思いは今回の法案成立で実現に向かいつつある。法案成立の行方に呼応するかのように、中断されていたオハイオ州に新設する新ファブの建設も早々に再開される予想である。

今回のIntelの決算発表を受けたアナリストたちのコメントの中には、このCHIPS法との関連で、以下のような厳しい意見も見られた。

  • 惨憺たる決算発表を受けてIntelは今後の設備投資の削減も発表しているが、Intelの財務はIDM2.0の立ち上げまで持つのか?
  • 半導体の需給バランスのひっ迫度が緩む中、Intelはこのような大規模なファブのキャパシティを埋めることができるのか?
  • そもそも最先端製品の製品力が減退しているIntelが将来のファブで何を作るのか?
  • Intelを技術で凌駕し、世界市場で米国の半導体技術を代表するAMD、NVIDIA、Qualcommといったファブレス企業に対する恩恵はあるのか?

最近の報道によるとIntelはスマートフォン向け半導体で世界をリードするMediaTekをファウンドリビジネスの顧客に加えたらしいが、MediaTek一社だけではこの巨大ファブのキャパシティは埋まらない。

かといってIntelの直接の競合であるAMDやNVIDIAが容易にIDM2.0に参画するとも思われない。Gelsingerはファブの新設を進める傍ら、IDM2.0への賛同顧客を募らなければならない。それにはIntelブランドの復権が必須条件である。

永年Intelを見続けた有名アナリストが非常に気になる発言をしていた。「私は、Intelの各拠点のキーマンとも話をする機会がある。その経験での印象はIntelの製造拠点の人員が必ずしも以前のように超優秀なエンジニアであるとは言えないことだ。Gelsingerは現在のIntelがかつてのIntelではないということに気が付いていないのではないか?」、というものであるが、もしこれが事実だとしたらGelsingerはかなり大きな問題を抱えている可能性がある。

「偏執狂だけが生き残る」と従業員に対し一切の妥協を拒絶し、徹底的な実力主義を貫いたAndy Grove時代のかつてのIntelの人間は、常に競合関係にあったAMDに勤務していた私にとっては脅威そのものであった。

巨額の国家予算のバックアップを受けて米国の復権を目指すGelsinger率いるIntelの道程は依然として厳しい。