塑性変形を起こさずに柔軟に曲がるという樹脂の特性を活かして、片持ち梁型のスナップフィット以外にもさまざまな種類の留め具を成形することができます。主なものとしては:
- 環状(円形)のスナップフィット
- ねじり型のスナップフィット: このタイプのスナップフィットでは曲げではなく、ひねる力を利用します。
- 圧縮型のスナップフィット: このタイプのスナップフィットでは圧縮されたスナップフィットが、元の大きさに戻ろうとする力を利用します。
環状スナップフィット
環状スナップフィットは私達の周りにあるさまざまな製品に活用されています。洋服などに使われているホック型のボタン、ペンの本体にカチッとはめるキャップ、プラスチックの容器とそれにはめ込むフタなどが、典型的な活用例です。環状スナップフィットは、本来の用途としては開けやすく留めやすい、ということを意識して設計されるのですが、小さな子どものいたずら防止を念頭に設計されることもあります。この場合には、フタをある位置にすると簡単に開けられるが、それ以外の位置では開かないようなフタで、錠剤などを入れる容器のフタに使用されることがあります。多くの場合では、開け閉めを繰り返すことを想定していますが、工業製品に使用される場合には永久的な固定の用途で使用されることもあります。
環状スナップフィットはどのような用途で活用されるにせよ、基本的にはスナップフィットのメス側の材料の伸び縮みによって機能します。このことは使用できる材料については、比較的大きな荷重がかかっても塑性変形をしないような、大きな弾性率を持つものに限定されることを意味します。許容可能な最大のひずみの量は材料によっても異なりますが、強化プラスチックの場合には破壊が起こるひずみの約50%、弾性ポリマーの場合には約70%程度が許容されるひずみの量になります。環状のスナップフィットに関する詳細はこちら(英語)でご覧いただくことができます。
ねじり型のスナップフィット
ねじり型のスナップフィットは、片持ち梁型のスナップフィットの腕の曲げとは対照的に、トーションバー(ねじり棒)の基点にねじりを加えた時に発生する力を利用します。ただ、それ以外の点については、片持ち梁型のスナップフィットと同じように機能すると考えてかまいません。ボールペンなどに使用されるロッカークリップが、ねじり型スナップフィットの典型的な活用例です。ねじり型スナップフィットを設計するための計算式はこちらで紹介されています。
圧縮型スナップフィット
圧縮(または干渉型)スナップフィットは、さまざまな形状をとることができます。例えば、図1に示されているようなプロトラブズで提供させていただいているデザイン キューブで使用されている、複合型の蟻継ぎ型スナップフィットがその一つです。このスナップフィットはキューブの六面のうち、それぞれ二面を留めることができるようになっており、また、異なる二方向から接合できるようにもなっています。オス側には急角度のテーパがついていて、接合したら、外れにくいようになっています。オス側を指定の位置に押し込むと、オス・メス両方が圧縮しながら嵌合し、嵌合した後は元の形状に戻ってスナップフィットが固定されるという仕組みです。
圧縮型スナップフィットとしては、プロトラブズのDesign Tipで紹介しているカメ形ブロック Reptangles™ に使用されているスナップフィットが例に挙げられます。この製品の設計において課題となったのが、スナップフィットのオスとメスが正面だけでなく斜め(角度が90°以内)に接触しても嵌合することができるようにするということでした。図2に示される特許取得済みの嵌合形状は三角形のアーチとそれに対応した形の穴で構成されています。穴側の壁の突起形状が、アーチ側の下部に開いた穴に嵌合し、2つのパーツをしっかりと固定すると同時に、外しやすいという2つの機能を両立させています。
圧縮型のスナップフィットの設計では、成形性が課題になることがあります。スナップフィットの形状によっては、アンダーカットが発生します。微妙なアンダーカットであれば、柔軟性のある材料で、無理抜きによる成形ができます。(無理抜きについては、第3回 Design Tips 「無理抜きで成形するアンダーカット形状」 でご紹介しています。)Reptangles の場合には、アーチ側の形状も穴側の形状も、二方向抜き金型(穴を貫通する形でアンダーカット部分をテーパ合わせで作成)にて成形が可能であったため、無理抜きの必要はありませんでした。
さまざまな種類のスナップフィットを組み合わせて活用することは、設計の自由度を高めることにもつながります。
「スナップフィット設計Part1」はこちらでご覧いただくことができます。
ご参考:
■プロトラブズ樹脂部品設計ガイド
■ProtoQuote®無料解析&見積り
本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。