2017年、空を駆ける世界大会「レッドブル・エアレース」で自身はもちろんアジア人としても初の年間チャンピオンに輝いた、室屋義秀選手。1月18日、東京都内で今シーズンのスタートに向けて記者会見を開いた。
結果は圧勝、実際は辛勝だった2017年
室屋選手はまず2017年のシーズンを振り返った。終わってみれば8戦中4戦で優勝で「圧勝」にも見える。しかしその経過を見れば決して「楽勝」ではなかった。
第1戦アブダビ大会では1回戦の「ラウンド・オブ14」で敗退し0ポイントと、苦しいスタートを切る。「次のサンディエゴまで2か月あったので、機体のセットアップとトレーニングをやり直すことができた」という室屋選手は、第2戦サンディエゴ大会で自身2回目の優勝。第3戦の千葉大会では2大会連続、昨年に続いて2年連続優勝の快挙を果たし、年間ポイントでトップに立った。
千葉大会の後「全戦優勝できなくても、決勝戦に残り続ければチャンピオンになれる」と語った室屋選手はその言葉の通り、第4戦ブダペスト大会でも3位入賞するが、第5戦カザン大会では「ラウンド・オブ14」で敗退してしまう。「体調も完全ではなく、疲れも出てきていた。去年(大会直後)は天気が悪かったと言いましたけど、言い訳ですね」と振り返った。
さらに第6戦ポルト大会では練習中の着陸で機体を傷め、緊急修理するハプニングもあって6位に終わった。首位マルティン・ソンカ選手(チェコ)に10点差をつけられて年間ランキング4位になり、自力優勝が消滅してしまった。
背水の陣からの逆転チャンピオン
逆転へあとがない第7戦ラウジッツ大会。「まともに戦っても総合優勝には届かない。序盤から強敵とぶつかる(ライバルが早く敗退すればポイントを低くできる)ようリスキーな勝負をしました」と振り返る室屋選手だが、蓋を開けてみればシーズン3回目の優勝。首位ソンカ選手に4点差まで追いついた。そして最終戦、インディアナポリス大会。たとえ室屋選手が優勝してもソンカ選手が2位なら、年間チャンピオンはソンカ選手になる。
「楽しんでベストを尽くすしかない。あまりポイントとかチャンピオンとか考えすぎずに行ったのが良かったんだと思います」と振り返った室屋選手。「ラウンド・オブ14」でいきなり首位ソンカ選手と対決という驚きの展開には、「こんなことあるのかなと思いましたけど、なってしまったものはしょうがない。ここでチャンピオンが決まると思って飛んでいました」と振り返った。
そして見事破ったものの、ソンカ選手も敗者復活で決勝「ファイナル4」に残った。「勝ったと思ったらソンカ選手もファイナルまで上がってきて、面白くなってきましたね。タイトルよりも、もう1回対決できることが楽しかった」という室屋選手。最後は「いわゆるゾーンというような状態で、気付いたら信じられないタイムが出ていた」というように、圧倒的なタイムでインディアナポリス大会優勝、ソンカ選手が4位に終わったことで年間チャンピオンにも輝いた。
もっと速く! 機体改造は現在進行中
エアレースはモータースポーツと同じように、パイロットの技術だけでなく機体の性能も勝敗のカギを握る。シーズンオフの間に研究開発も進めているはずだが、今年の初戦では概ね昨年と同じ機体で登場するようだ。
というのも昨年、第6戦ポルト大会の前に機体構造の亀裂が発生。ライバルチームの手助けもあって緊急修理に成功し、シーズンを戦い抜くことができた。この「古傷」を完全に癒すため、室屋機は最終戦終了の翌日にはカリフォルニアの工場へ送られ、1か月にわたって完全な分解整備が行われていたのだった。
現在行われているのが改良型エンジンカバーの製作だ。エンジンカバーはプロペラ機の最前部にあり空気抵抗を左右するほか、空冷式エンジンのオーバーヒートを抑える冷却風のダクトでもある。「性能アップのための改良でも、失敗すればかえって性能を落としてしまう。慎重にテストしてから使いたい」(室屋選手)とのことで今年の第1戦アブダビ大会には投入せず、第2戦カンヌ大会を目標としているとのことだ。
もうひとつ、主翼の先端に取り付ける小さな翼「ウィングレット」は一昨年からの懸案となっており、昨年中には装備することができなかった。これも研究開発を進めており、今年後半の装着を目指している。
2年連続チャンピオンへ! 勝負のアブダビ戦
昨年は8大会中4大会で優勝しながら、2回優勝のソンカ選手と接戦になった室屋選手。千葉大会後に「優勝できなくても上位入賞し続ける」ことが重要と語ったように、上位入賞できず0点に終わった大会が2回あったことが大きな理由だろう。特に、第1戦のアブダビ大会は室屋選手が13位で0点、ソンカ選手が優勝で15点だったことが最後まで響いたとも言える。
2017年シーズンをパイロットとしても、機体性能でも最高の状態で締めくくったチーム室屋。今シーズンの初戦となるアブダビ戦で好スタートを切れるか、注目の大会だ。