2015年8月、NTTデータは「スマートグラスを用いた現場作業の支援システム」を発表した。ディスプレイやスピーカー・カメラなどを搭載したメガネ型コンピューターを活用することで、現場作業者の業務効率を劇的に改善することが狙いだ。このシステムの開発の経緯とこれからについて、NTTデータ 基盤システム事業本部 セキュリティビジネス推進室 シニアスペシャリストの山田達司氏と、同室 ソリューション担当 主任の小山武士氏、同室 ソリューション担当 主任の谷澤幹也氏の3名と、プロトラブズ合同会社 社長 トーマス・パン氏らによる座談会を、前後編でお送りする。

メガネ型のコンピューターを利用した現場作業の支援システム

現場の課題解決を目指して

トーマス・パン氏(以下パン氏):本日はお忙しい中、ありがとうございます。まずは製品の説明からお伺いできますでしょうか。

NTTデータ 基盤システム事業本部 セキュリティビジネス推進室 シニアスペシャリスト山田達司氏

山田達司氏(以下山田氏):このメガネ型コンピューターを使ったシステムは、機器の保守や点検・修理をされる方が現場に赴かれた際に、遠隔からアドバイスや指示をもらいながら作業することができるというものです。

いま現場で作業されている方は、多くの課題をお持ちになっています。例えば機器の修理に行く場合ですと、原因が複数考えられるので関係しそうなマニュアルをたくさん抱えて行かなければならなかったり、実際に現場に行ってみたら想定と違って、資料を取りに一度戻らなければいけないことなどがあります。また、安全性が高く求められる作業やセキュリティが厳しい現場では、二人で現場に行くことが求められますが、その分スケジュール調整が大変ですし、人件費も増えてしまいます。

パン氏:私も以前の仕事では、機械保守に関して指示を出す立場におりましたので、そうした悩みについてはよく理解できます。

山田氏:こういった課題を、メガネ型のコンピューターとネットワークを使うことで改善して頂こうという狙いが私どものシステムにあります。ディスプレイやスピーカーがメガネに付いているので、遠隔からの指示を見聞きできますし、マニュアルを画像や動画で見ることもできます。また、カメラもありますので、写真やテレビ電話を通じて状況を確認してもらうことができます。

パン氏:そうですか。ベテランを後方支援に回し、そのノウハウを共有することで、大幅な効率化に繋がるという画期的なシステムというわけですね。

ハンズフリーへのこだわり

プロトラブズ合同会社 社長トーマス・パン氏

パン氏:(スマートグラスを着用して)自分のメガネに取り付けても、きちんとフォーカスが合うんですね。頭の動きに応じて画面がスムーズに連動し、これは面白いです。

小山武士氏(以下小山氏):ハンズフリーにこだわって、誰でも使えるユーザーインターフェースを目指しています。音声認識の他に、頭の傾きに合わせてマウスポインタが動く「ジャイロマウス」機能を搭載しています。

山田氏:タブレットやスマートフォンでも現場作業支援の試みは行われておりますが、両手が空かない場面はどうしてもありますので、ハンズフリーのニーズは確実にあると考えています。

パン氏:確かに、現場では、難しいシステムや装置の調整をする場合には「片手でAを押さえながら反対の手でBを上げる」といった両手を三次元的に動かす必要があったりしますね。私が管理者をしていた際、電話で正しい手順を伝えるのに時系列にて詳細な説明をする場合には、15分以上かかってしまうなど、もどかしい思いをしてきましたから、このシステムには非常に感銘を受けました。NTTデータさんはスマートグラスのハード部分ではなく、ネットワークのインフラストラクチャー部分を作られているという認識でよろしいでしょうか?

山田氏:そうですね。私どもNTTデータは基本的にハードウェアには携わらず、他のメーカーさんが作られているものを集めてソフトウェアを作り、ネットワークを構築して全体として動くシステムを提供しております。お見せしているシステムもこれだけでもちろん動くのですが、既存のシステムと連携して作業完了報告書を自動作成するという使い方もできます。システム全体を繋ぐような取組みをさせて頂いているわけです。

SF映画の世界を実現するために

パン氏:このプロジェクトは、どのようにして始まったのでしょうか?

小山氏:半分は、私と山田の趣味から始まったようなところがあります(笑)。

山田氏:我々IT屋は新しいものに目が無いものでして(笑)。とくにGoogleグラスが衝撃的に登場したので、「使ってみたい」「遊んでみたい」という思いが最初にあったことは間違いありません。その上で、この新しい機械にはどのような特徴があるのか、どういった使い方ができるのか、という議論をしていきました。

パン氏:ある意味、SF映画の世界を実現するガジェットですよね。

同室 ソリューション担当 主任 小山武士氏

小山氏:もともと我々はセキュリティの部隊でしたので、最初は機密情報を入力するために使えないか、といった観点で考えていました。ただ、セキュリティだけではどうにもビジネスに繋げることが難しかったのです。そこで、「そもそもウェアラブルデバイスを使ってどういった業務が効率化できるのか?」という点を、既存のお客様を中心に約200件ヒアリングさせて頂いた結果、現場作業を遠隔で支援する仕組みが望まれているということが分かりました。映像を共有する仕組みは既にあるのですが、監督者がずっと映像を見ていなくてはならないので負荷が高いんです。そこで、任意のタイミングでアドバイスや管理ができるように、映像の共有という部分以外の仕組みを充実させたものを出そうと考え、開発を始めていきました。

「とにかくものを作ってみよう」

パン氏:先ほどユーザーインターフェース(UI)にこだわっていると仰っていましたが、例えばスマホアプリの場合、1タップの動作を追加するだけで、その機能が使われなくなってしまうこともあると聞いております。UIの完成度をどのレベルまで上げるのかということを決定するのは非常に難しいと思いますが、この点については、どのように決められたのでしょうか?

山田氏:そういった意味では、我々は変わったやり方をしているかもしれません。あまり頭で考えたり話し合うよりは、「とにかくものを作ってみよう」というやり方です。製品としてお出しするならばともかく、最低限動く程度でしたら、優秀なエンジニアがいれば1週間程度でかたちにできます。幸い、メンバーに恵まれておりますので、うんうん悩むよりは動くものを実際に作って、お客様にお見せして話をしっかり聞くというやり方で進めて参りました。

パン氏:「思ったことがすぐにできる」という組織的な強さをお持ちなのですね。そうしてブラッシュアップされてできあがったこのシステムは、現状、どのように運用されているのでしょうか?

小山氏:まずは自分たちで使わなければ良し悪しが分かりませんので、社内で使っているコンピューターシステムの保守・点検に使い始めています。また既にいくつかのお客様と、本格導入の前にまずは評価をして頂きましょう、という話を進めております。実際の現場で利用して頂いて、導入は可能なのか、可能でなければどんな技術的課題があるのか、そういった評価を今年度末に向けてやって頂く予定です。

未来的なデバイスを用いた作業支援システム。実際に保守運用の現場ではどのように使われているのだろうか。また、マーケットに進出する上での課題は何なのか。後編ではシステムの「導入」にフォーカスを当ててお届けする。