AMDとIntelが相次いで昨年第4四半期と通年の決算発表をした。これによるとAMDの第4四半期の売り上げは前年同期比53%の上昇、通年でも同45%の伸びと大きく成長した。業界全体の伸びをはるかに上回るAMD創業以来の素晴らしい結果で、この勢いは今年も続く見込みである。
CEOのLisa Suによれば、2021年第1四半期の予測は前年同期比79%増を見込み、通年でも同37%の売上増、粗利益47%となるという。株主向けの発表でもこの調子なら、実力はこれを上回る可能性もある。かたや、Intelの第4四半期の売り上げは前年同期比1%減となった。通年では8%増であったが、業界が2桁台の成長を遂げたと予想される中、Intelが業界全体でシェアを下げているのは明らかである。
このような惨憺たる発表内容で唯一の明るい要素として、第4四半期でIntelはPC市場でのシェアを奪回したと言っているが、これは多分ユニットベースの話で、結局利益率の高いハイエンドはAMDにとられたということであるとみられる。この業績結果を受けて、今回Intelは2021年の予測を見送り、第1四半期の発表まで延期した。2年間迷走したIntelを率いたCEOのBob Swanが退任して、かつてIntelのCTOであったPat GelsingerがCEOとして復帰するので、今年の業績予測はGelsingerの判断を待つようである。
AMDの粗利益47%という結果を見ると、「ドル札をするよりも儲かる」とまで言われた驚異的な利益率を誇ったIntelは、利益率が高いハイエンドPCとサーバーCPUのセグメントでAMDにシェアを大きく奪われたことが明らかになった。
昨年の夏に両社の第2四半期の決算発表を受けて、私は同じような「明暗分かれるAMDとItel」と題するコラムを書いたが、半年後にここまではっきりと差がつくとは予想していなかった。
AMDのOBとしてはうれしい限りだが、あまりのIntelの凋落ぶりに複雑な思いを持つほどである。
かつて、「Intelの2番煎じ」と揶揄されたAMD
AMDがこのポジションに来るまでの道のりは困難の連続であった。Intelのセカンドソースとしてx86市場に参入したAMDであるが、Intelの強大な存在によって幾多の試練をくぐり抜けてきた。AMDがIntelから技術的独立を果たしたK6プロセッサーを発表した1997年当時、私は営業・マーケティングの最前線にいた。
IntelのPentiumを出し抜いて動作周波数233MHzを達成したK6であったが、発表当時は自作パソコンのパワーユーザーやショップブランドなどでのマイナーな存在であって、当時驚異的な成長を遂げていたパソコン市場でのメジャーブランドでの採用にはかなり時間がかかった。
その状況を大きく変えたのが当時IBMがコンシューマー向けに力を入れていたデスクトップパソコン「Aptiva」にK6が全面的に採用されたことだ。
「個人使用のコンピューター = パソコン」という概念をを最初に製品化したIBMであったが、市場が急激に成長するにしたがってCompaqなどの互換機ブランドが急成長し、IBMは厳しい価格競争にされされた。そこで目をつけたのが「性能では互角だが低価格のAMDのK6」であった。
性能・価格・互換性などの製品に関する領域ではIntelのPentiumを相手にしても申し分ないK6であったが、唯一大きな弱点があった。ブランド力の低さである。今でさえAMDは広く認知されるブランドとなっているが、当時は「パソコン = Windows = Intel」の認知が当たり前であり、AMDはリテールショップのパーツ売り場でのみ認知されるマイナーなブランドでしかなかった。私はAMDブランドを知ってもらうべく全国のリテールショップを駆けずり回った。ある地方のリテールショップでは「AMD? うちでは車は扱わんよ」などと言われて門前払いされた事をよく覚えている。
そこでAMDとIBMは一計を案じた。K6を「IBM-K6」と表記しAptivaを全面的に打ち出した。
