序盤から攻めの勝負のラウンド・オブ14 - 室屋選手は着実に突破
本戦1回戦のラウンド・オブ14は、14名の選手が7組に分かれての一騎打ちだ。4組目、先に飛んだマクロード選手は1回目の宙返りで12Gをオーバー、あっさり失格となってしまった。もちろん、マクロード選手が下手なわけではない。相手が室屋選手だから、ギリギリを攻めなければ勝てないという判断だ。室屋選手はゴールさえすれば勝てる状況だが、予選とほぼ同じ53.417秒の好タイムで確実に勝ち抜いた。
一方の「親友」ドルダラー選手は、予選に続いて最速の中間タイムを出し続けたものの、最後の水平ターンでまさかのオーバーG。「横ひねり宙返り」の最中ではなかったものの、充分に勝てるタイムを出しながら最後まで機体をコントロールしきれず、ラウンド・オブ14敗退。シンプルなコース取りで精密なコントロールを狙う室屋選手と、明暗を分けてしまった格好だ。
気温上昇、機体性能も勝負のラウンド・オブ8
続いて2回戦のラウンド・オブ8で室屋選手と対決するのは、今年からレッドブル・エアレースのマスタークラスに昇格したベン・マーフィー選手(イギリス)。本戦前に室屋選手が「速いですね。(自分が勝つには)余裕があるかと思ったけれどそうでもない」と評価していた通り、ラウンド・オブ14を見事に勝ち抜いてきた。
しかしこのラウンド・オブ8の頃になると、肌で感じられるほど会場の気温が上昇してきた。エンジンの冷却が悪化しパワーが出にくくなったためか、どの選手も軒並みタイムが悪くなる。室屋選手の記録は53.981秒とラウンド・オブ14より0.5秒以上遅くなったが、マーフィー選手は1秒以上遅くなって54.860秒。確実にエンジンを冷却する機体改良もチームの力だ。昨年チャンピオン機の実力を見せつけてルーキーを下した。
「2位でいい」狙い通りのフライトで年間王座へ一歩前進
こうして決勝のファイナル4に勝ち進んだのは室屋選手のほか、昨年室屋選手と最後までチャンピオンを争い2位となったマルティン・ソンカ選手(チェコ)、年間4位のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)、そして年間9位ながら今回予選では2位と好調のマイケル・グーリアン選手(アメリカ)。予選トップのドルダラー選手が敗退したため、グーリアン選手はこの日ずっと最速タイムを出し続けている。
一番手で飛んだグーリアン選手の記録は53.695秒。気温上昇でパワーが落ちている中では充分な好記録だ。二番手のソンカ選手、三番手のチャンブリス選手とも54秒台で、グーリアン選手を上回れなかった。
最後の飛行順となった室屋選手。グーリアン選手の記録を上回ろうと勝負に出て失敗すれば、ペナルティを受けて4位に終わるリスクもある。「グーリアン選手に無理に勝つ必要はない」と判断した室屋選手は53.985秒で、狙い通りの2位を獲得した。昨年の上位陣をすべて抑えての2位入賞は、再び年間チャンピオンを目指す室屋選手にとって充分な順位。そして、リスクを冒しての無理な勝負に出ず、機体性能を信じて確実にコントロールすれば勝てるという、室屋選手の技術・精神コントロールとチームの総合力が見事に結実した「パーフェクトな戦い」だったと言えるだろう。
表彰式後の記者会見で感想を聞かれた室屋選手、「今まで2位になったことがなかったので、コレクションに2位のトロフィーが加わってうれしい」と上機嫌で語ったが、それは単なるジョークではない。昨年のレース展開からもわかるように、たとえ優勝する大会があっても、他の大会で下位になれば年間ポイント数は低くなる。1年間、すべての大会で上位に入り続けることは優勝と同じように難しいはずだ。初戦での2位入賞で、2度目のチャンピオンに至る確実な一歩を踏み出したことへの、心からの喜びだろう。
レッドブル・エアレース2018年シーズン、続く第2戦は4月21日と22日。フランスのカンヌで初開催される。