空を駆ける世界大会「レッドブル・エアレース」の2018年シーズン第1戦、アブダビ大会。昨年、初の年間チャンピオンに輝いた室屋義秀選手は2位に入賞し、2年連続チャンピオンの夢へまずまずのスタートを切った。
優勝できなくても、下位にならないこと
前回記事で解説したように、昨年の室屋選手は8戦中4戦で優勝を果たしたものの、初戦のアブダビ大会と第6戦カザンで0ポイントとなり、優勝2回のマルティン・ソンカ選手(チェコ)と年間ランキングでは接戦になってしまった。逆に言えば、優勝はしなくても上位に入賞し続け、下位にならないことこそが年間チャンピオンへの近道。昨年2大会連続優勝した千葉大会のあと「全大会で優勝なんてできないですから、優勝できなくても上位入賞し続けることが課題」と話していた。
本戦の組み合わせを決める予選タイムは53.404秒で3位だった室屋選手。トップのマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)は52.795秒で、大半の選手が53~54秒台を記録したことから、勝敗ラインは53秒台と予想された。ドルダラー選手と同期で親友でもある室屋選手は記者会見で「ずいぶん速かったけど、シーズンオフの間に何をやったの?」とジョークを飛ばした。
ライバルとルーキーを破り、貫録の決勝進出
本戦前、室屋選手は「アブダビ大会は場所ではなく、初戦ならではの難しさがある。シーズンオフの間に取り組んだことがうまくいくか、飛んでみるまで分からない。無難に昨年のままの機体で出場すればリスクはないが、我々はチャレンジするチーム。(0ポイントだった)昨年の反省も踏まえ、良い状態にできた」と、機体性能の高さに自信を見せた。
予選で決定された本戦1回戦の「ラウンド・オブ14」で室屋選手と相対したのは昨年ランキング3位のピート・マクロード選手(カナダ)。しかしマクロード選手が宙返り時のオーバーGで失格してしまったため、室屋選手は難なく勝ち抜き。上位選手を0ポイントに抑えて幸先の良いスタート。
しかしここで、予選トップのドルダラー選手もまさかのオーバーGで敗退。2016年チャンピオンから2017年の不調を乗り越えるかに思われたドルダラー選手、厳しいスタートとなった。
続く「ラウンド・オブ8」で室屋選手の対戦相手は今年初参戦のベン・マーフィー選手(イギリス)。ルーキーと言っても英空軍「レッドアローズ」のリーダーを務めただけあり、予選で54.351秒で9位だったため、昨年王者室屋選手も「結構速いですね、楽に勝てる相手じゃない」と話してはいたものの、約0.9秒の差をつけて貫録勝ちし、決勝戦「ファイナル4」に進出を決めた。
確実なポイント獲得へ、王者の余裕で2位入賞
「優勝しなくても上位に入り続ける」という目標通り、決勝戦まで勝ち進んだ室屋選手。ほかには昨年2回優勝し最後までチャンピオンを争ったマルティン・ソンカ選手(チェコ)、同じく2回優勝のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)と、昨年の8大会で優勝経験のある3人の選手全員が決勝に進んだ。もう1人はベテランながら昨年9位のマイケル・グーリアン選手。
ここで、一番手グーリアン選手は53.695秒という好タイム。気象条件の変化を感じていた室屋選手は「無理に1位を目指すより、確実に2位入賞することを狙って飛んだ」とのことで見事、53.985秒でソンカ選手とチャンブリス選手を抑え2位となった。
グーリアン選手は実に9年ぶりの優勝に満面の笑みを浮かべた。一方、優勝に固執せず上位に入り続けることで年間チャンピオン2連覇を狙う室屋選手にとって、昨年上位の選手全員を抑えての2位は、年間ポイントを考えると優勝に近い、大きな大きな2位だ。記者会見でも「2位は初めてなので、2位のトロフィーがコレクションに加わってうれしいよ」と、冗談を交えつつも大満足という表情を見せた。
続いて次回は、現地でのインタビューなど詳細なレポートをお送りする。