IntelとAMDの2020年第2四半期(4-6月期)の決算発表が出そろった。ともに前年同期比で増収増益となったが、今後の予測について発表の内容が異なり、すでに逆転していた両社の株価はAMDがさらに大きくIntelを引き離す結果となった。
好調そのもののAMDと深刻な技術問題を抱えるIntel
AMDはクライアントPC用のRyzenの市場からの受けが大変によく、特に売れ筋のノートPCへの採用が拡大した模様だ。またサーバー用CPUのEPYCがGoogle、Amazon、Oracleなどにどんどん採用され、Dell、HPE、IBM CloudなどがAMDのEPYC採用のサーバーを一斉に発表した。
またPlayStation 5(PS5)、Xbox Series Xなどの次世代ゲームコンソールも巣ごもり需要と併せて期待度が高い。なんといっても、今後のTSMCにおける7nmプロセスによるCPU・GPU製品群の増産により供給が堅実に伸びていくので今後の新製品の市場投入についても不安材料がない。他の業界が苦悩するコロナ禍によるマクロ経済の負の影響を受けずに順調に伸びてゆくAMDの決算を発表するCEO、Lisa Suは自信に満ちている。かつて製造問題で何度も躓いたAMDの影はそこにはない。
一方Intelの決算概要であるが、確かに第2四半期の数字だけを見れば前年同期比では増収増益となっているが、何より衝撃的だったのは自社開発の7nmプロセスの再度遅延を発表したことである。
自社開発の先端プロセスの遅延とともに、その善後策としてファウンドリへの製造を増加させる模様である。深刻であればあるほど、その問題の部分はさらりと書かれるものであるが、Intel自身のプレスリリースを読むとその深刻さがはっきり読み取れる。
台湾メディアの報道によると、Intelは7nmとその先のプロセスによる自社製品の製造依頼をTSMCと交渉しているらしいが、交渉がまとまったとしても実際の製品の市場投入までには相当の時間がかかると予想され、事態の深刻さは押して図るべしである。
最近では各社のWebサイトとリンクしてTwitterのメッセージも見ることができ、決算発表に関する投稿をリアルタイムに目にすることになるが、これらのメッセージは報道機関による記事などとは比べ物にならないほど辛辣である。「早く無能なCEOを変えろ、さもなければIntelに将来はない」、「Intelは株主を食い物にしている」、などの非常に煽情的な投稿がずらりと続いていて、さすがに私も読むのをやめてしまったくらいである。
Intelは間髪を入れずにプロセス開発部門のトップ更迭を含む組織変更を発表したが、この問題は組織変更などで片が付く問題ではないことは誰の目にも明らかである。企業の"今後"を予想した結果として現出する株価の大幅な下落は、市場がIntelの将来に対し大きな不安を持っていることを如実に表している。「世界最大の半導体会社」としてIntelは常に業界の中心的存在であった。かつてはCPU・周辺回路の設計、微細加工技術、製造キャパシティ、メモリインタフェースなどの標準などあらゆる分野で優位性を保ち他を寄せ付けなかった王者Intelも、その影響力を急速に弱めつつあるのは明らかである。往年のAMD・OBとしてAMDの大躍進は大変に喜ばしいことだが、Intelの長期にわたる不調は非常に気になる現象である。
ますます影響力を高めるTSMC
代わりに存在感を増しているのが世界最大のファウンドリTSMCである。盤石のAMDなどの名だたるファブレス企業との関係に加えて、Apple、Amazon、Googleなどのプラットフォーマーとも直接の関係を持つTSMCは、現在メモリー以外の半導体市場に対し一番影響力を持つ存在となっている。
たくさんの重要顧客を抱えるTSMCは顧客情報の秘匿性については非常に堅固なものがあり、実際にどのような交渉がどこと進行しているのかはまったくわからない。最近の台湾メディアで日本政府がTSMCに対し日本での工場建設誘致を働きかけたという面白い報道があったが、これはTSMCが実現を否定している。しかし優秀な半導体工場技術者のリソースが余っている日本の技術者市場と100円超で安定し値ごろ感がある円を考えると、他のブランドによる日本での半導体工場建設には十分な検討余地はあると思う。
Intelの業界全体への影響力が下がる分、相対的にその影響力が上がるTSMCにとって、目下一番厄介な問題は米中の技術覇権問題である。TSMCはすでに米国アリゾナ州で5nmの生産ラインを2024年に稼働させる計画を発表しているが、対立する米中とその狭間にある台湾の政治状況の変化によっては今後も新たな展開がある可能性は充分にある。
その他のキープレーヤーも動きを加速
AMDがIntelの株価をはるかに超える値をつけた事は私にとって大きな驚きだったが、すでに株価ではIntelのはるか上を行くファブレスのNVIDIAが時価総額でIntelを超えたという報道にも驚いた。
AMDとはGPU市場で対峙するNVIDIAはAI・自動運転などのアプリケーションに積極的に取り組んできた。創業以来のCEOであるジェンスン フアンはNVIDIAを単なるグラフィック・プロセッサーのメーカーから新たな領域でのキープレーヤーとして着実に変化させている。
このNVIDIAについても最近非常に興味深い報道があった。NIVIDIAがファンド事業の不振から巨額赤字を計上したソフトバンク・グループとArmの売却案を含む交渉に入ったという報道である。米国の報道ではNVIDIA側の提示額として「320億ドル」などという具体的な数字も出て来ていて、この交渉が単なる噂レベルでないことが伺える。もしNIVIDIAがGPUに加えて低消費電力CPUのArmコアを手にするとなると大きな業界勢力になりえる。
一方、データセンター用の半導体メモリーが好調で記録的な半導体の売り上げを達成したSamsungは、肝心のスマホの売り上げでの世界シェアが下がっているのが悩みの種だ。Samsungが長年維持してきた世界市場におけるトップシェアのポジションは中国政府をバックに持つファーウェイにとって替われた。しかし、そのファーウェイも盤石ではない。かねてより5G機器の採用を拒否する米国に加えて英・仏などの欧州主要国もファーウェイ不採用に傾倒している。ファーウェイのもう1つの心配の種はTSMCとの関係である。米国による輸出禁止圧力で現在TSMCはファーウェイの傘下のファブレス半導体企業ハイシリコンへの半導体供給をストップしている。こちらは5G関連の通信用半導体だけでなく、スマホに使われるCPUも含まれるのでインパクトは大きい。現在ファーウェイはすでに買い貯めた部品で生産を賄っているが、これから先は不透明である。
一方、AppleはiPhoneに加え、Macへの自社開発CPU使用に舵を切る。Appleはスマホ、PCともに世界のトップシェアを保有するわけではないが、その高いブランド力で高い利益率を誇る。そのせいもあって時価総額ではIT企業トップのポジションを奪回した。
これら加速する業界の動きで共通するファクターはやはり世界最大のファウンドリTSMCである。
ビジネスモデルは急激に変化していくがハードウェアとしての半導体の生産が勝敗のカギを握っている。