ハイブリッド車というと自動車業界の専売特許のように思われそうだが、さにあらず。鉄道業界にもハイブリッド車が存在する。
普通は電気車でも気動車でも「動力源」と「ブレーキ」がワンセットずつあるものだが、ハイブリッド車は「動力源」が複数あるからハイブリッドという。ということは、その複数の動力源を巧妙にコントロールしなければ、ハイブリッド車の真髄を発揮することはできない。
ハイブリッド車で面白いのはエネルギーモニタ
私事で恐縮だが、筆者の実家で使っている車は「プリウス」である。このクルマの何が面白いかといえば、計器板にエネルギー源の供給・使用状況を表示しており、しかもその内容が走行状況に応じてリアルタイムで変化するところだ。
EVモードで走り出せばバッテリからの電力がモーターに流れ込むし、減速時に電力回生モードになればモーターで発生した電力がバッテリに流れ込む。バッテリの残量が減ると、自動的にエンジンが動き出して加勢する。等々。
鉄道車両のハイブリッド車も、基本的には同じである。ただし方式に違いがあり、「プリウス」はエンジンとモーターの両方をタイヤと結んで駆動力を伝達する「パラレル方式」だが、JR東日本で実用化しているハイブリッド車は「シリーズ方式」だ。
つまり、ディーゼル・エンジンは発電機を回すだけで、そこで発生した電力は電車と同様に、制御装置を介してモーターを回す。減速時にはモーターが発電機として機能して、そこで発生した電力は屋根上に積み込んだLi-Ionバッテリに蓄えておく。
Li-Ionバッテリの残量が十分にあれば、そのバッテリの電源だけで走り出すことができるし、バッテリの残量が不足した場合、あるいはバッテリだけでは出力が足りないときには、ディーゼル・エンジンが自動的に加勢して発電する。だから、走り出したときは静かなのに、途中からいきなりディーゼル・エンジンが動き出して賑やかになる、なんていうことも起こる。
小海線で運用しているキハE200型の場合、こうした電力の流れを可視化するために、車内にエネルギーモニタを設置している。本来なら、運転台のモニター装置で運転士向けに表示すれば済む種類の情報だが、ハイブリッド車であることをアピールするためだろうか。乗客向けに、客室にもエネルギーモニタを設けているわけだ。
ハイブリッドで難しいのは統合制御
ところが、必要に応じてディーゼル・エンジンを加勢させたり、必要がなくなったらディーゼル・エンジンを止めたり、Li-Ionバッテリの残量に合わせて制御を切り替えたりと、ハイブリッド車の動力系統を制御するのは複雑な操作を必要とする。
それを運転士の判断に頼り、手動で行わせるのは煩雑すぎるし、省エネ効果の多寡が運転士の技量や操作に依存してしまう。運転士が行う運転操作は通常の車両と同じにして、コンピュータが必要な制御を行うようにしなければ、実用的かつ有効なハイブリッド車は成り立たない。クルマも同じである。
だから、キハE200の運転台を見ると、普通の電気車や気動車と同様、左側に加速を指示する主幹制御器(マスコン : マスターコントローラ)、右側にブレーキ設定器を設置しているだけだ。ハイブリッド車だからといって特別に、ハンドルやスイッチがゴチャゴチャ付いているわけではなく、違うのはモニター装置の表示内容ぐらいである。運転操作も、普通の電気車や気動車と同じである。
しかし、客室に設けたエネルギーモニタを見ていると、前述したように、状況に応じてエネルギーの供給元が切り替わったり加勢したりしているし、減速に入れば、今度は電力回生ブレーキが機能して、運動エネルギーを電気エネルギーに変えてLi-Ionバッテリに溜め込んでいる様子が分かる。
なにげなく書いているが、こうした動作を円滑に実行するためのソフトウェアを開発・熟成する作業は、決して簡単な仕事ではないはずだ。コンピュータ制御化が当たり前になっている昨今の各種ヴィークルでは、ソフトウェアがちゃんとしないと、まともに走ることもできない。その究極の姿が、ハイブリッド式のクルマや鉄道車両ではないかと思う。
ちなみにキハE200のエネルギーモニタ、面白がっていろいろと写真を撮っていると、ときどき変な画を撮ってしまうことがある。おそらく、液晶表示の画面を切り替える瞬間とシャッターを切る瞬間が合致してしまったためのイタズラと思われるが、こんな写真が手元に残っている。
執筆者紹介
井上孝司
IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。