衛星画像を活用した分析手法に、ある特定の場所やモノを継続的にモニタリングする方法がある。今回はその分析手法の中でも、「インパクト評価」と「異常検知」の事例を紹介したい。どちらの事例も従来のモニタリング方法が存在していたが、衛星画像を活用した分析が加わり、より効率的に、頻繁に、そして精緻に行えるようになった事例である。

衛星画像を使った経済開発プロジェクトのインパクト評価

国際開発金融機関として融資や無償資金協力、技術協力および政策対話などを行っているアジア開発銀行(ADB)の事例で、経済開発プロジェクトとして2014年から始まったマクタン・セブ国際空港の改修・拡張事業がある。

こういったプロジェクトでは、その事業が経済発展にどう貢献しているのかといった評価を行うことが一般的で、マクタン・セブ国際空港の改修・拡張事業においても事業が社会にもたらした変化を測定するインパクト評価が求められ、その測定手法の1つとして衛星画像分析が活用された。

大型インフラとなる空港だけに広範なエリアで観光やビジネスの影響を比較するための情報が必要となり、公的統計などさまざまなデータが使われる中で、衛星画像分析が使われた。

実は、衛星から得られた夜間光の画像から経済活動のレベルを把握・分析することは20年前から行われてきた。しかし、夜間光は経済活動とは完全に直結せず、また季節的な変更が把握しづらいという難点があった。

そこで、光学衛星画像を解析して数年間の空港周辺の車の台数を算出し、経済活動の状況を可視化する方法をとった。夜間光と相関関係も高く、より正確に昼間の経済活動が把握できるようになり、季節性の把握、そして空間情報として地域ごとの経済活動の違いも見極めることが可能になった。

上記の事例はセブであったが、衛星画像が撮れている限り、地理や期間的な制限はなく、同様のインパクト評価や経済活動状況の分析は世界中どこでもできるだろう。さらに扱っているデータが衛星画像であれば、国境や行政の統計手法などの枠組みにとらわれることなく、目的のエリアを自由な尺度で分析が可能になる。

衛星画像を使った世界中の工場建設モニタリングの異常検知

次の衛星画像を使った分析事例は、世界中で建設されている工場建設の進捗状況をモニタリングするというものだ。

巨大なプラントの建設では、スケジュールの前後や修正は多々あり、特に工期の遅れやトラブルなどは、そこで作られたモノの調達や市場に大きく影響することから、なるべく早く、そしてリアルタイムに進捗状況を知りたいという需要がある。

従来の方法では、現地への視察団派遣や現地コントラクターによる報告、第三者調査機関へのレポート依頼などがあった。しかし、問題は現地に人が行くにしても、例えばオイルやガスプラントなどそもそも人間が行きづらい僻地で建設が行われたり、行ったところでも現地の責任者から報告用に「良いところだけ」を見せられたりする場合もあるようだ。

さらに第三者調査機関の報告においては、実際には調査・報告まで数カ月ほどのタイムラグがあるようで、リアルタイム性にかける場合もある。

そこで、主に衛星画像を利用することで、ほぼリアルタイムでプラントの建設状況を把握するという方法をとった。

モニタリングする対象のプラントが数カ所であれば、毎日撮影された衛星画像を目視で見比べれば良いかもしれないが、対象が数十カ所から数百カ所に及ぶ場合は、毎回すべてを目視でチェックするのは効率が悪く、下記の例のようにコンピュータービジョンを使った母屋や区画のエリアを数値化し、推移を確認、その数字に異常があれば(例えば建設されているはずのエリアがまったく増えていない、または減る)などの異常を検知するモニタリングも可能だ。

  • 衛星データの解析が生み出す新しいビジネスチャンス 第7回

    米国LNGターミナルSabine Passの建設中モニタリング。左が衛星画像で、右が衛星画像を画像分析して、建物や区画をエリア化したもの

さらに、衛星画像だけではなく他の地理空間データ(例えばコネクテッド・カーデータ)を一緒に分析することで、従業員数のトレンドや、区画ごとに働いている従業員の比率など衛星では見れない建設状況も包括的に分析することができる。

衛星画像を使ったモニタリング事例の価値

上記の2つの事例に共通することだが、従来のモニタリング方法を完全に衛星画像分析が置き換えているわけでない。あくまでも新しい視点や既存データへの追加価値をもたらすものとして、衛星画像の未知数の可能性が注目されその活用が促進されている。

また、実際の人を使った人海戦術のほうがより精緻なデータが取れることは明らかだが、対象とするエリアが広域であったり、世界中に散らばっていたりする場合は、衛星画像によるリソースの効率化が可能であろう。