ちょっと前になるが、AMDの第4四半期と、2021年通年の業績発表が出た。時期を同じくして宿敵IntelとNVIDIAも決算発表を行った。シリコンバレーに誕生したこの3社は、50年の歴史の中でいつの間にか消えていった他の数多くのブランドをしり目に、現在でも世界の半導体業界を牽引する老舗ブランドである。その3社の決算発表は、今後を象徴するように明暗がはっきり分かれた。その中でAMDの快進撃が目立ったので、AMDのOBとしてはなんとしても記録しておこうという気になった。
まさに進撃のAMD
AMDの決算発表文を読んでいて、奇妙な既視感にとらわれた。「これは全盛期のIntelの決算発表のようだ」、というのが私の正直な感想である。以下がAMDの決算の要点である。
- 2021年第4四半期の売上高は前年同期比49%増となる記録的な業績で、これは証券アナリストの予想をはるかに超えていて、AMDの株価は大きく上昇した
- 売上総利益率も5%の増加。粗利が50%に達するのはAMD創業以来である。
- 2021年の年間総売り上げは2020年から68%増という驚異的な伸びで、年間150憶ドル以上を売り上げる結果となり、トップ10社の中でも最も急速な伸びである。
AMDのCEOであるLisa Suはコメントで、利益率の急激な伸張はデータセンター市場におけるAMDのサーバー用CPU、Epycプロセッサーが大きくシェアを伸ばした点を挙げている。今やAMDはx86サーバー市場の20%以上のシェアを獲得している。この驚異的なシェアの上昇は、サーバー市場をこれまで独占してきたIntelの凋落を意味する。AMDによるIntelからのシェア奪取はサーバー市場に留まらない。PC市場のデスクトップ/モバイル両方のシェアもハイエンドを中心に増加、「ハイエンドPCのCPUはAMD」というブランドが確立された印象がある。
元気いっぱいのLisa Suのコメントで、私が何よりも驚いたのは今年(2022年)の年間売上予測を31%増と明言したことだ。サプライチェーンの混乱が続く現在の半導体市場では異例の強気予想である。今後のAMDの市場での長期的な価値上昇をうかがわせるXilinx社の買収が完了したことも発表した。FPGA市場でのリーダーであるXilinxをAMDが取り込むことは、ハードウェアによるアクセラレーターのより自由な組み合わせが可能となることを意味し、サーバー市場でのAMDのさらなる躍進を充分に予想させる。まるで非の打ちどころがなかった全盛期のIntelをほうふつとさせる、まさに「進撃のAMD」である。
Arm買収の失敗を発表したNVIDIAと、苦戦が続くIntel
快進撃のAMDとの微妙なコントラストを見せたのがNVIDIAである。決算発表では依然として素晴らしい数字が並ぶNVIDIAの現在の時価総額は、AMD・Intelをはるかに凌ぐ。
GPUをコアとして、地道にAIや自動運転に事業を展開した創業者兼CEOのJensen Huangのこれまでのビジョンがかなりの正確度で当たり、実際の事業運営にも非の打ちどころがなかった結果であり、証券業界で絶大な信用を勝ち取った査証でもある。
その“Visionary(先見性に富む)”CEOのJensenの将来ビジョンに疑問符を抱かせる出来事がArm買収の失敗の発表である。「半導体業界史上最大の買収」と業界の誰もが注目したこの超大型買収計画は、各国当局の反対に合い頓挫した。当局の承認が企業買収不成立を決定づけたが、何よりも大きかったのはArmユーザーからの強い反発だった。この買収計画が発表された時の私の反応は「中立的立場にあったArmの技術がそのユーザーの1つであるNVIDIAの手に落ちた場合、他の顧客にとってその技術は果たして同等の価値を持つだろうか?」、という感想であるが、興味深いのはSBGの孫氏もNVIDIAのJensenも、業界からこれほどの反発を受ける事を予想していなかったことだ。
Jensenはコメントで、「買収を成立させるためにできることはすべてやった結果」、とこの失敗を振り返るが、この大型買収計画の頓挫による長期戦略の見直しは必至である。
かたや、Intelの決算発表は業界全体が2桁台の成長を記録する中、一人負けの状況を強く印象付ける結果となった。
CPU市場に君臨したかつてのIntelのイメージはここにはない。それでも、CEO就任2年目となるPat Gelsingerは、下記のような将来のカムバックに向けての布石となる数々のプロジェクトを前面に打ち出した。
- パワー半導体などのアナログ製品に特化したファウンドリTower Semiconductorを6000億円超で買収。Intelには、GlobalFoundriesなどを含む他のファンウドリ会社の買収の噂もあって、これ以上のファウンドリ買収もあり得る予測である。
- Armに対する現在最も強力な対抗軸と目されるRISC-V Internationalコンソーシアムへの参加を表明。このアーキテクチャーを自らが立ち上げるファウンドリ会社IFS(Intel Foundry Service)に取り込み、普及を加速させるための10億ドルに上るファンドを創設。
- 自社独自設計のGPUデザインをコアとして、AIアクセラレーターを推進する“Custom Compute Group”を創設。このグループおよびIntelのGPU自社設計を主導するリーダーは、かつてAMDでGPU部門の責任者であったRaja Koudoriである。
Gelsingerが繰り出す将来への布石は、思い切った巨額投資による将来への強い決意を充分に感じさせるが、いかんせん足元の状況はかなり悪化しており、キャッシュフローの改善は2025年まで待たないと実現ができないことも認めている。
データセンター、AIアクセラレーターなどの先進分野での今後の動きは、引き続きこの半導体3社がリードする状況で、今後の動きに注目である。