競争優位を実現するRPA:環境変化に応じて迅速に適応するプラットフォーム
RPAは組織全体の生産性向上やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を期待されてきた背景があり、業務の自動化においては、業務を単なる従業員のオペレーションとしてみるのではなく、プロセスとして扱う視点が重要だと解説してきました。
今回は、業務をプロセス視点でとらえ、組織が生産性向上やDXを推進するということは、どういうことなのか事例を交えて解説したいと思います。単なる業務オペレーションの自動化に陥らない、新たな価値創造による競争優位を実現するための RPA 活用であり、「幻滅からの脱却」に重要なポイントです。また、それらの事例からRPA に求められる重要な機能性ついても考えてみたいと思います。
大きな成果を収めるプロジェクトの視点
成功するプロジェクトの多くは、従業員のオペレーションを単にロボットに代替させるのではなく、RPAがどうやって事業・ビジネスに直接貢献するのかという視点を持っています。また、業務の再設計(業務の在り方の再検討)にまで踏み込んでいます。
つまり組織全体が抱える優先度の高い課題の解決や、顧客に対する価値提供などがゴールとして設定されており、業務プロセスの再検討と合わせて、それらのゴール達成のためにいかにRPAを活用するのか、という視点があります(既存の業務をロボットに代替させることで、単に個人の労働時間の短縮を目指す話とは大きく異なります)。
こういった視点でプロジェクトを考えるには、まず組織として優先度が高い課題や、顧客に対するどんな価値を提供する必要があるのかを把握しておく必要があります(このような観点でも、組織の経営者・マネジメント部門がプロジェクトに関与していることも1つのキーとなります)。
また、既存業務を単に自動化するのではなく、一旦、既存業務のあり方を忘れて考え直すことがポイントです。例えば、大量の作業を高速に行える労働力が手元にある前提で業務を見直してみると、緊急度の高い組織の課題が解決できないか?また、AIなどの新技術を活用する前提で業務を考え直すと新しい価値やベネフィットをお客様に提供できるのではないか?という風に考えてみるといいかもしれません。
まさに、組織として変革しなければならない課題認識や目的があり、それを実現するための手段として RPAを検討するわけです。この考え方に立脚すると、RPA はまさに競争優位を実現するためのプラットフォームと位置付けられるようになってきます。
課題解決やビジネスに貢献するプロジェクト
では、このような視点に立脚したお客様のシナリオ例をいくつか見ていきましょう。
サービス業は、顧客満足度の向上が最優先事項の1つとなります。あるサービス業では、すべての技術トラブルに対して、技術者を派遣し調査・解決していましたが、RPAを導入し、本当に技術者が必要となるケースだけを洗い出す分析プロセスを入れることで、問題解決までの時間を削減しました。結果として、顧客満足度も向上しました。もちろん、派遣する人員の削減によるコスト低減により費用対効果も得ることができましたが、重要なポイントは単なるコストの低減ではなく、顧客満足度向上という価値創造の視点に立っている点です。
また、製造業においてはプロセスイノベーションの追求が高い収益と競争優位を確保する上で重要です。ある製造業では、従業員が目視による抜き取り検査で検品をしていましたが、RPAにより画像認識と機械学習による全品検査を含めた検品プロセス全体の自動化を図り、製造工程のスピードと品質を改善し、プロセスイノベーションを実現しました。
RPAは、部品や品質データの入出力や機械学習の呼び出しを行うなど全体統括の役割を担っています(本来のRPAの用途を突き詰めると、製造現場の自動化にも適応でき、個人のデスクトップ上の業務をロボットが代替するような自動化プロジェクトとは差があることもお分かりいただけると思います)。
また、ある製薬業ではRPAと自然言語処理の技術を活用し、膨大な顧客との会話を分析してコンプライアンス上のリスクを排除する取り組みを行いました。さらに、ある製造業は同様にRPA と自然言語処理により、顧客とのやり取りから、調達における輸送スケジュール調整、コスト算出、業者の選定などを自動化することで業務ルールを徹底し、業務の透明性を高めた成功事例もあります。
これらは、従業員に代わりロボットが業務を行うことで、時間とコストが削減されましたが、重要な点は顧客との対話で生じるリスクを排除したり、透明性の高い業務オペレーションを徹底したりすることで安定した事業基盤を構築するというビジネス上の重要な目的があったことです。
競争優位を実現する業務オペレーティングシステム
上記のように、組織上の課題解決、顧客への価値創造という視点に立てば、RPA は戦略的に競争優位を実現するためのプラットフォームそのものです。では、この視点に立った場合、どんな機能性が RPA において重要になるのでしょうか。
1つは、競争優位のための重要業務が、RPA のプラットフォームで実装されるため、安全で安定していることが大前提となります。これはすでに述べてきたように、セキュリティ対策、コンプライアンス対応、安定稼働のためのさまざまな機能などが備わっている必要があり、個人用デスクトップで動作する仕組みでは実現が難しいものです。
2つ目は業務の見直しにおいて、新しい技術、例えば機械学習や自然言語処理などをうまく取り入れて差別化につなげることです。従って、RPAプラットフォームは日々進化する最新技術を容易かつ迅速に業務プロセスに組み込む機能が必要です。
ビジネス環境の変化は激しく、ビジネスニーズに対応するために、業務の見直しや新たな業務プロセスを模索することが頻繁に起きます。業務プロセスを変更するのに数カ月も要するようでは、競争優位を維持することは難しくなることから、この機能の重要性はお分かりいただけると思います。
まさに、RPAという業務用オペレーティングシステムに、AIなどの最新技術を数クリックでインストールして活用することで、業務プロセスをどんどん進化させていけるようなイメージです。
Blue Prismは、最新技術を容易に活用いただくために、Digital Exchangeというプラットフォームをご提供しております。このプラットフォームにアクセスすることで、業務プロセス全体を自動化、インテリジェント化するための最新技術を知ることは勿論、それらの技術を即座に導入するための連携技術やコネクタを簡単に入手できるようになっています。
今回は、RPA が組織全体の生産性向上、デジタルトランスフォーメーションの推進を可能にし、競争優位に直接貢献するために持つべき視点について考えてきました。また、この視点でRPAを活用した事例から、競争優位を実現するために、RPAに求められる機能についても整理しました。次回(最終回)は、RPAの今後の動向や関連する最新技術に関して解説します。
小林伸睦
Blue Prism株式会社
Japan CTO 兼 製品戦略本部長
製品戦略本部
2002年に大学院卒業後、サン・マイクロシステムズ(現在、オラクル)に入社。セールスエンジニアとして、さまざまなエンタープライズシステムの提案に従事する。2009年、シトリックス・システムズに入社し、セールスエンジニアリング、マーケティング、アジアパシフィックジャパン全体の事業推進を歴任しながら、国内のワークスタイル変革、生産性改善に向けた活動に注力。ワークスタイル変革にかかわる大型プロジェクト支援、テレワーク関連の政府プロジェクトへの参画・支援、そのほか講演、執筆なども行う。2020年にBlue Prism JapanのCTOに就任し、国内市場の拡大とBlue Prismの拡販に注力する。本社開発部門と連携しながら、国内の市場ニーズに応じた製品戦略、ロードマップの策定を行いながら現在、国内のエコシステムの構築に力を入れる。