今回はパーツの一部を薄い板状にすることで、折り曲げることのできるリビングヒンジについてご紹介します。リビングヒンジは、容器とその蓋をつなぎ、一体形状として一つの金型で成形する際によく用いられ、適切に設計されたリビングヒンジは数千回の折り曲げにもその強度や柔軟性を失うことなく機能します。
リビングヒンジのコンセプトはシンプルですが、その寸法を正しく設計する必要があります。典型的なリビングヒンジの開閉の角度は 90 度から 180度程度ですが、ものによっては270度、さらに360度近くというものも皆無というわけではありません。そのため、開閉の角度や回数に関係なく、ヒンジがその機能を損なってしまっては困ります。ヒンジが適切に設計されていないと、大して使用してもいないのに、折れてしまったり、あるいは、きちんと蓋が閉まらないということもあるかもしれません。こうしたことは、製品の設計者にとっても、ユーザーにとっても頭痛の種となります。しかし、優れた設計のリビングヒンジであれば、金属性のヒンジ構造のようにスムーズに動作し、製品寿命が来る前にヒンジが破損してしまうこともありません。
では、リビングヒンジの性能に影響を与える要因について見てみましょう。
一番重要なのは、材料です。ポリカーボネートのような脆性の高いものよりはTPE(熱可塑性エラストマー)のような非常に柔軟性の高い樹脂の方がヒンジには向いています。ただ、ヒンジ以外のパーツの領域に対しては十分な剛性を満たさない可能性があります。リビングヒンジが組み込まれたパーツに使用される樹脂で最もポピュラーなものは、ポリプロピレンとポリエチレンです。どちらもリビングヒンジにおける柔軟性とヒンジ以外の剛性のバランスに優れています。その他にリビングヒンジの性能に影響を与える要因に、ヒンジの肉厚(十分な強度を持たせつつ、十分に曲げられるだけの薄さ)と曲げ半径(破損することなく曲げられる曲げの回転半径)があります。
強度と柔軟性のバランスを取ることは、それほど難しくはない場合もあるかもしれません。例えば、スクイーズボトルとその蓋が離れないようにつないでおく薄いプラスチックの板を例に取りましょう。このようなヒンジはテザーストラップと呼ばれ、専門的に言えば、リビングヒンジではありませんが、基本的には同じような役割を果たします。典型的なテザーストラップは、リビングヒンジよりも肉厚があり、したがって強度もあります。また曲げ半径も大きいため、ストラップが曲げられる時に壊れるかを心配する必要がありません。
ところが、樹脂製の道具箱のリビングヒンジは非常に薄く、そのヒンジが繋ぐ二つの面は、蓋が閉じられた際、基本的に同一平面上でぴったりと合います。この時のリビングヒンジは非常に小さな半径で曲がっています。このような場合のリビングヒンジの設計は簡単ではありません。
リビングヒンジがどのように機能するか(あるいは破損するか)紙の場合で解説します。
一枚の紙を折れ目がつかないように緩く曲げます。この時にできる膨らんだ部分の曲げが、リビングヒンジとして許容できる曲げ量(曲げ半径)になります。完全な折り目を付けず、丸みのある曲げを維持する限り、何度曲げ伸ばしをしても、強度が下がることはありません。しかし、折り目をつけて平らにすると紙の内部構造が恒久的に変わってしまいます。顕微鏡で見れば、折り曲げの部分で紙の繊維が壊れていることが確認できるでしょう。
緩く曲げた紙の曲がっている部分を軽く押すと、少し抵抗を感じるでしょう。そして、どの程度押せばしわができてしまうか、その感覚をつかむことができます。薄い紙であれば、変形してしわができるまでかなり押せますが、ボール紙のような厚い紙になると、もっと強い力で押ないと曲げづらくなり、変形してしわができる曲げ半径も大きいため、薄い紙に比べるとすぐにしわができてしまいます。これと同じことが、樹脂製のリビングヒンジでも起きるのです。
しかし、紙でも樹脂でも、同じ疑問が残ります。それは、どうやったら二つの面がピッタリと同じ位置で合わさり、なおかつ壊れないヒンジを設計することができるのか、ということです。紙であれば、合わせ面の位置をヒンジよりも高い位置に配置すれば問題ありません。例えて言えば、薄い紙の上に厚いボール紙を貼り付けるのです(図1参照)。こうすれば、二つのボール紙の合わせ面が重なった時でも、薄い紙の方には折れ目が付かないだけの曲げ半径が確保されます。樹脂の場合にも同じような方法で、パーツの合わせ面よりも低い位置にリビングヒンジを作る(窪みのある形状にする)ことで実現できます(図2参照)。このような形状に作っておかないと、曲げた時に、以下の二つの状況が起きる可能性があります。
曲げ半径が小さすぎて、二つの面がピッタリと合わない(蓋が閉まらない)可能性があります。この場合、ヒンジに永久変形が発生しなくても、そもそもふたが閉まらない時点で設計として問題があります。
もう一つ考えられるケースとして、ヒンジの長さを短くする、またはさらに強い力をかけて強制的に二つの面がピッタリと合うようにすることが考えられます。しかし、過剰な応力により、結果としてヒンジが破損してしまうことにつながります(図3参照)。
リビングヒンジが組み込まれた射出成形パーツの金型においては、次のような点に注意を払う必要があります。リビングヒンジは非常に薄肉であるため、樹脂を流動させる上では成形の充填圧を高くする必要があります。そのためバリが発生しやすくなり成形条件の調整が難しくなります。また、リビングヒンジにウエルドライン(樹脂流動の合流線)が発生するとその部分の強度が下がりますので、ウエルドが発生しないようゲート位置や充填のバランスを考慮する必要があるのです。ProtoQuoteでは、このような点を検討して流動解析結果とともにゲート位置をご提案させていただくこともできます。
一度試作パーツが出来上がれば、量産に入る前にリビングヒンジの設計が適正であるかを検証することができます。適切なリビングヒンジの設計例として、デザインキューブを無償で差し上げております。まだお持ちでない方はこちらからご請求ください。
ご参考
■樹脂部品設計ガイド
■Protomold 樹脂特性ガイド
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本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。