千葉大会で室屋義秀選手が2年連続優勝し、注目を集めたレッドブルエアレース。その年間8戦の最終戦となるインディアナポリス大会が10月14日・15日(日本時間15日・16日未明)に開催され、室屋選手は見事優勝。そして年間ポイントでもトップになり、日本人初の年間チャンピオンに輝いた。
すでに速報をお送りしたが、現地で一部始終を見聞きした筆者がその戦いの全貌をお伝えしよう。
モータースポーツの聖地、インディアナポリス・モーター・スピードウェイ
レッドブルエアレース最終戦の舞台はインディアナポリス・モーター・スピードウェイ(IMS)。「インディ500」をはじめとする世界最高峰のモータースポーツ施設として、日本でもモータースポーツファンにはおなじみだろう。レッドブルエアレース・インディアナポリスはIMSの広大な敷地内だけで行われる。
筆者は現地時間10月12日午後にインディアナポリスに到着、15日の本戦まで取材して16日に現地を発つ予定を組んでいた。そこで天気予報を調べたところ、ほぼ毎日が晴天で最高気温は20度程度と過ごしやすそうな天気。ところが本戦のある15日だけが雨の予報だった。本戦が中止になれば、年間ランキング2位の室屋選手はチャンピオン奪取のチャンスを失う。この心配は本戦で、意外な形になって現れることになる。
フリープラクティスで勢いを見せた室屋選手
大会前日の13日はフリープラクティス(公開練習)が2回行われた。各選手はここで初めて実際のレーストラックを飛行する。本番を控えて攻めのコース取りを試すなど、最終調整の場だ。またこのレーストラックのタイムの目安や、ミスが起きやすいポイントを見極める場でもある。
気温20度前後で穏やかな風の中、多くの選手が1分4秒台から5秒台の記録を出し、このあたりが本戦の目安になった。そんな中、室屋選手は最短で1分3.913秒を記録(ただし、ゲート通過時に機体が傾く「インコレクトレベル」のペナルティで2秒加算され1分5.913秒)し、調子の良さを印象付けた。
インディ500の王者、佐藤琢磨が来援!
翌14日の午後は、3回目のフリープラクティスと予選が行われる。午前中には今シーズン限りで引退を表明したピーター・ポドランセック選手(スロベニア)の挨拶に多くの関係者が集まった。
さらに室屋選手の格納庫には、今年5月にインディ500で日本人初の優勝を遂げた佐藤琢磨選手が応援に駆け付けた。地元インディアナポリスのメディアにとっても、佐藤選手はわずか5か月前にこの場所で誕生した英雄だ。この日が初対面という室屋選手と佐藤選手は同じレーサーとしてすぐに意気投合したようだった。
予選で急ブレーキ、とんでもない展開へ
ところがこの日、室屋選手は急に調子を落とす。3回目のフリープラクティスでニコラス・イワノフ選手(フランス)が1分3.283秒と前日の室屋選手を上回るタイムを記録するが、室屋選手は1分6.367秒と大幅な遅れ。ライバルのソンカ選手も前日の1分4.354秒から1分5.766秒へとタイムを落としていた。
そして迎えた予選。飛行は年間ポイントの下から順だ。ここでも室屋選手のタイムは縮まず、実タイム1分5.732秒にインコレクト・レベルのペナルティ2秒を加えて11位となってしまった。最後に飛行したソンカ選手はペナルティこそなかったものの、プラクティスより1秒遅い1分5.463秒で4位。それでも室屋選手よりはやや速いのだが、予選をトップで通過したマット・ホール選手(オーストラリア)が1分4.149秒を出したことと比べると遅い。
注目される年間ランキングトップ2の不調は観客を嘆息させたが、それ以上に大きなどよめきが起こったのは予選の順位が室屋選手11位、ソンカ選手4位となったことだ。本戦の初戦「ラウンド・オブ14」は14人の選手が予選順に7組に分かれ、一騎打ちで勝ち抜きを行う。4位と11位はなんと、「ラウンド・オブ14」で対決する組み合わせなのだ。場内の実況放送は「アンビリーバブル!」と叫んだ。
ソンカvs室屋、頂上対決がインディを大混戦へ
室屋選手は年間ポイントで首位ソンカ選手と4点差だ。このため室屋選手がインディアナポリスで優勝しても、ソンカ選手が2位だとソンカ選手が年間チャンピオンになってしまう。室屋選手が2位以下の場合も同様で、ソンカ選手がひとつ下の順位だと室屋選手はチャンピオンになれない。しかし、「ラウンド・オブ14」でソンカ選手に直接勝つことができれば、室屋選手がチャンピオンになれる可能性がぐっと高まる。
チャンスが来たのは室屋選手だけではない。「ラウンド・オブ14」でソンカ選手が破れれば、3位のピート・マクロード選手(カナダ)や4位のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)にもチャンピオンの可能性が残される。ソンカ選手の対戦相手が室屋選手になったことで、インディアナポリス大会は4人の選手のいずれにもチャンピオンの可能性がある大混戦となったのだ。
予選の結果表。ペナルティを付与する前の純粋な飛行時間「NET TIME」を見ると、年間上位4名のソンカ選手、室屋選手、マクロード選手、チャンブリス選手が全員1分5秒台という接戦。勝負の行方は全く分からなくなった |
こうして迎える本戦の模様は、次回に続く。