日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 湊伸吾氏

これまで、サーバの消費電力削減のための具体的なアプローチとして、3段階の取り組みを紹介してきた。比較的に短期間で実現できる設定の変更から、最新の省電力機能を備えたハードウェアの導入、仮想化によるサーバ統合まで、段階を追うごとにより大きな節電効果が見込める。とはいえ、何のデータもないままに節電に取り組むのでは、せっかくの節電効果も十分に発揮されない懸念がある。

現状の電力使用量はどのくらいなのか、さまざまな取り組みによって電力消費量はどう変動するのか、そうしたデータを踏まえて次にどうするかを考えていくことで、省電力化への取り組みがさらに精緻化していく。ここでは、日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発の湊真吾氏に、消費電力を把握するための手段である「可視化」などについて聞いた。

無償ツールとサービスで消費電力の実態を把握する

省電力に取り組む際、「サーバが現在どのくらいの電力を消費しているのか」ということが最も基本的な情報になるが、実際にはこの情報すら把握していない場合がほとんどだろう。企業全体で消費している電力量は、電力会社より月単位の集計結果が通知されているはずだ。しかし、「個々のサーバがどれだけ電力を消費したのか」、「電力消費のピーク時間はいつどのくらいか」といった詳細な情報は毎月の電力料金を見るだけではまったくわからない。

サーバ1台単位で時間ごとの電力使用量の変動を把握することにより、電力使用量の抑制が強く求められている夏場の昼間のピーク時間帯を避けるなど、きめ細かな制御が実現できる可能性が出てくる。こうした情報なしに一律で電力消費量を抑制しようとすると、一部のサーバを停止するなど、業務の質/量の低下を招きかねない。これに対し、詳細なデータに基づいた緻密な制御ができれば、業務へのインパクトは最小限にとどめたままで十分な電力削減の効果を得ることも期待できる。

とはいえ、時々刻々と変動するサーバの電力消費量を1台ごとに正確に把握するには、それなりの仕組みが必要だ。IBMが無償配布している消費電力計算ツール「Power Configurator」では、構成ごとの標準的な消費電力量を見積もることができるので、各サーバに対する仕様上の最大消費電力量に加えて、標準的な利用状況における実消費電力量の目安がわかる。

指定したスペックのサーバの最大消費電力量に加え、標準的な利用状況における実消費電力量もわかる

さらに、IBMは「カンタン! IT投資見える化診断」も無償で提供している。これは4年前から提供開始しているサービスだ。従来は比較的大規模な構成を前提にサーバ統合の効果を予測するサービスとして提供していたが、年々改良され、現在では最小構成規模を大きく引き下げることで、小規模なユーザーでも統合の効果を事前に無償で知ることができる。IBMのサーバのデータが揃っているのはもちろん、他社製サーバにも対応可能なので、「数年前のサーバ複数台を統合したらどうなるか」という目安を把握するために、ぜひ利用していただきたい。

他社サーバや周辺機器の電力消費の制御も実現

ついで、実測値に基づいてきめ細かに制御するためには、サーバの消費電力量をこまめに測定する必要がある。IBMのサーバは、3~4年ほど前のモデルから電力モニターが標準で内蔵されるようになっている。また、同モニターが搭載されていないサーバ、他社製サーバ、周辺機器については、コンセントごとに詳細な電力消費量のモニタリングが可能なインテリジェント電力分配装置(iPDU)が用意されている。

IBMのサーバやiPDUが測定した電力消費量は、システム管理ツール「IBM Systems Director」のプラグインモジュールとして提供される「Active Energy Manager」でデータを収集し、グラフィカルに可視化できる。これによって、どの機器がどのようなタイミングでどのくらい電力を消費しているのか、という詳細なデータが得られるので、構成を最適化し、無駄な電力消費を発見して削減の手を打つこともできるようになっていく。ちなみに、IBMのサーバを購入した場合、IBM Systems DirectorとActive Energy Managerは無償で提供される。

また、Active Energy Managerの有償オプションとして提供される機能「Power Capping」では、あらかじめ設定した最大電力消費量を超えないようにサーバを制御することもできる。サーバの負荷が高まり、消費電力量が増えていった場合も、上限に達したところでプロセッサのクロック周波数を下げるなどの手段で電力消費量を抑制する制御が行われる。上限は、サーバ単位でも、複数のサーバをまとめたグループ単位でも設定可能なので、サーバの用途に応じて柔軟に制御できるというわけだ。

こうして、サーバ内部にハードウェアコンポーネントとして実装する温度センサーや電力モニターから、周辺を固めるiPDUや各種ソフトウェア、診断サービスまで、省電力を実現するために必要なすべてが網羅されているのは、IBMにおける省電力への取り組みが急遽出現したテーマではなく、以前から地道に取り組んできたことにほかならない。このことが、同社に対し、「顧客の消費電力削減をサポートする準備が完了している」という余裕をもたらしているのは間違いないだろう。