AMDとしてはとりあえずはCPUが売れればいいわけであるから、強力なIBMブランドの力を借りてK6搭載のAptivaを拡販することに集中したのだ。IBMのAptivaはその高いコストパフォーマンスで大きく成功し、K6もいつしかAMD-K6となって問題なく売れるようになった。
それまで「2番煎じ」のイメージがついて回ったAMDであったが、その後Intelを上回る革新的アーキテクチャーである「K7」の発表と、それに続くIntelに先駆ける64ビットのx86プロセッサー「K8」でCPU市場での確固とした地位を固めることになるが、その道のりはいつも大きな困難の連続であった。
AMDとIntel今後
さて、冒頭のAMDとIntelの明暗くっきりの決算発表であるが、かつてのIntel初代CTOであったGelsingerの復帰のニュースは業界人にとっては大きな驚きであったが、概ね好感を持って受け止められたようである。
CEOの交代とともに、古巣でその人物を支えた幹部連中がぞろぞろと回遊魚のように移動するのはシリコンバレーの日常茶飯事であるが、Gelsingerの場合はいわゆる「出戻り」であまり例がない。そればかりか、業界では「GelsingerはIntelのCTO時代に一緒に働いた優秀なエンジニアを呼び戻して革新的アーキテクチャーの開発に向けて新たな開発チームを再編成している」という話で盛り上がっている。
Gelsingerの復帰は王者Intelの復権を予想させる心躍る話だが、Intelを取り巻く現在の状況は下記のような幾多のチャレンジが待ち構えている。
- かつてのAMDはプロセス技術で常にIntelと比較して一世代遅れていた。このハンディキャップを乗り越えるために、AMDは革新的なマイクロアーキテクチャーの考案、SOIウェハの採用などのハイリスク戦略を取らざるを得なかったが、現在のAMDはTSMCの最先端プロセス技術とキャパシティによって強力なバックアップを得ている。
- 最先端コンピューティングの関心はクライアントからサーバーにシフトし、サーバー側ではx86のような汎用CPUの役割はGPUや専用ASICなどで構成する並列計算アクセラレーターと共存する状態になっている。Intelは最近ディスクリートGPUを発表したが、いかにも控えめなものでこの分野での遅れは否めない。
- AMDは元来のCPUの技術力とATIの買収で獲得したGPUの技術を組み合わせることによってそのアプリケーション領域を広げている。2020年に買収を発表したXilinxの取り込みに成功すればアクセラレーター分野でさらなる大きな企業価値を生み出す可能性がある。
- 今やIntelの競合はAMDだけではなく、スマートフォンのCPUを支配するQualcomm/MediaTekやx86の強力な競合となりえるArmの技術を飲み込んだNVIDIAなどが待ち構えている。
- こうした半導体勢に加えて、TSMCと協業するApple、Google、AmazonなどかつてはIntelの顧客企業が自前の半導体を設計する時代になっている。
- 急激な市場状況の変化の中にあって過去2年間Intelはプロセス技術の開発遅延で大きく躓いた。ロジック半導体でTSMCと並ぶキャパシティーを誇るIntelのファブは最先端のTSMCから大きく後れを取ることとなり、膨大な減価償却費がかつて盤石であったIntelの財務体質に大きなプレッシャーを与える。
IntelがTSMCとの協業を拡大するのかどうかについてはいろいろ異なる観測が出ているが、Intelが世界最大の半導体企業として巨大投資をしてきたファブキャパシティーは厳然として残る。この他を圧倒するキャパシティーで「何をどう製造するのか?」という難題に道筋をつけるのがGelsingerの当面の課題となる。
新たなマイクロアーキテクチャーの開発から製品化には少なくとも3年はかかる。しかし現在かつてのAMDとIntelの立場は完全に逆転している。Gelsingerがメディアのインタビューに「Intelの長年の歴史で培われた強さにフォーカスする」と答えているのが大変興味深い。その意味が実際どういう形で現れるかはこれからのIntelの製品戦略に間もなく反映されるであろう。
今後のGelsinger率いるIntelの動向には目を離せない。