昨今、地方活性化のために「ゲーム」や「アニメ」とコラボする自治体が増えている。中でも存在感をあらわにしているのは、「佐賀県」だ。
率直に言えば地味な印象の県だが、ゲームコンテンツとのコラボレーションは作品ファンから歓迎され、SNSを中心に話題を呼びグッズは即完売するなど、大きな成功を収めている。直近で行われた「Splatoon」とのコラボ「Sagakeen」は、冬の港町・佐賀県の呼子まで1万人を超えるゲームファンを連れてきた。
「Sagakeen」コラボなどを展開する「サガプライズ!」のプロジェクトリーダー・金子氏(左)、プロデューサー・田中氏。中央にあるのは、「Sagakeen」コラボに使われたモニュメント「いかぐるぐる」 |
ストレートなダジャレをタイトルとして一躍話題となった「ロマンシング佐賀(サガ)」。その第二弾の後に、まったく違うゲームメーカーと協業し、またも成功を収めるその裏には、どんな仕掛けがあったのか。「ロマンシング佐賀(サガ)」、「Sagakeen」をはじめ、佐賀県の情報発信企画を手がけるプロジェクト「サガプライズ!」におけるエピソードを伺う中で明らかになったのは、「対等」に「本気」でやることの大切さだった。
第2回では、都内で行う型にはまらない"地方創生"の取り組みについて聞いた。最終回となる今回は、「Sagakeen」コラボで特に大人気だった伝統工芸・唐津焼で作られたコラボ焼き物などのエピソード、そしてコラボ企画を成功させるための秘訣を、プロジェクトリーダーの金子氏とプロデューサーの田中氏に聞いていく。
――「Sagakeen」では、呼子のイベント会場で、ユニークな試みをされていましたね。クリスマスツリーに干物のオーナメントをつるし、来場者が持ち帰るというのはかなり斬新でした。
田中: この「イカすクリスマスツリー」、実はもともと地元で10年くらい前から行われていたイベントをコラボ用に焼き直して、デザインだけを変えたものなんです。
もともと観光地として頑張っている土地柄なので、せっかくなら今ある企画を、Splatoonと併せて話題にしたほうがいいだろうと。もともと呼子は佐賀県を代表する観光地の一つで、お客さんが多く来てくださっている土地です。
海際の町ですし、観光遊覧船もある。ケンサキイカの旬は夏から秋までのシーズンで、夏はにぎわいます。ですが、冬になるとやはり寒く、とれるイカの種類が変わるなどの要因があり、動員数が落ち込んでしまうんです。冬には冬の良さもあるのですが。Sagakeenを冬に開催したのは、閑散期に当て込むことで、冬場の落ち込みをわずかでも解消できたらと考えたからです。
金子: そもそも、元のイカすクリスマスツリー、冬場の観光客の人手の落ち込みを何とかするために試みられたものだと聞いています。このコラボによって、多くの方に冬場の呼子を知っていただいたのは大きなことですね。人口は5000人程度の町ですが、このコラボで1万人以上の観光客の方に来ていただけましたから。
任天堂さんと本気で取り組んだことで、観光誘客につなげられたのはすごく大きなことだと感じています。
田中: 今回のコラボで、平日に朝から若い人がグループで呼子のまちを観光してくださっていました。これは、今までの呼子にはなかった風景なので、今後にもつながるようにしていきたいです。
呼子会場では、スタンプラリーも実施(画像左)。対象店舗でサザエの壺焼きを注文するとSplatoonに登場する「スーパーサザエ」ステッカーがもらえる企画も盛り込まれ、サザエに関係の深いキャラ・ダウニーの看板も立てられた(画像中央)。スタンプラリーの台紙と、両企画の景品となったステッカー(画像右) |
――東京タワーのショップも、人が集まりすぎて初日はいったん物販を締め切ったとも聞きました。
田中: はい、Splatoonの人気は承知していたつもりだったのですが、初日は平日・悪天候と決していい条件とは言えない中、とても多くの方に集まっていただけて。正直なところ、平日にあそこまでの人手になるとは思っていなかったので不手際も多く、お叱りのお声もありました。それを反映して、東京では開催2日目から運営方法を変えました。その後展開した呼子でのイベントでも教訓を生かして万全の体制で待ち構えたので、大きな混乱もなく運営できたかと思います。
