すべての業種において、DXへの対応はもはや避けられない課題だ。そのDXを支えるのがデータセンターだが、近年はその規模に応じた活用形態もいろいろと増えてきた。

一方で、広大な国土を持つ海外の国では、今でも安定した高速インターネットのサービスを提供することが難しい地域も多く、デジタル格差が広がってきているという。オーストラリアの地方都市でも、インターネット接続は、大都市圏に比べて価格に対して信頼性が高くないことがあり、住民からは安定して高速に利用できるインターネットサービスの提供が求められていた。そこで、オーストラリアのこのような地域にプレハブ型データセンターを設置することで、安定したインターネットサービスを提供したのがLeading Edge Data Centersだ。

デジタル格差を解消するために導入されたプレハブ型データセンター

Leading Edge Data Centersは2018年から、高速で安定したインターネット環境が提供されていないオーストラリアの地方都市に、小規模なデータセンターを開設してネットワークサービスを提供するコロケーション事業を始めた。その後、2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが世界中で進行。コロナ禍の影響でさまざまな業種でリモートワークが必要とされるようになり、ネットワークが安定的に供給されない地域では、デジタル格差がより明確になってきた。こうした課題を解決するため、Leading Edge Data Centersはオーストラリアの25カ所以上にTier3レベルのデータセンターを設置し、安定したインターネットサービスの提供を拡大させた。

  • オーストラリアの地方都市でインターネットサービスを提供するLeading Edge Data Centers

    オーストラリアの地方都市でインターネットサービスを提供するLeading Edge Data Centers

Leading Edge Data Centersが、オーストラリアの地方都市で展開するデータセンター設備として選んだのが、コンパクトで組み立ても容易に行え、設置するだけで安定したインターネットサービスが提供できる、シュナイダーエレクトリックのプレハブ型データセンターだ。プレハブ型データセンターは設計と構築を大幅に簡素化できるため、従来の構築に比べ50%ほど導入時間の短縮になる。設計の承認後、6-9カ月で稼働が開始できる機動力が強みだ。狭いスペースや産業用設備環境への導入、迅速な容量の拡張が可能など、データセンター構築における従来の課題を克服するソリューションとして期待されている。

シュナイダーエレクトリックの最新プレハブ型データセンターの例、最近では液冷に対応するなど高密度な構成を支えるものなど選択肢が増える

一方で、複数のデータセンターを運用するにあたっての課題は、広大なオーストラリアにおいてすべてのサイトを現地で実際に監視することがほぼ不可能であることだ。Leading Edge Data Centersのこのプロジェクトの場合、それらサイトのほとんどがオーストラリア南部にあるサウスオーストラリア州の州都から離れた地域にあり、電力インフラも限られていた。

これらの理由から、プレハブ型データセンターにおいても、信頼性の高いソリューションやバックアップの冗長性、リモートアクセス、持続可能なエネルギー供給などが必要で、数百の顧客の使用状況を正確に追跡でき、リアルタイムでレポートするエネルギー監視システムが採用されることになった。

限られたスペースでの効率的な冷却と一元化されたリモート制御を採用

Leading Edge Data Centersは効率的で堅牢なデータセンターの運用を目指し、エネルギー使用量を最小限に抑えるシュナイダーエレクトリックの EcoAisle ContainmentとInRow DX冷却ユニットを採用。EcoAisle Containmentは、プレハブという限られたスペースの中で、複数のラックから部屋レベルまで、サーバの排熱を囲い込むことで、暖気と冷気の混合を最小限に抑えるシステムだ。また、水道設備が十分に整っていないエリアにおいても、冷却に水を使わない空冷方式のInRow DX冷却ユニットが冷却効率を最大化している。

EcoAisle: Flexibility Meets Innovation

LVブレーカーを備えたシュナイダーエレクトリックのCanalis 2Nバスウェイシステムは、電力や照明回路、ITネットワークケーブルの配電を可能にする。リチウムイオンバッテリーを搭載した2台のGalaxy VX 500kVA無停電電源装置(UPS)が、停電時の電源バックアップを提供している。さらに、Leading Edge Data Centersのプレハブ型データセンターには75台のアクセス制御が可能なAPC NetShelter SXラックが導入され、APCの電力配分ユニット(PDU)によって、個々の顧客の電力使用量が追跡できる。

これらのデバイスは、シュナイダーエレクトリックの EcoStruxure IT Expertで遠隔から監視されている。Leading Edge Data Centersのすべてのデータセンターを一元監視することで、インフラ全体のパフォーマンスを最適化し、リスクを軽減するための推奨事項をリアルタイムで提供する。さらに、各データセンターの屋根には60kWの太陽光パネルを設置し、この太陽光発電システムと地域のグリッド電力網の組み合わせによって、電力の安定化を実現した。このプレハブ型データセンターのPUEは1.3という高効率を実現するように設計されているが、今後の運用最適化を進めることで、最終的にはPUE1.2での運用も可能だと予想している。

  • Leading Edge Data Centersのプレハブ型データセンターで採用されたソリューション群

    Leading Edge Data Centersのプレハブ型データセンターで採用されたソリューション群

データセンターも地産地消の時代に

日本ではオーストラリアと比べて、ほぼ全国どこでも安定したインターネット環境が提供されている。だが、今後もあらゆるものがインターネットにつながるDX社会が進めば、エッジで処理するデータセンターの需要が加速するだろう。

例えば、スマート工場やスマート倉庫などの構築を考える際、大企業の施設のようにしっかりしたサーバールームが完備されていればよいが、中小企業の施設ではサーバに適した空調や安定した電源供給が提供される部屋を確保することが難しい。そういった施設でも、工場や倉庫の敷地内にプレハブ型データセンターを設置するだけで、DXによる最先端技術を活用した業務効率化や省人化が可能になる。また、高速道路や郊外の道路の脇に設置できるデータセンターがあれば、EVの普及に伴う充電ステーションの管理や、様々な交通情報をリアルタイムで車両に配信するなどのデータ処理もエッジで高速化できるかもしれない。

このように、日本でもさまざまなニーズが期待されるプレハブ型データセンターだが、一方で日本は季節によって高温多湿の時期があるため、その土地に応じた独自の対応が必要になる。幸い、日本は水道インフラが充実しているので、極暑になる地域では最新の液浸による冷却システムも採用できそうだ。さらに、寒冷地では外気を取り入れた空調システムを採用するなど、その土地の特性を活かした地産地消のデータセンターが構築されることに期待したい。