本連載ではこれまで、SaaSビジネス全般、最近特にSaaS業界で注目を集めているプロダクトマネージャーの仕事について解説してきました。本稿は、セールスイネーブルメントについてチームスピリットでの取り組みを踏まえながら3回にわたって解説する記事の2回目です。
今回は、当社(チームスピリット)でのセールスイネーブルメントの取り組みについて、どのような育成プログラムを実施しているのかを具体的に紹介します。
セールスイネーブルメントとは、営業社員のスキルを底上げし、目標を達成し続けるための育成の仕組みです。強い営業組織を作るために必要な考え方であり、セールスイネーブルメントを導入することで組織がどう変わるのかを紹介します。
営業人材が育たないのはOJTのせい?
「営業人材が育たない」という課題を抱えている企業は多いと思います。チームスピリットも、営業人材のスキルや結果の差を感じていました。何より、結果が出ない人は途中で離脱してしまうという大きな課題も抱えていました。実は、これは本人の問題ではなくOJT(On the Job Training)に頼りすぎていた人材育成の方針に問題があったようです。
中途採用の営業社員が利用できる教育用コンテンツは、動画など社内に豊富にありました。製品理解のための資料、お客様からよくある質問をまとめたFAQ、カタログなどが整備されていましたし、社内には営業に関連する参考図書を幅広く揃えていました。当社では、それを各自で読んで学習してもらうことにしていました。
OJTでは、先輩社員一人が中途採用社員のメンターとなり指導します。当社の営業についてメンターから教えてもらい、商談に同行して3カ月間の試用期間を過ごします。現場での仕事を通して営業の流れやトークを学んでもらうやり方です。
しかし、このやり方を続けた結果、上記のようなスキルや結果の差につながっていることが分かりました。会社が取り揃えたコンテンツ資料は基本的に自習用なので、どの順番で読むかや、特にどこが重要なのかは自分で判断しなければいけません。また、その理解度を確認する機会もありませんでした。そのため、人によって理解度に差がありました。
つまり、属人的な人材育成になっており、オンボーディングがきちんと機能しているとは言えなかったのです。同じような状況の企業は多いと思います。
当社では今後人材採用を拡大していく計画を立てていますが、このような状況では採用ができても育成が進まず、いつまでも社員が独り立ちできないため、結果としてお客様にご迷惑をお掛けしてしまうのではないかという危機感がありました。そこで、まずは中途採用社員をしっかり育成するためのコンテンツを、セールスイネーブルメントの担当者に用意してもらうことにしました。そして、短くても3カ月間は伴走して理解度を確認しながら育成を進めるプロセスに変えることにしました。
セールスイネーブルメントの育成プログラムの具体事例
セールスイネーブルメントを導入する際に、何に重点を置いて育成コンテンツを用意するべきかは会社によって異なります。ここでは、チームスピリットでの例を元に、どのような考えでコンテンツを用意したのかを紹介します。
・Salesforceのシステムの理解
チームスピリットが提供している「TeamSpirit」はSalesforce上で動いているため、TeamSpiritだけを理解していても解決できない問題が生じます。よって、Salesforceのシステム管理者が持つべき基礎知識であるシステムの設計や、登録、設定可能な範囲などを理解しておく必要があります。
・TeamSpiritの機能
Salesforceを理解した上で、TeamSpiritで何ができるのかを学びます。SaaS(Software as a Service)はお客様の個別の要望通りにはカスタマイズができないので、お客様の課題をTeamSpiritで解決できる状態まで落とし込む必要があります。その際に、製品知識が必要になります。また、製品知識だけでなく、デモンストレーションを通じてお客様に製品の魅力を伝える力も付けないといけません。
・人事労務管理の仕事
TeamSpiritの機能だけを覚えても、ユーザーである人事労務管理担当者の業務を理解していなければ、お客様の課題に寄り添うことはできません。労務管理、給与計算、法令などの基本知識が必要です。
・セールスメソッド(商談を進めるためのスキル)
サービスの提案段階においては、競合他社と比較した場合の強みや、他社製品との違いなどをしっかりと説明できる必要があります。交渉段階では、サブスクリプション契約の投資対効果について説明する能力が求められます。サブスクリプションモデルのサービスは年間で見ると安く見えますが、1年使って終わりというものではないので、数年間で見た投資対効果を提案できる必要があります。
他にも、営業のフェーズによって学ぶべき内容はありますが、最初の3カ月間で確実に身に着けておきたい知識が上記の4項目です。これらが基本知識として身に付けられるようにトレーニングプログラムを作りました。
これら4項目のコンテンツを3カ月で学びながら、その間に4回のテストを実施します。先に述べたように、コンテンツが豊富でも理解度をチェックする仕組みがなければ、人によって知識や能力にばらつきが生じます。テストの内容を踏まえてコーチがフィードバックし、必要な知識を確実に身に付けてもらうようにしました。
当社では、1月にセールスイネーブルメントを立ち上げてコンテンツを整備し、現在までにオンボーディングプランを実施した人は2名です。以前は独り立ちまでの期間は平均約5カ月でしたが、1月からオンボーディングを開始したメンバー2人は2カ月目で契約まで進められるようになりました。今後もしセールスイネーブルメントの人数が増えても、従来の方法と比べて独り立ちまでの期間は1.5~2倍は早くなるだろうと期待しています。
今後は、どのような知識があればお客様に適切な提案ができ、貢献できるかを考えてブラッシュアップしていこうと思っています。
セールスイネーブルメントを実現するために必要なツール
ここで、セールスイネーブルメントを実現するために当社が使っているツールをいくつか紹介します。
・SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)
セールスイネーブルメントを実現するには、まずは営業社員全員の営業活動データを管理するためのSFAや、CRMを導入することが必須です。これにより、誰がハイパフォーマーなのか、そして、誰がそうでないのかが分かるようになります。また、セールスイネーブルメントの施策の結果が、効果があったかどうかを検証できるようになります。
・コンテンツ共有のためのシステム
セールスイネーブルメントのコンテンツはオンラインで提供しているので、共有ツールを使って一箇所にコンテンツを集約する必要があります。コンテンツの編集やコメントが可能で、逐次アップデートできる機能があると良いでしょう。ハイパフォーマーのプレゼンなど動画系のコンテンツも有効で、動画プラットフォームの活用も良いと思います。
・コミュニケーションツール
チャットツールでセールスイネーブルメントの専用チャンネルを作り、対象者へ日々のフィードバックをしたり、新しいコンテンツのリリースをお知らせしたりします。
・テストツール
コンテンツを通して学んだことが身に付いているかを確認するためにテストを実施します。テストができればどんなツールでも構いません。
今回は、当社でのセールスイネーブルメントのプログラムについて具体的に紹介しました。次回はセールスイネーブルメントを推進する人材の選定や継続するための運用についてお伝えします。