ここ暫く世界中での供給不足の報道が続く半導体業界であるが、マイクロプロセッサーの両雄AMDとIntelがちょっと前に第1四半期の決算発表をした。

TSMCとの協業により、最先端微細加工技術を十二分に駆使して、ロードマップ通りに高性能CPU/GPUを市場投入するAMDと、製造技術開発の躓きで往年の強味が出ないIntelの明暗が分かれる結果となった。

今年に入って新CEOとしてIntelに舞い戻ったパット・ゲルシンガーは精力的に今後のIntelの新たな方向性を打ち出すが、かつて絶頂期にあったIntelで初のCTOを務めたゲルシンガーが、CEOとして舵を切る現在のIntelが今後どうやって巻き返すのかを見極めるにはまだしばらく時間がかかりそうだ。

売り上げ倍増のAMD

AMDの決算発表でまず目を見張るのが売り上げの倍増だ。正確には前年同期比で93%のアップであるが、その規模は34億ドルとなっている。1年前の売り上げに10億ドル以上相当の製品を上乗せして出荷するということは、かつて自社運営のファブで生産していたAMDには到底できない事である。

生産委託先(TSMC)でのAMDのポジションはかなり上がってきているに違いない。マイクロプロセッサーのような大規模な回路を最先端プロセスで製造するという事は大変な技術的チャレンジであり、これをAMDとTSMCの技術チームが見事にやり遂げるのは双方にとってかなり利のあるプロジェクトと考えられる。

製品別売り上げの説明を見ても、全般的に伸びているのが明らかだが、粗利が上昇しているのは、ハイエンド製品がこれをけん引しているからだ。特にサーバー製品のEPYCプロセッサーは市場での受けがかなり良く、AWSをはじめMicrosoft Azureなど大規模なデータセンター顧客が採用している。この傾向は少なくとも今年いっぱいは継続される模様で、AMDの2021年通年の売り上げの予測は前回発表の37%増を50%増に上方修正した。まず文句の言いようがない決算報告である。

長年各社の決算報告を眺めてきた私は、最初の3-4行を読むだけで報告のトーンがわかるようになった。こうした明らかに元気のある数字が並ぶ決算報告は読んでいても元気が出るものである。対照的に業績内容が悪い場合には、「新製品の投入をした」、「プロジェクトを立ち上げた」、「こんな賞をもらった」、などの文章がだらだらと続くものであって、書く側の苦心が伺える。私もAMDに勤務していた時代にはかなり苦しい決算もたくさんあって、本社から「日本発の何か明るいニュースはないか?」などとよく聞かれたのを思い出す。

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    AMDのCEOであるLisa Su (出所:AMD Webサイト)

売り上げダウンのIntel

元気のない決算の典型的な発表をしたのがIntelである。売り上げは前年同期比で1%ダウンという衝撃的な内容がすべてを語っている。未曽有の半導体不足の世界市場で売り上げがダウンということは、Intelが世界市場でのシェアを失ったことを意味する。一部の報道であるように、Intelが世界ランキングトップの地位を再びSamsungに譲るのは必至のようである。

重箱の隅をつつくようでやや気が引けるが、例えばIntelの屋台骨のクライアントPCビジネスの中身を見てみる。売り上げは10%アップだが儲けは2.4%の減益となっている。特に利益率がいいノートPCのユニット出荷数では38%増であるが、売り上げは19%のみの増加である。これを読みかえると、コロナ禍でノートPCの世界市場は再拡大したが、最も利益率がいいハイエンド・ノートPCはAMDに取られ、ミッド・ローエンド機の需要を一世代前のプロセス技術での製造で賄ったということである。

昨年から指摘されていることであるが、データセンター・ビジネスではさらにこの傾向は顕著で、サーバーCPU市場でAMDのEPYCにシェアを相当奪われた事が明らかである。Intelは最近、第3世代Xeonスケーラブルプロセッサーの新製品としてIce Lakeベースのものを発表した。スペックを見る限り、EPYCの強力なライバルとなりそうだが、Ice LakeベースXeonの生産が始まるのは今年末である。この新しいアーキテクチャーの採用には時間がかかると思われ、この新製品が決算の数字となって業績に貢献し始めるのには来年となる。それもゲルシンガーが「克服した」と語る7nm超の最先端プロセスでの製造問題が解決するという条件付きである。第2四半期における売り上げのさらなるダウンをすでに予測している。

かつての辣腕CEOアンディー・グローブ以来の大構造改革を目指すゲルシンガーはIntelを半導体製造のトップに復帰させるIDM2.0プロジェクトを発表した。決算発表では「IDM2.0に対する市場の反応はいい」、とだけコメントしているが、これからの展開は大変に興味深い。

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    かつてのIntel時代におけるパット・ゲルシンガー氏 (日本での説明会で登壇した際に編集部撮影)

構造改革を目指すゲルシンガーが率いるIntelは変われるか?

以上、第1四半期の決算についての私のコメントはかなりIntelに辛口となったが、王者Intelの今後の急速な追い上げを期待したいところだ。

かつてCTOとしてIntelを技術面で主導したゲルシンガーは、最近かなりの時間を半導体サプライチェーン強化の大統領令に署名したバイデン政権との協議に割いているようである。ゲルシンガーは悲鳴を上げる自動車メーカー用の半導体を製造することを表明。これは減価償却が終了しているひと世代前の遊休プロセスラインを埋める手立てとしては有効だし、政権の要求に応える意味では大きな得点となるが、「それで、どの製品を流すのか?」は不明であり、自動車用半導体の生産によってさらに利益率が下がることは覚悟しなければならない。

ともあれ、ゲルシンガーが満を持して発表したIDM2.0の今後の展開が楽しみだ。独立のファウンドリー会社を立ち上げ、従来の製品ラインとは別に運営する事を発表したが、「果たしてどのカスタマーを取り込むか?」という問題が一番興味深い点だ。Intelの発表ではすでにIBMとMicrosoftが名乗りを上げているが、この両社はIDM2.0が今後のライバルとするTSMCのトップ10カスタマーには名を連ねてはいない。TSMCの総製造量の約25%を購入するAppleはすでにAppleシリコンを発表してIntelとは袂を分かっている。またAMDやQualcommなどIntelと過去に「いろいろあった」ブランドがカスタマーになるとは俄かには思えない。

Intelが半導体自社開発を加速しているGoogle、Facebook、Amazonなどを将来カスタマーとして想定していることは充分考えられる。これらの巨大プラットフォーマーは独自設計のAI用CPU/アクセラレーターなどのプロジェクトを加速しており、その市場規模は拡大する事が予想される。その場合、IntelがTSMCのようなファウンドリーモデルを採用するとなれば、これらのカスタマーの大規模ロジック製品を「ブラックボックス」として製造することに徹することになる。これは今までのIntelが営々と築き上げた、「半導体によってコンピューターの技術トレンドを主導し支配する」、という企業カルチャーからの大きな方向転換となる。

ゲルシンガーと新生Intelの旅はまだ始まったばかりだ。