近年はカスタマーサクセスの役割に注目し、新たに担当部署を新設する企業も増えています。そこで、今回から3回にわたり、カスタマーサクセスに求められる役割や、組織と人材のあり方などについて解説します。

カスタマーサクセス部門を新設

筆者は現在、チームスピリットのカスタマーサクセスディビジョンの執行役員をしています。当社(チームスピリット)では、カスタマーサクセス担当部署が2022年12月にディビジョン(本部)として独立し、現在は2~3年後を見据えて体制を整備しているところです。

筆者は前職ではシステム保守、システム開発、プロジェクトマネージャーなどを経験しました。お客さまとのコミュニケーションが得意だったことからプリセールスの担当となり、導入を検討している見込み顧客のところに営業担当者と共に出向いて、技術面での交渉を引き受けていました。そうした中でチームスピリットの代表と仕事をする機会があり、それがきっかけとなり2013年に入社しました。

当社は2022年12月までは1つのディビジョンの中でセールス、導入、カスタマーサポートを管轄していましたが、カスタマーサクセスディビジョンを新設し、筆者は執行役員としてその責任者に就任しました。

カスタマーサクセスを担当する本部を新設した最も大きな理由は、サブスクリプション型のSaaSが成長していくためには顧客満足度を高めて長く使ってもらい、ライフタイムバリューを最大化すること不可欠だからです。顧客満足度は製品の成長にとっても、会社の経営にとっても、重要なファクターです。よって、そこに専門的に取り組み、お客さまと向き合う部門が必要だと考えました。

カスタマーサクセスディビジョンの役割は、お客さまに「TeamSpirit」という当社のプロダクトの価値を感じていただき、長く使ってもらうための活動をすることです。現在は業務プロセスをブラッシュアップし、これまで以上に質の高いサービスを安定的に提供できるよう整備しているところです。

カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い

まず、「カスタマーサクセス」とは何かについて考えてみます。よく混同されがちなのが、「カスタマーサポート」です。カスタマーサポートの役割は、お客さまから問い合わせを受けて、それに回答することです。問い合わせがあって初めて動くので、リアクティブ(待ち)な活動です。

反対に、カスタマーサクセスは待つばかりではなくこちらから積極的にお客さまとコミュニケーションを取って、お客さまから問い合わせを受ける前に困りごとや課題を聞いて、能動的に動いていきます。どちらが良い悪いではなく、役割の違いなのです。

カスタマーサポートの経験者はカスタマーサクセスにも対応できそうですが、必ずしもそうではないと思います。問い合わせがあったときに内容を迅速に把握し、適切な回答をするという活動と、お客さまに困りごとはないかとコミュニケーションをする活動は体や頭の使い方が異なります。

カスタマーサポートはお客さまから求められるサービスであり、一方、カスタマーサクセスはお客さまに長く価値を感じてもらうためにプロアクティブにお客さまとコミュニケーションを行う活動です。

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なぜSaaS業界にカスタマーサクセスが重要なのか

一般的に、カスタマーサポートのKPIは問い合わせへの対応件数や、問い合わせを受けてから回答するまでの時間に設定されます。対するカスタマーサクセスはお客さまから課題を聞き出して回答したとしても、それはKPIにはなりません。カスタマーサクセスの活動においては、回答した結果として顧客ロイヤリティを上げ使い続けているかどうかや、ライフタイムバリューを最大化できたかどうかが問われます。

当社はチャーンレート(解約率)とアップセル/クロスセルをカスタマーサクセスのKPIとしています。お客さまの満足度が高ければ長期の契約になるだけでなく、利用頻度や利用範囲が広がって、ライセンス数の拡大、クロスセル、アップセルにつながるはずです。サブスクリプション型のSaaSビジネスにとって顧客満足度を上げることはとても重要です。

顧客満足度を上げるには、まずはお客さまのことを深く知る必要があります。何を提供すればお客さまの成功につながり、長く使ってもらえるのかを知ることがカスタマーサクセスの第一歩です。そして、お客さまが今どういう状態にあるかを知るために、その情報を収集します。お客さまを深く知り細部までこだわったコミュニケーションを設計していくカスタマーサクセスが重要なのです。

「お客さまを知る」とはどういうことか

「お客さまを知る」とは、具体的にはどういうことでしょうか。少なくとも以下の内容は知っておくべきです。

・お客さまが目指す姿
・お客さまとのコミュニケーション履歴
・サービスの利用履歴
・担当窓口となる部署、担当者の人柄
・現在の満足度
・予算の判断プロセス
・予算決めの時期

お客さまの過去の状況だけでなく、そのお客さまが現在どういう状況にいるのか、将来的にどう変化する可能性があるのかを知ることがカスタマーサクセスには求められます。これらの情報を踏まえてカスタマーサクセスの活動がスタートします。

こうした情報を収集する手段は、お客さまとのコミュニケーションです。お客さまと何回接したのかや何時間接点があったのかなどのコミュニケーションを設計し、その実施状況をモニタリングしていくことで、お客様をより深く知っていくことができます。

次回は、カスタマーサクセスディビジョンの組織や求められる人材、組織で準備するべき事項について解説します。