東京と佐賀の両方に来てくださった方もいらっしゃいました。中でも印象的だったのは、唐津焼の箸置きを入手するために東京タワーの店舗に来てくださったそうなのですが、目の前で売り切れてしまった方です。何としても手に入れたいということで、呼子まで来てくださって。唐津焼はハンドメイドなのでどうしても多く作れず、お求めのお客様に行き渡らなかった面があり大変申し訳なかったのですが、その方には「リベンジしにきました」と言っていただけて、ありがたかったです。
ご来場いただいた方のお声を聞いていると、きっかけは当然Splatoonでいらっしゃるのですが、「呼子の町自体を楽しめた」、「イカもおいしいし、スプラ丸での七ツ釜での探検も楽しかった」、「朝市での地元の方との会話も楽しかった」だとか、佐賀県が持っているもともとの魅力のファンになっていただけたようなコメントもいただけています。こういった反響は、われわれとしてもとても嬉しく思います。
――ゲームとコラボするとなると、そのタイトルらしさが非常に大切になると思います。それと自治体としてプッシュしたい要素を企画としてかたちにするのは非常に力のいることと思いますが、どうやってそのバランスは実現されたのでしょうか?
金子: お互いが「本気」というところでしょうか。本気でぶつかりあって、企画を作り上げていくようにしています。
ゲームのこと、そのファンのことを一番よく分かっているのは、当然コラボ先のゲームメーカーの方です。僕らだけでは分からないところまで、深く理解されています。例えば、制作物等のデザインチェックでご指摘をいただいた時に、リテイクの時間などの障壁にひるまずに、そこで妥協しないことが一番大事だと思っています。
しかしその一方で、僕らの目的は佐賀県の情報発信なので、イベントで自治体の良さを知っていただけないと意味がなくなってしまいます。なので、僕らが企画に織り込みたいモノを本気でプレゼンします。すると、ゲームメーカーの方からも、率直な反応がいただけて、結果、ファンの方に「欲しい」と思っていただける商品ができあがる。クリエイターの方々の目利きも大切にしながら、こちらも織り込みたいことを主張する。両者が対等に戦うことが大事かなと思います。
やはり、ファンには「これ、本気でやってるな」というのがいっぺんで見透かされてしまいます。プロジェクトリーダーの立場からの発言になりますので、交渉を担当する田中からすると頭を抱える部分かもしれないのですが、ここは妥協できないところだと思っています。
――確かに、既存イラストを使った商品でも、商品1つひとつに工夫やこだわりを感じます。商品企画自体でいえば、「タコワサ将軍のタコワサ、(任天堂からして)オッケーなんだ」というところも…。
金子・田中: (笑)
ゲーム中では強大な敵として立ちはだかったタコワサ将軍だが、コラボ商品では「料理」されてしまっている(左)。共に展開されたのは、ゲームに登場するアイドル「シオカラーズ」の塩辛(右)で、ファンなら2つ一緒に買いたくなるだろうラインナップだ |
――また、イベントで人気を集めていたイカの箸置き、そして第二弾の小皿は、唐津焼という伝統工芸で作られていて、独特の味わいがありますね。
田中: このイベントをやっている呼子という地域は唐津市にあり、唐津焼はこの市を中心としたの伝統工芸品です。歴史ある焼き物なのですが、これまで唐津焼はコラボ企画に含められていなかったんです。
有田焼は大量生産もしやすく、これまでも「佐賀県の一品」として、さまざまなコラボ企画で取り入れてこれたんです。ですが、佐賀の情報を発信する立場としては、「唐津焼もやっぱり使いたいよね」という思いは持っていました。今回、唐津焼の産地の中にある呼子という地区でイベントをやるのであれば、何とか企画に織り込みたいと思いました。
