前回は、SAPコンサルタントの役割や位置づけについてまとめてみました。今回からは、実際のNTTデータGSLのコンサルタントを例に、どのようなことを考え、お客様に対して何を提供し、そして自身がどのように成長しているのかについて、導入コンサルタントと運用コンサルタントそれぞれについて伝えていきたいと思います。
いずれもグローバル展開をされている日本企業のお客様へのサービス提供を通じて得られた知見や経験をもとにしていますが、いまや業種を問わずにグローバルを意識しないといけない時代です。同時に新型コロナウイルスのパンデミックのような、予測のつかないリスクによってグローバルなサプライチェーンが大きなダメージを受けたのも事実です。しかしながら、日本企業がローカルビジネスに回帰するのは現実的ではありません。新たな時代におけるビジネス課題と向き合う方法を考えていく必要があります。そこで、まずは導入コンサルタントの例について見ていってみましょう。
導入コンサルタントのリアル
大手製造業のSAP S/4HANAの導入プロジェクトを率いるAは、多くのグローバルなSAP ERPの導入プロジェクトにコンサルタントとして携わってきました。新型コロナウイルスの影響を受けて、プロジェクトを進めている顧客のビジネス環境も大きな変化があり、基幹システムを導入するこのプロジェクトにも大きな影響が出ています。変化の激しい環境の中で数十人を超えるプロジェクトメンバーをマネージしている彼は、どのようなことを思い、考えながらその仕事に向き合っているのでしょうか。
ERPを導入するということは?
ERPの導入に携わるときに、一般的なシステムインテグレータと異なることが1つあります。
それは、お客様の言われた通りのものを設計して開発するのではなく、自身がお客様の経営の一部を担っている立場であり、その実現手段としてERPを利用しているということを忘れないことです。また、コンサルティングファームのコンサルタントとの違いは、お客様に対して客観的なアドバイザーであるのがコンサルティングファームだとすると、NTTデータGSLのSAPコンサルタントは、ERPという手段を導入し、運用に乗り、想定した効果が出るところまで寄り添う「見届け人」にもなるということでしょう。より近く、より長くお客様を支援するため、その責任感のありかや源泉が異なるということが言えるのではないかと思います。
次に、いくつかのポイントでどのようなことを考えて動いているのかをまとめてみます。
1:業務とシステム
基幹システムというのは、いわゆる情報系システムとは異なり、お客様の業務と密接に連携していて、場合によっては業務そのものと言えることもあるでしょう。DXの文脈で、ますます加速しているかもしれません。そのなかで、業務とシステムの関係というのは常に議論の対象になります。
それはまさに、業務に合わせてシステムを設計するのか、標準化されたシステムに合わせて業務を設計するのかという点です。企業ごとに経営環境や事情が異なる中で、求めることもそれぞれ異なります。その最適解をお客様に合わせて選択していくことこそがコンサルタントの価値であると考えています。
2:M&A
グローバルビジネスにおいては、M&Aが起点になって基幹システムを見直したり、展開するというケースも多くあります。特に国を跨いだM&Aの場合には、すでに相手の業務やシステムが存在しており、これをどのように活かしながらM&Aの効果を出してゆくのかというのがポイントになります。日本流のやり方をそのまま展開してもうまくいかず、かといって現地任せにするとガバナンスの問題を生じ、結果としてM&Aの効果を十分に発揮できないということになってしまうのです。
3:モダナイゼーションの本質
基幹システムの刷新という文脈で「モダナイゼーション」という言葉が使われることも増えています。しかし、本当に意味でのモダナイゼーションは新しいシステムを導入することではありません。それは始まりにすぎず、そこからどれだけシステムを活用して、次の段階のお客様のビジネスに貢献できるのかにかかっていると考えるのです。導入後の様々な問い合わせに対応しながらユーザーの業務も含めて効果的に刷新し、常に環境の変化に合わせたシステムの活用を支援してはじめてパートナーと呼んでいただけるのではないでしょうか。
4:導入と運用
モダナイゼーションの話につながりますが、やはりお客様から見るとシステムの導入ははじまりであってゴールではありません。
ここから業務やビジネスの変革がはじまり、様々な不確実で予測できないようなことが現実に起きてしまっている現代において、システム基盤を通じて多様な変化を乗り切れることを支援していくという観点では、運用保守の役割は本当に重要です。NTTデータGSLでは、導入から運用までをワンストップで提供することが差別化要素であると考えていますが、まだまだ改善の余地があるという思いもあります。運用保守も含めたモダナイゼーションによって真の価値が発揮できると考えています。
5:エコシステム
SAPコンサルタントはSAPソリューションだけに精通している時代は過去のものになりつつあると感じています。それはSAP社自身の変化を見ていても感じるところです。
SAP社も「インテリジェントエンタープライズ」のコンセプトをもとに、デジタルコアと呼ばれるERPを中心に、様々な業務アプリケーションに加え、ユーザーエクスペリエンスなどの非トランザクション型のデータを扱う領域、そしてそれらのデータを活用するためのAIを含めたプラットフォームなど、そのソリューション領域が飛躍的に広がってきています。
さらに、すべてがSAPソリューションで完結するわけではないという現実のもと、ベストオブブリード型のソリューションセットの価値がクラウドソリューションの浸透とともに高まっていると思います。エコシステムという視点も今後のSAPコンサルタントに求められる重要なポイントであると考えています。
SAPの導入コンサルタントには、もはやERP導入の指南役だけではなく、お客様のビジネスを変革する基盤を、導入から運用保守を見据えてサポートし、それを見届けることが求められるようになっています。また、ERPを起点にしながらエコシステムを活用し、お客様のビジネスを支援するという視点を持っているということ今後ますます重要になってくると言えるでしょう。
次回は、NTTデータGSLならではの、グローバルの視点も含めた導入コンサルタントの実際についてご紹介します。
著者プロフィール
𡌶俊介(はが しゅんすけ)大学卒業後、1994年、日系の監査法人系コンサルティング会社に入社。SEとして会計システム構築および社内システムの構築を担当。
2001年、日本マイクロソフト(現)に入社、主に製造業向けプリセールスや製品マーケティングを約10年にわたり担当。
2010年、デスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化ソリューションを提供している最大手のシトリックス・システムズ・ジャパンに入社、約7年間にわたり、アライアンスやマーケティングを担当。
2018年より、NTTデータグローバルソリューションズに入社し、事業戦略推進部副推進部長として、マーケティング全般、人材育成に携わる。現在に至る。