肉抜きの効用を説明する方法について考えたときに、浮かんだのが、古代の手押し車の一枚板でできた車輪です。映画などでも登場することがあります。この車輪のせいで手押し車は重そうで、機動性に欠けていることが一目でわかります。現代の車輪は、ある天才が車輪は一枚板でできている 必要はないと思いついたおかげで当然の形状として存在しているわけです。本当に必要なのは車軸と最低限の骨格であること、つまり肉抜きに気がついたのです。そしてスポークの発明で車輪の設計に革命が起きました。スポークの発明というたった一つのことが、車輪の軽量化、経済性の向上、加速性や減速性など性 能向上を一挙に成し遂げることになったのです。

樹脂パーツについても同じことが言えます。樹脂は、軽くて経済性にも優れ、成形も容易であるという一般的な認識に間違いはありません。だからと言ってそれ以上に軽くしたり、経済性を向上させることができないわけではありません。設計次第では、機能性や成形性を犠牲にすることなく、さらなる軽量化や経済性の改善をはかることができます。

それを実現するのが、不要な材料を削ること、つまり肉抜きなのです。しかし、なぜそうだと言えるのでしょうか。また、そうだとして、どのように肉抜きすれば良いのでしょうか。

肉抜きをして不要な材料を削る理由にはいくつかあります。日々変動する情報ですが、The Plastic Exchange(樹脂取引の情報センター)の記事によると、2012年2月に予想される樹脂価格の上昇を嫌って、1月の後半の樹脂の購買量が増えているということでし た。予想される価格の上昇幅は、ポリエチレンやポリプロピレンといった比較的安価な樹脂の場合で、重量1ポンド(約454グラム)あたり2~4セント(約1.6~3.2円)でした。1ポンドあたり数セントの節約が、購買のタイミングを変える積極的な動機になるのであれば、樹脂パーツ全体では、節約の意味が より大きくなりますし、高価な樹脂であるほど、節約のメリットが一層大きなものになります。

肉抜きを行う2番目の理由は重量です。自転車や乗用車から大型車両、航空機にいたるまで、重量を減らすことが至高の目標であると 言っても過言ではありません。樹脂は金属より軽いのは確かですが、それに甘えず無駄を削ればもっと軽くなるのです。「金儲けとダイエットにはきりがない」 と言われますが、軽くすればするほど、コストが下がり、結果として利益も増えると考えることができます。

余分な肉を削ることでもっとスタイリッシュにできるという考え方もあります。ロードレースやF-1などのハイテクなスポーツへの 憧憬があるからでしょう。ムダを削ぎ落した機能美とミニマリズムが受けるのです。では、肉抜きを行う理由がわかったとして、肉抜きはどう進めれば良いので しょうか?

樹脂パーツの重量を減らすにあたって最も簡単なのは厚肉部分の肉抜きです。これは単に重量削減ができるだけでなく、ヒケやボイド、ソリのような樹脂成形にまつわる問題を減らすことにもつながります。

もう一つのアプローチがスケルトン化です。実はこの手法は古くから実践されているのです。その代表的なものがトラス構造やハニカム構造ですが、使用する材料を最小限にしながらも強度を維持する方法としての定番です。スケルトン化をする時に重要なのは機能を犠牲にすることなくムダを削りとっていくことです。図1に示しているのは、その例です。

図1:ソリッドの円盤を肉抜きして、完全にスケルトン化して、スポークを使った車輪にする例。機能は一切損なわれていません。

樹脂の特性はさまざまですから、どの程度肉抜きをすれば良いのかは樹脂によりますし、どの材料にするか、そしてどんな形状にする のかは設計者次第と言えます。有限要素解析(FEA)によるシミュレーションは開発の初期段階で検討するのに有効ですが、実際に使用する樹脂を用いた試作 部品での機能テストも設計品質の向上には必要です。

上手にProtomold射出成形による試作を活用することにより、開発の初期段階で貴重なデータを得ることができます。なお、一つの金型を使用し、複数の異なる樹脂による試作をすることができますが、樹脂ごとに収縮量が違いますので、寸法が微妙に異なってくることは考慮しておく必要があります。もっとも、個別のパーツの性能なのか、アセンブリ全体の性能なのか等、試作によって何をテストするのかにもよりますので、この違いは、必ずしも大きな問題であるとは言えません。

ただし、射出成形金型でパーツを成形することで最適なスケルトン化の度合いを検証する場合には、一点注意が必要です。金属でできている金型を削ることは簡単ですが、その逆は困難です。ちなみに、金型を削るということは、そのぶん樹脂パーツのボリュームが増えることを意味しますか ら、スケルトンの度合いを変えるときには、最も肉抜き量が大きい形状から始める必要があります。テスト結果が良くない場合には、金型を削ってパーツをもう 少し太らせて次のテストをやる、という順番になります。パーツを削る方向で調整を行おうとすると金型をゼロから作り直すことになりますので注意が必要です。

パーツのスケルトン化と同様に、開発プロセスにも余分なコストと工数を削減し、開発効率を改善するメタボ対策を行う必要があるのです。

【ご参考】
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本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。