金子: 任天堂さんからの反応もとても良かったんですよ。コラボ実績はこれまでなかったので、企画と関係のない、「ふつうの」唐津焼を見本としてお見せしたんです。色遣いがカラフルなSplatoonと結びつかないとおっしゃるかもしれないと思いきや、「いいですね~」と言っていただけて。ただ、手法上色がつけられないので、どうやってコラボしようかと悩みましたが、その部分についても、「このクラシック感、渋さとゲームという新しいコンテンツを組み合わせると面白い」と言っていただけたのは嬉しかったです。
――当初のご心配に反して、箸置きは大人気だったようですね。
田中: 先ほど申し上げた通り、ハンドメイドなので大量生産はできなくて、ご用意できる数がかなり限られてしまったという点もあるのですが……。
唐津焼も窯元の大小があるのですが、今回引き受けてくださった窯元さんはおひとりでされているところで、ほかのお仕事もたくさん請けられている中でお願いをして作っていただいたこともありまして、今回出した以上の数は難しかったんです。
金子: 唐津焼の箸置きとお皿については、任天堂さんにも際に窯元まで足を運んでいただきました。ゲームと伝統工芸という異なるジャンルではあるものの、同じクリエイターということで琴線に響くものがあったようで、仕上がりをとても気に入っていただけて。
Sagakeenコラボはまさに「三方良し」と言える、正直なところ珍しいケースだと感じています。地元、コラボ先企業、ぼくたち自治体サイド全員がいいゴールに迎えたのは、やはり本気で3者がぶつかりあった結果だと思います。
――これまでの質疑にちりばめられているとは思うのですが、コラボ企画を成功させる秘訣について、ポイントをお伺いできないでしょうか。
金子: ひとつは企画を持ちかけ、実施するスピード。もうひとつは、ゲームのことを知るか知らないかだと思います。
僕はロマサガ世代だったので「ロマ佐賀」は自然に企画が理解できましたが、Splatoonは田中に教えられたタイトルでした。新しいコンテンツが出てきたときに、どういうゲームか自分自身がやってみるか否かがひとつポイントだと思います。
田中: 私としても、自前で企画を考えているかどうか、だと思います。自分で考えると細部まで追求したくなりますし。本当のファンの方はそのあたりのクオリティまで見られると思うので、あまりまがい物のようなものは作りたくないなと。
金子: そして、コラボ企画は積み重ねだと思っていて。次にやるコラボも、今回で勉強させていただいたことが反映できるようにします。経験しないとなかなか分からないですね。仮に佐賀県内でイベントを行ったとしても、県外からの集客はなかなか難しいことですが、Splatoonとのコラボではこんなに多くの方に、自発的に来ていただけた。この体感は佐賀県庁にも共有しています。
――最後に、まだ佐賀県に来たことない人に一言お願いします。
田中: 佐賀県に来てもらえるきっかけをどんどん作っていくのが私達の事業なんです。これからも、佐賀県に興味をもってもらうためのしくみを考えていきたいです。
来ていただければ、佐賀の魅力に気づいていただける。また来たいと思っていただけるようなものはすでに佐賀の中にあるという自負はあるので、一度来ていただけたら、ファンになっていただけるように、情報発信も、コンテンツの磨き上げも同時にやっていきたいです。
金子: 東京を中心にしたコラボ企画の立ち上げだけでなく、東京と佐賀を行き来しながら、ネタを拾ってくるようなことをさせてもらっています。地元の新聞などで情報収集はしているものの、いま道の駅でのヒットしている商品まではなかなかキャッチアップできていません。リアルに食べて、見てみないとわからないことも多いですから。
事業が軌道にのってきたおかげで、県内企業の方がオフィスにいらして、自社商品を置いていってくださることも増えました。フランクな土地にオフィスを構えることで情報を持ちこんでいただける。逆に、僕らもなるべく新しいネタを佐賀から引っ張ってくるということを、これからも徹底していきたいです。
(C)2015Nintendo