成熟先端市場での新戦略は? - 装置も売り切りから従量課金へ

IoTデバイスの普及・拡大に伴って今後は「成熟先端世代(32~65nm)」の装置需要の持続が予想される。また、すでに人口が多く半導体消費の大きな新興国のいくつかは産業振興策として半導体産業への参入を進めているが、早晩これら新興国で成熟先端世代の装置の導入が進展しよう。これも成熟先端装置の需要拡大へと結び付く。この市場からの収益を伸ばす戦略を具体化していくことで、半導体製造装置メーカーは業績の安定化を図ることができるだろう。

「20020年プロジェクト」では、この成熟先端市場の潮流変化をどのように収益機会へ結び付けるか検討しており、その結論は、経済合理性が優先されるこの市場において、「従量課金型」と「総合提案型」のソリューションの提供を進めるとしている。これらは、半導体製造装置メーカーの安定収益確保に有効である。成熟先端市場のプレ-ヤ-は、大手半導体メーカーほどの企業規模がなく、製造装置への投資負担が相対的に重くなると想定される。また半導体の大量生産には1台数億円から数十億円する高価な装置を数百台規模で導入し、熟練した装置オペレータや品質管理者を用意する必要があるが、新興国プレーヤーには資本あるいは半導体製造ラインの構築・運営ノウハウに乏しい可能性がある。これを踏まえて「2020年プロジェクト」は、顧客の設備投資にまつわる「資本」と「ノウハウ」の2つの問題を半導体製造装置メーカーの手で軽減し、成熟先端市場で顧客とともに利益を享受することを提案している。

設備投資額負担を軽減するための従量課金

まず設備投資負担を軽減する方策として「従量課金制」のビジネスモデルを提案している。半導体製造装置における現在主流の取引形態である「装置売り切り型」モデルは、半導体メーカーが新しく半導体工場を立ち上げる際、製造装置の調達費用が最も投資比率が大きくなる。また、工場立ち上げ後にも、インストール作業、装置メンテナンス、装置のアップグレードや改造、オペレーションのための人件費、保険料など、稼動のためのランニングコストも生じる。製造装置の購入費用を100とすると、毎年のランニングコストは装置価格の27%(初年度)~22%(2~5年)である。半導体企業の5年間の支出総額は215(計算式は100+27+22+22+22+22=215)となる。通常の半導体工場立ち上げ時は、初年度支出が装置購入費用にランニングコストが加わり127(計算式100+27=127)と突出する。消長の激しい半導体市場でこの設備投資リスクをいかにコントロールするかは、すべての半導体メーカーにとって非常に重要な課題である。

この顧客の設備投資リスクの処方箋として有用と思われるのが、「従量課金制」のビジネスモデルである。ただし、「2020年プロジェクト」が提案している従量課金モデルは、従量制といえども固定的な最低課金額を設定している。これは、顧客都合による装置の低稼働リスクをすべて半導体製造装置メーカーが背負うのではリスクが大きすぎるため、半導体製造装置メーカーにかかる一定の事業コストを顧客負担として求めることが適当という考え方によるものである。つまり、ここでいう「従量課金」モデルは、固定の最低課金分と、半導体メーカーの操業度に準じた変動課金分をミックスした形態をとる。

このモデルでの最低課金額の考え方は、日米半導体製造装置の平均的な原価率である60%をリファレンスとしている。半導体製造装置の外部売上価格100、原価率60%、償却期間5年で定額法を適用とした場合、この装置の1年ごとの減価償却費は12となる。これを毎年の最低課金額とし、この支払が5年担保されるものと考えれば、半導体製造装置メーカーの事業損失リスクはかなり小さくなる。12×5年=60がこの場合の最低課金額であり、製造装置の原価分は最低でも回収される。これに前述した装置稼動・運用コストを加算すると、このモデルを採用する半導体メーカーの実際の支出になり、最低支出額は5年で175の総支出となる。「装置売切り型」と比較すると、半導体メーカーの初期投資負担を抑えたモデルとなる。

この製造原価を5年かけて回収する最低課金分に従量課金分を上乗せすることになる。半導体製造装置メーカー顧客の最低稼動率を60%、半導体製造工場の一般的な稼働率に沿って最高稼動率を90%と設定し、その上下30%内の稼動率変化に応じて課金しようというモデルである。そして、便宜的に稼働率が最低稼動率を超過した応分の収益配分として、最低稼動率超過値の半分×装置価格100を顧客に毎年課金できるものとする。稼動率90%を常にキープした場合は、(90%-60%)÷2×100=15を従量課金できることになる。顧客が稼動率90%以上を常にキープしたとして、先ほど説明した装置稼動・運用コストを加算すると、顧客の最大支出は5年で250となり、前述した従来の装置買い切りモデルの総支出215よりも支出が嵩む結果となる。

自社の事業に実績と競争力があり、また財務基盤も十分な大手半導体メーカーに従量課金モデルが受け入れられる可能性は低いであろう。しかし、中規模の半導体メーカー、もしくは早期の半導体産業立ち上げを企図する新興国にはどうだろうか。事業成功の暁には一定リターンが半導体製造装置メーカーにも分配されるものの、事業成功のため重要となる初期投資負担抑制や投資回収期間短縮に結びつくアプローチが選好される可能性は高いのではないかと「2020年プロジェクト」は見ている。

この従量課金モデルは、半導体メーカーがもっと事業リスクを取ることができれば、それに応じて半導体製造装置メーカー側でもより顧客が受け入れやすい、支出を抑えた提案が可能になる。例えば最低稼働率を70%とすれば、顧客が最大稼動率90%を常にキープした場合は、(90%-70%)÷2×100=10が従量課金分になり、顧客の最大支出は5年で235と、初期投資負担を抑制しつつも、従来の「装置売り切り型」の支払額215にかなり近づく(図6)。平均稼働率が82%の場合、半導体メーカーから半導体製造装置メーカーへの装置価格支払が元々の100となり、双方ともwin-winとなる。現実の半導体製造工場の稼動率を考慮すると、決して法外な条件設定ではないだろう。

図6 稼働率90%を維持できる場合の従量課金モデル (出所SEAJ)