昨今、SD-WANという言葉を耳にする機会が増えてきていると思う。しかしながら、その意義や活用方法、導入後の効果について多くの疑問を抱えている方が多いのではないだろうか。

「自社にとってメリットがあるのか」「既存のネットワーク機器を活用しながら導入することはできるか」「導入後どのような運用管理が必要になるのか」など、企業によってSD-WANに関する受け止め方はそれぞれだろう。

そこで本連載では、SD=WANの基本的な概念から、SD-WANが注目されてきた背景や導入によるメリットおよび導入における課題などを、事例を交えながら解説していく。

第1回目となる本稿では、SD-WANの基礎知識と従来のWANの考え方の違いを整理してみよう。

企業にデジタル・トランスフォーメーションが必要な理由

まず、SD-WANが出てきた背景を語るうえで欠かせないのが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)である。DXとは、ITの浸透があらゆるところで人間の生活を向上させるという概念である。

企業におけるDXとはアナログの業務プロセスやビジネスモデルをデジタル化してくことであり、運用においても、ビジネスモデルにおいても、組織構造においても、ソフトウェアコード開発を中心とした組織体に変革していくことを指している。

例を挙げると、「営業部門が主導し、IT部門と連携しながらITプロジェクトを立ち上げ、即時に営業データの分析、AIを活用した迅速な営業戦略の策定を行うプロセスを手に入れること」といったことは典型的なDXと言える。

どの業界もどの組織もDXを進めていくことは、ビジネスでの競争優位性を保つ上で不可欠であると考えられている。IDCによると、DXに対する支出は2020年には2兆ドルに達し、2015年から2020年にかけて17.9%の年間平均成長率が予測されている。

SD-WANが注目を集めるようになった背景

このDXの進展により、ビジネス環境が大きく変化し始めており、今後のITプロジェクトは従来とは比較にならないAgility(敏速性)が求められる。Agilityを本質とするDXの流れにおいて、数分でOSを起動できるクラウドの活用が進むのは必然であり、ワークロードはクラウド、オンプレを問わずますます分散化していく。ユーザー端末もまた、スマートフォン、タブレットのビジネス利用により分散化がますます進んでいく。

つまり、今までは静的であったインフラ環境が、DXの進展により動的に今までとは比較にならないレベルのAgilityが求められるものに変革していく。このDXの進展が、SD-WANが市場に現れた背景である。

例えば、DXの進展によりプロジェクト単位でクラウドがダイナミックに活用されるようになれば、オンプレ環境とクラウド間のワークロード、あるいはVPC(クラウド上の仮想ネットワーク)の異なるクラウド間のワークロードがダイナミックにインターネットVPNで接続し、またプロジェクトが終了すればすぐにその接続は消去されることとなる。

このように、これからはクラウド上にも仮想的な拠点がいくつも立ち上がり、そして消えていく。今までは物理的な拠点であったためWANは静的であり続け、各拠点に物理的に機器を設置し、エンジニアが設定、運用・管理を行っていたが、そのような方法はDXが進展していくビジネ環境には則さないのである。つまり、クラウド上の仮想拠点間をダイナミックにつないでいくソリューションが必要であり、そうしたニーズに対応するための1つの構成要素がSD-WANと言える。

SD-WANの3つの主要機能

そもそも、SD-WANとは「Software-Defined Wide Area Network」の略であり、広義で言えば"ソフトウェアで自動化された導入と運用が可能な広域ネットワーク"のことを指している。より具体的には、以下3つの機能を備えたネットワーク機器、およびネットワーク機能を持つソフトウェア、のことを指すことが多い。

  1. 単一の管理画面
  2. ゼロタッチでの拠点導入
  3. インターネット回線と専用線の同時活用

これらの機能は、従来のWANとの比較にもなるので、次回、そのポイントを1つ1つ見ていくことにしたい。

著者プロフィール

草薙 伸(くさなぎ しん)


リバーベッドテクノロジー株式会社 技術本部長。リバーベッド日本法人の技術本部長として、製品・技術開発、および日本市場への導入全般に責務を持ち、セールスエンジニアを統括している。またアプリケーション性能に貢献するリバーベッドソリューション普及のための啓蒙活動も行っている。