ETHのMartin Troyer教授のポジション
続いてポジショントークに立ったのはTroyer教授である。すでに、量子効果を使う素子は、量子乱数、量子暗号など、古典的なコンピューティングでは実現できない用途に使われている。しかし、 D-Waveの写真の量子最適化のところに(?)が付いているところがTroyer先生らしい図である。
量子ビット(Qubit)は1と0の任意の重ね合わせを記憶できるので、N個のQubitは2Nの状態を同時に処理することができる。つまり、Qubitの数が増えると指数関数的に処理能力が向上する。
しかし、読み出しを行う場合は、N QubitからはN bitの情報しか読み出せない。また、このQubitの状態はコピーすることが出来ない。これはコンピューティングには大きな障害である。しかし、暗号の場合は、コピーが作れないことは大きなメリットである。
量子コンピューティングは、実用化されれば、量子化学のシミュレーションや物性のシミュレーションに威力を発揮するという(すべての初期値に対する解を並列に計算できるからであろうか?)。また、線形方程式の求解にも威力を発揮する。そして、マシンラーニングにも有効かもしれないという。
量子ビットの作り方には数多くのやり方が提案されており、逆に言えば、まだ、これが本命というものは定まっていないという状況である。
南カリフォルニア大のBob Lucas教授のポジション
続いて、南カリフォルニア大のLucas教授が登壇してポジショントークを行った。
D-Waveの量子コンピュータの心臓部はクライオスタットに収められており、最上部の77Kから、4K、1K、300mKと温度階層を踏んで、計算素子は20mKという極低温に冷却されている。
そして、D-Waveのコンピュータは量子アニールという原理で最適化を行う。アニール(焼き鈍し)を行ってゆっくりと冷やすと、最後には系のエネルギーが低い状態に落ち着くが、D-Waveは、これを量子ビットでシミュレートする。
アニールを通常のコンピュータでシミュレートするシミュレーテッドアニーリングは、最適化の手法として用いられているが、途中で系のエネルギーのローカルミニマムな状態に陥ってしまって、グローバルな最適解を見つけられないことがある。これを量子アニールで行えば、量子トンネル効果で、高いエネルギーの壁を突き抜けて隣のミニマムに移動することが出来るので、グローバルな最適解を見つけやすいというのが大きなメリットである。
ということで、D-Waveマシンを使って、プランニングの最適化、ソフトウェアのベリフィケーション、画像認識、ミサイル防御などのアプリケーションの研究が行われている。
しかし、なぜ、D-Waveのマシンが動作するのかも完全には理解されていないし、量子効果でスピードアップが得られるのか? 得られるとすれば、どのような問題に対して、どの程度のスピードアップか? 量子アニーリングコンピュータが究極的に解くのはどのような問題なのか?そしてどのようにプログラムしたら良いのかなど、まだ、良く分かっていない問題が多いという状態であるという。