迫りくる中国半導体の脅威

この記事が出るころには新年会も早々に、仕事始まりであると思うのでまずはご挨拶から。

新年あけましておめでとうございます!! 今年もよろしくお願いいたします(明日論)。

昨年末から中国半導体産業に関する大きな動きの報道が相次いだ。中国が今後の世界の半導体市場にサプライヤとしての大きなインパクトを与えることは明らかだ。その意味で、2018年は後になって「そういえばあの年あたりから中国が本格的に乗り出してきたのだな」、と思い出されるような年となるであろう。今までの中国の政府をあげた半導体産業育成の世界戦略は着々と実際の効果をあげている。それをはっきり示すと考えさせる報道は以下の通りである。

  • 中国は国内で使用されるメモリ・デバイスの輸入依存を減少させるべく、DRAMをはじめとする半導体製品の国内生産に本格的に取り掛かっている
  • 2016年以降、中国で建設が進められている、あるいは計画がされている半導体ファブの合計は17基(200mmが5基、300mmが12基)
  • これらのファブで製造される製品には、DRAMやNANDに加えて、液晶ドライバICからCMOSイメージセンサまでもが含まれている
  • 中国は製造のみならず、デバイスの設計能力の国内育成にも成果を上げ始めている。現在すでに10nmプロセス技術を採用した製品の設計もできるようになっている
  • これらの成長を支える半導体エンジニアは国内のみでは調達できないので、日本、韓国、台湾などから優秀なエンジニアを金に糸目をつけずリクルートしている

中国はかつて30年前に日本が半導体産業育成に躍起になっていた時にしていたことを、はるかに速いスピードで、しかもとてつもない規模でもって進めている。中国が世界の半導体市場に君臨するのはもう時間の問題である。実は中国は領域は違うが半導体技術をもとにしたビジネスではすでに大きな成功を上げている。太陽電池である。シリコン純度の差、デバイスの複雑さは比較にならないほど低いレベルであるが、太陽光パネルのビジネスでは中国企業はあっという間に世界市場を押さえてしまった。

  • 半導体は今やすべての産業の土台である

    半導体は今やすべての産業の土台である (著者所蔵イメージ)

日中の半導体産業成立過程の違い

日本と中国の半導体産業の成立過程を比較してみると、産業構造における大きな時代の変化を見て取れる。大きな変化とは、垂直統合から水平分業、サプライチェーンの川上から川下への統合、それに加えて何よりも目を見張るのは半導体消費量の爆発的拡大である。次のようなことがあげられると思う。

  • かつての日本の半導体産業は日立、富士通、NECに代表されるようなコンピュータメーカーが自社のコンピュータに使用する半導体を内製するところから始まった
  • 日本のコンピュータメーカーのビジネスモデルは、当時世界をリードしていたIBM、DEC、ユニシスといった米国のコンピュータメーカーのそれであり、これらの米系メーカーがシリコンバレーを発信地とする独立系半導体メーカーから半導体部品を購入するようになって、垂直統合型の日本メーカーも水平分業に移っていった経緯がある
  • そのあとデジタル革命が起こり、かつてはビジネスのみに使用されていたコンピュータが一般コンシューマにも廉価に提供されるようになった。それはPCというデバイスから、スマートフォンに代わって消費量は爆発的に拡大した
  • 日本の半導体産業の成立とその成長には、自国内に電子機器の十分なサイズのエンド市場が存在していたという点で韓国・台湾などとは大きく異なる(筆者は、この事実が皮肉なことにその後の日本の半導体産業のグローバル化を大きく妨げた要因であると考えている)
  • 中国の登場はPCのODM生産基地として始まった。それはスマートフォンになって爆発的な市場の拡大に押されてあっという間に世界の電子機器の工場となった。世界の工場となった中国は目覚ましい経済成長の結果、あっという間に世界最大の消費地ともなった
  • デバイス事業への参入以前、中国は半導体関連事業での貴重な経験を積んだ。太陽電池である。今では中国は太陽電池用シリコンインゴットの引き上げから、ウェハ、パネル、ダウンストリーム・ビジネスまで、サプライチェーンの川上から川下までの世界のビジネスをあっという間にリードするようになってしまった。ここでの中国の大きな武器はローコストである。品質も量が出るにしたがって向上していった。

中国の実力はその圧倒的な消費の力

暮れの報道で中国半導体に加えて、筆者の関心を掻き立てたのは経済誌に掲載された下記のニュースである。いずれも中国の購買力の破壊的な実力を物語っている。

  • 2017年7-9月期、中国のスマートフォン決済の総額は500兆円にも達したという(ここには個人の商品の購入以外に金融商品の購入、個人の金の貸し借りの決済なども含まれている)。3か月で500兆円という額の大きさにも驚愕するが、その決済が中国国内のネットサービス会社のアリババとテンセントの2社でほぼすべてを代行しているという事実も見逃せない。ちなみに日本の国家予算が年間約100兆円ということを考えると、その取り引きの大きさが破格であることが実感できると思う
  • 中国の海外旅行客の総数が年間1億3000万人。ちょうど日本の人口に匹敵する数の人々が世界に向けて爆買いの旅に出発することになる。日本政府も観光立国の政策を掲げているが、世界中の観光スポットがこの中国人の破壊的な購買力をあてにして中国人観光客の誘致に躍起になっている。折しも、北朝鮮の脅威に関連して、米国にミサイルの迎撃システム(THAAD)の基地を提供した韓国が、この観光資源を中国政府によって断たれる事態になったことは大きな話題となった。今の中国にはその破壊的な購買力を政治的な影響力の梃に使うことができるのだ。

半導体の世界は既存プレーヤーの長い歴史と、ノウハウの蓄積が新規プレーヤーに対する大きな参入障壁となってきたことは事実である。しかし、中国のような破壊的な量の購買力に裏付けされた政府が長期戦略のもとに特定の産業の育成に多額の国家予算を投じる場合、これを止められるものはない。中国まさに恐るべしである。

半導体と言えば、今やIntelを抜き世界最大の半導体メーカーとなった韓国のSamsung Electronicsを考えた。かたや世界最大となったスマートフォン市場である中国の売れ筋ブランドを見ると、Huawei、Xiaomi、Oppo、Vivoといった中国産ブランドが席巻しているようである。グローバル市場で1位、2位を争うSamsungとAppleの中国市場での苦戦が、これらの中国産ブランドのシェア獲得を許している。しかし、年間1000兆円を軽く超える中国消費者の取引の決済に使用されるスマートフォンの中身にはSamsung製のDRAM、NANDが多く使われているものと思われる。中国がMade in Chinaですべてを揃えようとする意図はよく理解できる。今年も世界の半導体業界の動きには目を離せない複雑な事情がある。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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