嵌合する二つのパーツを熱可塑性樹脂で射出成形することを前提に設計する際に、それぞれ異なる形状で設計することは珍しくありません。製品形状の複雑さのために、異なる形状にしなくてはならないという状況もあるでしょう。しかし、それらのパーツの形状が類似しているか、またはまったく同一ならどうでしょうか。今回は製品形状を回転対称にすることで、同一形状のパーツが互いに嵌合する自己嵌合パーツについてご紹介します。このような設計を行うことは、もちろん難しい場合もありますが、製造コストの観点からも検討してみる価値は十分にあります。

嵌合する二つのパーツを同一形状にできれば金型は一型で済むため、製造コストを削減することができます。金型の設計についても本来二つのパーツを設計しなくてはならないところ、一つで済むため設計コストも下がります。また、在庫管理も複数のパーツの場合と比較するとより簡単で安価になります。

図1で示しているのは、回転対称で設計した二つの直方体の箱です。箱の前面には箱を閉じるためのラッチ形状と、そのラッチの穴と嵌合するボス形状があり、背面には箱の開閉を行うためのヒンジと、そのヒンジと嵌合するフック形状があります。この上下で構成する二つの箱を、同じ向きで並べてみると、まったく同じ形状になり、片方を180度回転させて裏返すと、ラッチとボス、ヒンジとフックが嵌め合うことがわかります。

図 1: 製品形状を回転対称にし自己嵌合パーツにすることで、金型が一型で済みます

パーツ同士を結合させるには、ヒンジやクリップ、ピン、ソケット、タブや溝など様々な方法があります。どの結合方法を使うかは、頻繁に開閉があるか無いかなど、その用途によります。例えば、クリップの形状も繰り返し使用するのか、それとも一度きりの固定でよいのかで設計が変わりますし、一回か二回の使用で壊れて使えなくなってしまうクラッシュピンを使用するのであれば、それにふさわしい用途で使用する必要があります。材料の観点からは、繰り返し使用する部分にはより柔軟性の高い材料を、一度固定すればそれで良いというのであれば、比較的硬めの材料がふさわしいと言えます。また、クリップのようなアタッチメントの形状において、その嵌合動作を正確に予測するのが難しい場合もあります。したがって、開発工程において、その動作を繰り返しテストし、検証する必要があるのです。

自己嵌合パーツは様々な製品に用いられており、手持ちで使用する医療機器、テレビのリモコン、コンピューターのルーターのケース、子供向けのおもちゃをはじめ、思いつく限りのすべての分野で使用されていると言っても過言ではありません。

もし、現在設計中のパーツが対称となる二つの形状に分割できる可能性があるならば、ぜひ、検討してください。取り入れることで、開発、製造にかかる時間とコストを削減できる可能性があります。パーツの組み付けを手作業でのネジ留めや超音波接着などを使用しているのであれば、最終製品の機能を損なうことなく、自己嵌合パーツに置き換えることも十分に検討する余地があるのではないでしょうか。

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ご参考:

樹脂部品設計ガイド
Protomold 樹脂特性ガイド

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。