「Computex Taipei 2021」が始まった。昨年に続きコロナ禍の中、ほとんどすべてのイベントがバーチャルとなった。

長引くパンデミックの最中でも半導体を中心とする電子産業は、供給不足が大きな問題となるほど活況を呈している。周りの深刻な状況を見るにつけ、複雑な心境ではあるが、大きな社会的変化を身をもって感じる。毎回注目を集める大手各社のキーノート・スピーチがインターネット上に次々とアップロードされ、自宅に居ながらにして各社の渾身のプレゼンをクリック1つで観られるのは大変にありがたい。

私はAMD、NVIDIA、Intelの3社のキーノート・スピーチを観ることができた。3社とも独自色をいかんなく発揮したプレゼンを展開したが、私の独断的印象をコラムにさせていただいた。

  • Computex Taipei 2021

    2019年に開催されたCopmputex Taipeiで撮影したメイン会場の外観

元気のいいLisa Su率いるAMD

3社のプレゼンで唯一CEOがメイン・プレゼンターを務めたのがAMDである。Lisa SuはAMDが業界をリードするCPU/GPU技術の最前線を元気のいい名調子で紹介した。タフな競合Intelを相手にあくまでもガチ勝負を繰り広げてきたAMDにとって、台湾のパートナーとの協業はまさに生命線であり、台湾で最も重要な展示会であるComputexに対する強い意気込を充分に感じさせるプレゼンであった。

現在PC・サーバーのCPU技術をリードする立場となったAMDであるが、恒例となった強敵Intelの対抗製品とのベンチマーク勝負はいつ見ても面白いものである。今回は両社のCPUを使用したデュアル・ソケットシステムによるE-Commerce環境におけるトランズアクションという、実に生々しい設定でAMD(Epyc)とIntel(Ice Lake)の一騎打ちを2つのスクリーンを使って比較デモを行った。

ワークロードが急激に増加する環境でIntel側がフリーズしてしまうのに対し、AMDがサクサクと動いている比較画面は、実際にはいろいろな仕掛けを施した「興行」的な色合いが濃いものと認識した上で、この手の比較ベンチマークを何十回も自身で経験した私にとしてはいつ見てもワクワク感を掻き立てられる。

しかし、今回のプレゼンでのハイライトはなんといってもTSV(Through Silicon Via)技術を駆使した3D-Chipletであろう。従来のワイヤーボンディングを使用することなくCPUとSRAMキャッシュをSilicon-To-Siliconで直接接続するこの最新のパッケージ技術は、AMDにとっては最大のパートナーであるTSMCとの共同研究で実現したと言う。最先端微細加工技術で協業する両社だが、こうした実装技術でも大きなイノベーションを産み出している事を大きくアピールするインパクトが大きい発表であった。

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    Lisa Su自身が手にもって紹介した3D-Chiplet (AMDが発表した動画より抜粋)

他にも、現在出荷しているゲームコンソール用のCPU/GPUの混在SoCを基盤としたものと思われるAPUをTeslaがモデルS/Xに採用した事も発表した。私が記憶する限りでは自動車アプリケーションへのAMDの最初の採用例であると思う。またこうしたAPUがSamsungの高性能スマートフォンに採用される予定であることにも言及している。今後の発表が楽しみである。

新製品の発表で勢いを誇示するNVIDIA

GPUのサブシステムの重要なパートナーの多くを台湾に持つNVIDIAも、台湾パートナーとの親和性を強調する。プレゼン冒頭に登場したビデオは、台北市をそっくりモデリングしてバーチャルに再現したイメージをフライトシミュレーターのコックピットから紹介するという、大変に手の込んだしかも心憎い演出で始まった。

さすがにGPUの最高峰を極めるNVIDIAだけに、10秒足らずのシーンにもかかわらず細部にわたった精緻な映像表現にはエンジニアたちの渾身の心意気が見て取れる。この映像は一定期間中ダウンロード可能となっているというから、御興味のある方はNVIDIAのプレゼンサイトをチェックするのもいいだろう。

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    台北市を再現したバーチャル映像をフライトシミュレーターで体験 (NVIDIAが発表した動画より抜粋)

今回のプレゼンでNVIDIAはGPUの新製品を発表したが、まもなく発売開始となるこの製品のコストパフォーマンスはかなり良いことが強調されている。AMDが肉薄する中、健全な競争が繰り広げられるGPUの市場での勝者はへビーユーザー達である。TSMCとの協業によって省電力のゲーム用ノートPCの軽量化が可能となったことを強調し、いかにもPCゲーマー達が喜びそうな製品が間もなく出荷される予定である。

今回の発表でNVIDIAはAI分野でのリーダー的なポジションを誇示するのに多くの時間を割いた。

GPU開発から始まって並列計算での優位性にいち早く注目し、コツコツと技術を蓄積したNVIDIAの大きな資産はなんといっても半導体ハードウェアとアプリケーション・ソフトを連携させる膨大なソフトウェア・スタックである。この領域では大きく他社をリードするNVIDIAのプレゼンは、「すべてはGPUの開発から始まった」というシンプルな言葉で結ばれ、これも心憎い演出であった。

IDM2.0を強調するIntel

IntelのプレゼンもPC/サーバーの将来製品や3Dスタッキング技術などの紹介を行ったが、最も印象に残ったのは新CEOとして舞い戻ったPat Gelsingerが、現在Intelが推し進めているIDM2.0を強調していたことである。

「現在の半導体の世界的供給不足はこれから2年くらいは続くであろう」、という見方をしたうえで、あくまでも一貫生産能力を自ら増強して、他社から委託生産を受けるファウンドリビジネスを立ち上げる大規模なプロジェクトは、Intel再建という大きなミッションを請け負ったGelsingerにとっては最も優先度が高いプロジェクトであることが伺える。

世界最大のファウンドリ会社TSMCを擁する台湾最大の見本市Computex Taipeiで、その対抗軸を打ち立てようとする、これもIntelらしい大胆不敵なメッセージであることは確かだ。

久々に目にした3大役者の競演だが、スマートフォンとヘッドセットさえあれば自由に楽しめる時代の創造に大きく貢献したのはこの3社であることは間違いない。