リビングヒンジとは、樹脂パーツを破損せずに折り曲げられる薄いバンド形状のことを指します。平らな形状から箱形の形状(図1)に組み立てるものや、何回も繰り返し開閉するフタ(図 2)に使用するものなどがあります。

図1:Protomold デザイン キューブ *

図2:リビングヒンジ活用例

溶融した樹脂が形状の薄肉部分から厚肉部分に流動する際の影響についてはこれまでにもご紹介してきましたように、最悪は、厚肉部分にボイド(気泡)が発生する可能性があります。しかし、リビングヒンジを形成するには、どうしても樹脂を極薄肉部分から厚肉部分に充填させる必要があります(図3)。

図3:上記の矢印で示した極薄肉部分を通過して反対側の形状にも樹脂が流し込まれます。これで完成する形状は、繰り返しの曲げ運動に耐えられる薄さに仕上がります。

その他の方法としては、2つのゲートから樹脂を注入して、ヒンジ部で合流させる方法があります。しかし、この方法ではリビングヒンジ部分にウェルドラインが発生してしまいます。ウェルドラインは、パーツに脆弱な箇所を形成してしまう現象ですが、薄肉部分では特に問題となります。曲げても折れない強度が保たれることが必須のリビングヒンジでは重大です。

リビングヒンジ設計のポイント

とても便利な機能のリビングヒンジは、活用の場も多くありますが、設計に際してはどのようにして問題を回避、少なくとも予測できるかが課題になります。効果的に機能するリビングヒンジを設計するにあたっては、3つのポイントが挙げられます。

1) 適切な樹脂を選択

選択する樹脂については、薄肉部分にまで十分に流動し、たび重なる曲げ運動に耐える強度を備えたものである必要があります。リビングヒンジに理想的な樹脂はPP(ポリプロピレン)、もしくはPE(ポリエチレン)です。パーツの利用目的によっては、限定的に適用できる樹脂もあるかもしれません。ただ、ガラス繊維入りナイロンの強度やアセタールの耐久性を必要とするようなパーツの場合は、リビングヒンジは採用しないことをお勧めします。

2) 適切な寸法・設計を適用

図4のリビングヒンジの寸法は、Protomold射出成形で製作する PPおよびPEのパーツに適しています。

図4:PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)に適したリビングヒンジの寸法  (出展:efunda.com)

射出成形を成功させるための樹脂部品設計ガイドに沿って設計を進めていただくことも重要なポイントです。

3) 意匠への影響を考慮する必要があります

リビングヒンジの成形は道路の「工事渋滞」に例えることができます。樹脂を充填する時、ヒンジの上流では圧力が強く、下流側では圧力が低下するからです。また、ヒンジ部での金型の面積に対する体積比が増加するため、ヒンジ部の樹脂は冷却が早く進みます。この結果、ヒンジの下流でヒケ、フローマーク、気泡が発生する可能性があります(気泡は不透明な樹脂では目立ちませんが、強度に影響する場合があります。透明な樹脂を使用すると気泡を目視できます)。ヒンジの上流では、樹脂を薄い箇所に押し込む圧力が強いために、バリが発生する可能性があります。

リビングヒンジを使用するパーツでは、ゲート位置がとても重要です。Protomold射出成形する際は、ゲート位置を提案させていただきます。提案内容はリビングヒンジを考慮したものになり、お客様に最終的な判断をしていただきます。 ProtoQuote見積りでは、成形性に影響を与えそうな箇所に関する形状の解析結果も提示します。

ヒンジ機構が必要でもリビングヒンジでは対応できない場合、代替方法もあります。たとえば、以前ご紹介した Design Tip「嵌合パーツの設計」では、フックと軸形状がある2つのパーツによって構成されている箱の例を示しています。

リビングヒンジやその他のヒンジなどに関する詳細は、カスタマー サービス エンジニアがお答えします。ご不明な点などありましたら、お気軽にお問い合わせください

※ 図1のデザイン キューブはプレゼントしております。まだお持ちでない方はこちらからご請求いただけます。

ご参考:

Protomold 樹脂部品設計ガイド
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本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。