前回は、既存のサーバにおいて設定を変更することで電力を削減する方法を紹介した。新たにサーバを購入するとなるとその分コストはかかるが、最近のサーバは旧製品と比べて大幅に電力量を抑えることが可能な機能を搭載している。今回は、消費電力を抑えた最新サーバの購入について考えてみたい。

業界標準+独自技術でより強力な省電力を実現

日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 システムズ&テクノロジー・エバンジェリスト 柴田直樹氏

昨今の電力不足を受け、ITベンダー各社は相次いで省電力についての発表を行っている。もっとも、IBMの省電力化への取り組みは、昨今の電力需給状況の悪化を受けて急遽思い立った取り組みなどではなく、数世代にわたって改良を積み重ねてきたものだ。

「正直なところ、これまで省電力化への取り組みに注目するお客様はそれほど多くなかったのですが、震災後の節電の必要性から 電力消費量の削減に対する優先度が大きく変わり、当社の省電力サーバに関する技術に興味を持っていただくようになりました」と、日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 システムズ&テクノロジー・エバンジェリストの柴田直樹氏は語る。

一方、システム全体を設計するIBMの取り組みによって実現している要素も多々ある。利用可能な業界標準コンポーネントも製品単位で詳細に見れば、消費電力の大小や信頼性の高低、そして価格差など、差別化要素が存在している。そこで、システムベンダーとしてはコストパフォーマンス優先でシステムを構成することもできれば、高信頼/省電力のシステムを構成することもできるというわけだ。当然ながら、IBMは高信頼で電力効率に優れた高品質なコンポーネントを選んでシステムを構成することにより、製品化時点での最先端の省電力機能を利用可能なシステムとして市場に送り出している。

ハードウェアの随所に見られる細かな工夫

IBMは独自に行うシステム設計の部分でも消費電力削減のための努力を払われている。柴田氏は、その例として、「Calibrated Vectored Cooling(キャリブレーテッド・ベクター・クーリング)」という冷却技術を挙げる。同技術に基づき、同社のサーバは筐体内部の気流を緻密にシミュレーションして冷却用ファンの設置数と各々の回転数を最小限に抑えられるよう、筐体内のコンポーネントの配置が最適化されている。

さらに、細かな工夫も凝らされており、「xサーバは筐体の空気の出入り口には異物の混入を避けるために穴あきパネルが設置されていますが、このパネルが気流の抵抗とならないよう、強度を確保しつつ開口率を高めるために穴の形状を六角形のハニカム形状にするなどの細かな工夫も施しています」(柴田氏)という。

冷却ファンの回転数は、プロセッサの稼働状況や筐体内の温度に基づいて最適制御される。そのために筐体内の各所に温度センサーが設置されているところまでは普通の取り組みと言えるが、IBM独自の取り組みとしては、気圧センサーも装備し、その出力も加味した制御を行う点がある。

気圧の高低は空気の密度に影響を与え、冷却効率を変動させる要因となる。気圧が高ければ冷却気の密度も上がるため、冷却ファンの回転数をさらに下げることが可能になるのだ。制御の容易さを優先するなら、「強めに冷却しておけばとりあえずサーバの運用に支障はないはず」と片付けてしまうこともできる。だが、電力を一切無駄にしないためにはその時点で必要な冷却能力を正確に把握し、それに見合った回転数で冷却ファンを運転するという緻密な制御が不可欠になるし、制御の手がかりとなる多彩な情報を収集して分析する機能も必要になってくる。

電源ユニットに関しても、サーバに給電される交流100Vの電源からサーバ内部のコンポーネントの動作に必要な直流電流に変換する必要があり、この部分での変換ロスが無視できない要素となっている。かつて、サーバの電力効率がさほど重視されていなかった時代には変換効率が80%程度の電源ユニットもあったが、現在のIBM System xサーバーでは変換効率が92%または94%以上という高効率な電源ユニットの採用が進んでいる。

さらに柴田氏は、「コンポーネントからの発熱を抑制するという観点では、サーバを構成するコンポーネントの数を削減することも効果的です。そのため、当社は設計を工夫することで部品点数を削減していくという地道な取り組みも行っています」と説明する。

省電力機能においては「倹約」は美徳ならず?

一方、サーバの省電力性能を高めることにデメリットがあるとすれば、まず思い浮かぶのはコストの上昇だろう。安価で高信頼、高効率なコンポーネントは理想だが、現実には電力効率が高いコンポーネントはそうでないものよりは高価な場合がほとんどだ。

ただし、コストに関する評価は運用環境の変化によって影響を受ける。現在の日本が直面しているような電力事情を踏まえると、ハードウェアの部分で少々のコストアップがあったとしても、運用に必要な電力コストの削減効果などで相殺されると言えよう。一般企業に対しても一律で消費電力量の削減が求められるような状況では、目先のコストにとらわれて電力効率の低いハードウェアを選んでしまうことによって後々より多額のコスト負担を背負うリスクもあるはずだ。

前述したように、IBMの省電力化への取り組みは長年積み重ねた開発努力の成果なので、現行製品と更新時期を迎えるような古い製品を比較すると、消費電力量には大きな差が生じている。 例えば、消費電力の高い 数年前のサーバなどを最新のIBM System xサーバにリプレースすれば、大幅な消費電力削減を実現できる。

また、ブレードサーバであるIBM BladeCenter(R)は、システムデザイン自体が高密度集約による高効率化を目指しているため、電力削減の効果は大きい。一般には古いものを長く使い続けることの美徳が語られることも多いが、ことサーバの消費電力に関しては当てはまらないことを忘れてはならないだろう。