パーツの設計をする際にその形状や使用する樹脂が、要求する機能を本当に満たすことができるのかを総合的に検証するためにも、試作が行われます。パーツの試作によって、実際にどのような形状に仕上がるのかといった見栄え、ぶつかった時の衝撃をどのように吸収するのかという強度、あるいは寸法安定性や摩耗性といったさまざまな側面の検証ができます。市場に送り出すにはふさわしくないような問題が見つかれば、形状変更や材料変更などの適切な対処方法を量産前に検討することになります。Protomold(R)短納期射出成形でギアを成形する場合のプロセスと設計にあたって考慮していただきたいポイントをご紹介してまいります。

図1:樹脂の選択はパーツ製造プロセスだけでなく、最終製品の品質に大きな影響を与えることがあります。

パーツに求められる機能がシンプルな場合には、樹脂の選択がそれほど重要ではないかもしれません。そのような場合には、汎用的でコストもかからず、成形しやすいABSやポリプロピレンが最適であると考えられるかもしれません。しかし、製品に使用される樹脂パーツに要求される機能は多様です。だからこそ、何千にも及ぶ多様な樹脂が存在しているのです。場合によっては、その樹脂に求められる用途が非常に特殊で、その目的のためだけに樹脂をブレンドしてカスタム対応することさえあります。そこまで要求が厳しくはないとしても、樹脂の選定がパーツ設計の中で重要であることに変わりはありません。

形状の設計を終えてから広大な「樹脂のスーパーマーケット」に、そのパーツに最適な樹脂を探しにいくことはできます。しかし、設計プロセスの初期段階で、あるいは設計を開始する前に、樹脂の候補を考えておいたほうが良い理由があります。どんな樹脂を使うのかということを念頭に設計を進めることは、設計における決定をシンプルにし、開発の後工程での手戻りのリスクを抑え、開発プロセス全体のスピードアップにつながるのです。

パーツに求められる機能が樹脂の選択に際しての重要な要素であることに間違いありませんが、成形性などを含む他の要素も考える必要があります。使用する樹脂をあらかじめ選択することで、その後の設計の方法に大きな違いが生まれるのです。例えば、単価の高い樹脂を選択しているのであれば、いかに不要な形状を削除するかにフォーカスを当てることができるでしょう。成形時の流動性の低いガラス繊維入りナイロン樹脂を強度の関係で使用しなければならないのであれば、設計においてはボイドやウェルドラインの発生につながる可能性のある形状を作らないようにするなどの注意をする必要があります。ベアリングのような機能を果たすパーツであるために、ポリアセタールの摺動性が必要なのであれば、この樹脂は過剰な肉厚に対して非常に敏感であるということを念頭に設計を進めることができます。

樹脂の選択にあたっては、単一の機能要求を満たせばよいとか、樹脂の特性一つだけを意識すれば良いというような簡単なものであることはめったにありません。初期段階で樹脂の選択をする際には、強度、耐久性、硬度、柔軟性、摺動性、電気抵抗、耐薬品性、紫外線抵抗、耐熱性、難燃性、色、透明度、環境問題、そしてコストなど実に多様な要求項目を考慮する必要があります。成形性の面では、樹脂の流動性やバリの発生しやすさ、金型からの離型性、ソリやヒケなどが考慮する必要のある要素です。もちろん、あらゆるパーツに対して常にこれらの要件全てを考慮しなければならないというわけではありません。しかし、要求項目を精査して、どの項目をパーツに適用するのか、優先順位をどうするのかということを検討することは、理にかなっています。もし、そのようなチェックリストがあれば、パーツに使用することのできる樹脂を選択する際に活用できますし、場合によってはパーツ設計のごく初期段階に最適な樹脂を判別することも可能になります。使用する樹脂の選択ができたら、パーツの設計や成形のプロセスはその樹脂の特性に合わせて行うことができます。例えば:

  1. ポリスチレンは硬くて透明な樹脂で安価ですが砕けやすいため、用途を限定するか、樹脂の強度を増すためのステップが必要となります。
  2. ABSはとても手頃で耐衝撃性がありますが、ヒケが起こりやすいので厚肉にならないようにする必要があります。
  3. LCPには強度があり、薄い形状も充填しやすい樹脂ですが、かすかなウェルドラインが形成されるので、パーツの形状やゲートの位置をよく考慮する必要があります。
  4. ナイロンは手頃で強度もありますが、吸水性が高く、大気中の水分を吸収して寸法やその他の特性が変化するため、用途も限られてきます。

図2:ProtomoldのWebサイトで公開している樹脂特性ガイドには、主要な樹脂の機械特性と成形性特性、ブランド名一覧を掲載しています。

製品の特性上、樹脂に関する要件が特殊な場合もあることでしょう。要件によっては、樹脂に添加物を加えてベースとなる樹脂の特性を拡張することができます。

  1. 短いガラス繊維を加えることで樹脂の強度を増し、高温になった時のクリープを防ぐことができます。その一方で、パーツが冷えるとソリやすくなります。
  2. 長いガラス繊維を加えることで、強度を増し、クリープしにくくなりますが、その一方で、特に薄肉の箇所で樹脂が流れにくくなります。
  3. アラミド(Kevlar(R))繊維を加えることで、ガラス繊維ほどではありませんが強度が増しますが、紫外線にさらされると、分解することがあります。
  4. カーボン繊維によって、樹脂の強度と剛性を増すことができますが、高価です。またソリも発生しやすくなる場合があります。
  5. ステンレス繊維を添加することで、静電気や電磁波の干渉を低減する効果があり、電気部品のケースなどに使用されます。
  6. タルク(滑石)のようなミネラルのファイバーを添加することで硬度を増すと同時にコストとソリを抑えることが期待できます。
  7. ガラスビーズや雲母のフレークを添加することで、剛性を増し、ソリやヒケを低減することができます。ただし、樹脂の射出が難しくなります。
  8. グラファイトのような潤滑性を持つPTFE(Teflon(R))と二硫化モリブデンの添加で樹脂自身が潤滑性を持つようになります。

ご参考

プロトラブズ樹脂部品設計ガイド
ProtoQuote®無料解析&見積り

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。