セールスイネーブルメントの効果が出て、中途入社者の売上や離職率に良い結果が現れると、「事業拡大に向けてセールスの採用を加速したい」と考える会社は多いでしょう。私が所属するGA technologiesでも、2021年1月に64名だったRENOSYマーケットプレイス事業のセールスは、2023年7月には111名と、2倍近く増加しています。

一方で、「積極採用はしたいものの、急な増員をすると組織文化が変わってしまうのでは」と懸念する企業も多いと思います。しかし弊社では、急激な人員増加があっても創業時からの文化が変わったことはありません。それどころか、オープンワークが2023年に調査した「中途入社者が選ぶ『社員の士気が高い企業ランキング』」でも5位にランクインしています

どうすれば、組織のアイデンティティは維持しつつ、規模を拡大していけるのか。今回は、強いセールス組織の文化醸成と維持について考えてみたいと思います。

組織文化を醸成するには?

前提として、組織文化の醸成は一朝一夕にはいきません。もし社内に、バリューやクレドと呼ばれるような指針がない場合、その策定から始めることを強くお勧めします。ただし急いで決めるのではなく、まずは経営陣がしっかり話し合い、自社の文化を表す行動や、今後も変わることなく大事にしたい考えなどをわかりやすい言葉でまとめてください。出来上がった指針は、標語として飾るだけでなく、折に触れて行動を促すことが必要です。

「体験」を通じた価値観の共有

弊社の場合、創業時から「GA GROUP SPIRIT(以下、GAGS)」として9つの価値観をまとめ、大切にしています。ポイントは、事業部長や部長など、いわゆる上位の役職者が率先して実践するように徹底していることです。「組織はリーダー次第」、つまり組織がどんな方向に進むかは全てリーダーの在り方に委ねられているという考えの下、役職が高い人間こそGAGSに沿った言動をするように常に互いに指摘し合っています。

また、GAGSと新卒採用の連動も重視しています。日頃から「会社のDNAを受け継ぐのは新卒である」と社内に発信しており、新卒が中心となってカルチャーを紡いでいこうという風土があります。

こうした上位役職者と新卒が牽引する文化に“巻き込まれてくれる”中途社員を育てるために、セールスイネーブルメントも工夫をしています。具体的には、GAGSをただ言葉で伝えるのではなく、オンボーディング期間に実際に体験できるようにしています。

例えば、GAGSの1つに「WIN-X」というものがあります。WIN-Xとは、社内外のステークホルダーたちと共に成長し合う価値観と精神を指します。自己の成功だけでなく、会社全体の前進を追求する姿勢がWIN-Xです。これを体感してもらうために、まず3カ月のオンボーディング期間に中途採用の同期入社者でチームを作っています。そして、同じチームのメンバーが成約を獲得すると、セールスイネーブルメント担当者が「〇〇さんが成約したから、ぜひチームで祝ってあげて」と他のメンバーに声をかけます。すると2回目以降は、セールスイネーブルメント担当者に言われなくても、自然とメンバー同士が「おめでとう!」と声を掛け合うようになります。

「自己の成長だけでなく全体の前進を追求」「共に成長し合う」といった言葉だけではピンと来なくても、こうした体験を通じて自社が大切にする価値観を共有できるようにしているのです。

同様に、チームで「LEADERSHIP」も体験してもらっています。LEADERSHIPは、「役職や肩書に関係なく、メンバーそれぞれが自ら行動する意志と行動力」を意味するGAGSです。中途入社の場合、前職までの経験から「メンバーのモチベーションを高めたりするのは、上位役職者の仕事」と考えている方もいます。これを払拭し、LEADERSHIPの重要性を理解してもらうために、互いにモチベーションを高めるような発信をするように促しています。

このように、組織文化を維持・発展させるためには、言葉で伝えるだけでなく体感してもらうまでをセットで考えます。そしてもちろん、セールスイネーブルメント担当者自身が、自ら模範を見せ、何度もしつこいくらいに言い続けることも非常に大切です。組織文化の醸成は「これさえやればいい」という単発の施策は存在せず、「常にやり続ける」という意思が必要です。

採用と育成はセットで考える

セールスイネーブルメント担当者は、中途採用担当者との密な連携が必要です。「組織文化を維持・発展させたい」と考えるなら、中途採用における募集要件は、スキル以上に人柄や組織文化へのフィット度合いを重視しなければなりません。そのためにも、育成担当者と採用担当者が協力し合う体制は必須になります。

中途採用者を育成していて、「なぜこんな人を採用したんだ」と疑問を抱いたことはないでしょうか。これは、育成担当者と採用担当者の間で、求める人物像や、条件の優先度がずれていると起こりがちです。そうしたズレは、あらゆる部分に悪影響を及ぼします。

この記事は
Members+会員の方のみ御覧いただけます

ログイン/無料会員登録

会員サービスの詳細はこちら