2025年までに、127万もの中小企業が黒字のまま廃業を迎えるといわれている。その理由は、優良な中小企業の経営者の多くが高齢で後継者がいないためだ。仮に127万の中小企業が廃業したとすると、日本全体で650万人の雇用と22兆円のGDPが失われると予測されている。

若手自らが個人で企業を買収して経営するアメリカで生まれた仕組み「サーチファンド」を活用し、この大廃業時代を食い止める存在として活躍することを期待されているのが「ネクストプレナー」という存在である。本稿は「ネクストプレナー」として事業承継した河本和真氏が、自身の経験やそれから得られた知見をまとめたものである 。

今回は、事業承継を成功させた西澤氏を紹介するとともに、同氏が事業承継に成功した要因について説明する。

ネクストプレナー西澤氏との出会い

「聞いてほしい事があります」――今から約1年前の2021年10月、そう言って、突如私の前に現れたのが西澤氏だった。その時、模索し続けたネクストプレナーとしてのペルソナとして理想的な人物に出会えたという衝撃を受けたことが鮮明に脳裏に刻まれている。

話を聞いてみると、元々彼は事業会社のM&A担当者として、とある企業の買収を検討していた。その時に検討していた企業とはエヌ・エス・システム。彼はこの企業に惚れ込み、とにかく買収を成功させようと奮闘していたが、最終段階でボードメンバーに否決されてしまい、買収を断念する結果となってしまった。

しかし、どうしても諦めが付かずにいる中で、あるM&A仲介会社に勤める営業マンからサーチファンドの仕組みを支援する私の事業を聞き、そこから私の元までたどり着いたというわけである。

私が衝撃を受けたのは、彼の対象企業に対する想いの強さである。「河本さん、聞いてください。この会社は素晴らしいのです。私は デューデリジェンスをした張本人なのでよく理解しています。ですが、後継者がいなくて困っている会社なのです」と、力強く訴えかけてきた。話を深堀していくと、対象企業の特徴をよく把握しているだけでなく、その会社の真の価値となるコア・バリューを明確に特定していたことが分かった。

コア・バリューを見抜く力

エヌ・エス・システムは、社員食堂のキャッシュレス決済システムを構築している会社だ。確かに財務内容も良く、前経営者はとても健全な経営を行っていたが、これと言ったバリューを瞬間的に見いだせていない印象だった。そのため、西澤氏の熱量がどこから湧き出ているかを理解できなかった。

しかし彼は、「この会社の最大の魅力は決済システム自体ではなく、そこを毎日通過していく利用者です。日々、その企業に勤める従業員の方々がこのシステムを通過しており、それが一つのプラットフォームになるのです。これらのデータを活用することで、この会社は大きな進化を遂げます」と力説した。

  • エヌエスシステムが提供するオートレジ

    エヌ・エス・システムが提供するオートレジ

この言葉は私に大きな衝撃を与えた。まさに彼は、その会社のコア・バリューを見出し、事業開発とビジネスモデルの変革を行うことで、その会社をより付加価値の高い存在へと変えていこうとしていた。これは、私が行っている事業「ネクストプレナー大学」の受講生に伝えたかった考えそのものであり、まさにネクストプレナーとして理想的だったわけである。

この言葉を聞いたときに、この熱意、覚悟、思考こそがネクストプレナーに必要な要件だと再認識することができた。私の意思決定を迷わせる要因はなく、面談終了時には私の覚悟もすでに決まっていたため、「この案件は必ず成し遂げよう」と、すぐにファンドメンバーに呼びかけを行い、本件の買収プロジェクトがキックオフされた。

関係者を虜にするほどの熱意

そこからは嵐のような日々が過ぎ去っていったが、彼の熱意は、私たちのみならず、飛ぶ鳥を落とす勢いで各利害関係者達を納得させていった。

彼が一番初めに虜にしたのは、エヌ・エス・システムの創業者であり前経営者である井川氏だ。井川氏はのちに「西澤さんは当社のことをよく理解してくれており、安心して従業員を任せることができる」と節々に語っていた。後日談になるが、井川氏は、別の事業会社からもより良い条件(譲渡対価)にて買収の提案を受けていたが、熱意に惚れ込み西澤氏を選んだという。

そして、ファンドのリードインベスターとなる世界的な金融機関に対しても、同様に彼の想いや覚悟が伝わり、結果として非常に大きな金額の決済をいただくこととなった。したがって、彼の存在が利害関係者達を巻き込み、彼の熱意と行動力が、一つの後継者不在企業における事業承継を成功させたこととなる。

そして1年後の現在、エヌ・エス・システムは1年目の事業計画を大幅に達成し、新しい付加価値を生み出そうと日々奮闘している。これからサーチファンドによる事業承継を考えているビジネスパーソンは、ぜひ西澤氏の例を参考にしていただきたい。