北欧諸国はデータセンターを配置するのに最適な土地だ。特にスウェーデンは寒冷な気候に加え、政治的に安定しており、豊富な再生可能エネルギー源や安価な電気料金のおかげで、データセンター開発者にとって魅力的な国となっている。
そんな北欧のスウェーデンで、持続可能性と高度なセキュリティ機能を持つデータセンターを構築し、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)やコロケーションサービスなどの提供で注目されているのがEcoDataCenter(エコデータセンター)社だ。
現在EcoDataCenter社はスウェーデンに4つのデータセンターを持っており、2015年にはグローバル市場においてサステナビリティ分野を牽引する100のイノベーションをまとめた「トップサステナビリティイノベーター(Sustainia 100)」に選ばれている。
排熱利用で“クライメートポジティブ”を実現するEcoDataCenter1
EcoDataCenterはストックホルム、ファールン、ピーテオという3つの地域に4つのデータセンターを建設している。そのなかでも、ファールンにある「EcoDataCenter1」は、HPCとコロケーションサービスの両方を提供しながら、環境負荷をゼロにするどころかマイナス化し、気候変動にポジティブな作用をもたらしているデータセンターだ。同社はこれを「クライメートポジティブ・データセンター」と表現している。ファールンはスウェーデンの首都ストックホルムの北西約200kmにあり以前は銅の鉱山で栄えた町だが、EcoDataCenter1は建物の外観も、周辺の景観に合わせて平屋建てになっている。
当初から持続可能性を目指したEcoDataCenter1は、近くの風力発電所や水力発電所から電力供給を受けることで、施設内で消費される電力の100%が再生可能エネルギー(水力発電:75%、風力発電:25%)となっている。特にユニークな取り組みと言えるのが、EcoDataCenter1を複合バイオエネルギープラント「Falu Energy & Water」と接続し、データセンターから出た排熱をバイオ燃料施設とペレット工場に送っていることだ。
Falu Energy & Waterは、近くの林業事業者から出る木材チップとバイオマス残渣によって木質ペレット(固形燃料)の生産や発電を行い、地域の暖房や冷房も担っている。EcoDataCenter1のサーバーなどから発生した熱は、木質ペレットの原料を乾燥させる際に利用され、製造工程での化石燃料の使用量を減少させる。さらに、Falu Energy & Waterのバイオマス発電で作られた電力は、EcoDataCenter1でも利用されている。
こうしたエネルギー循環に加えて、EcoDataCenter1では電力の効率化を担う三相UPSや、冬季に外気を利用したフリークーリングを活用し、これらを一元的に管理・運用できるソフトウェアやサービスを積極的に導入することで、再エネ活用や排熱利活用による温室効果ガスの排出削減量が排出量を上回るクライメートポジティブなデータセンターを実現している。
データセンターにおけるあらゆるハードウェアを1つのソフトウェアプラットフォームで運用管理
EcoDataCenter1では、どのようにデータセンター・インフラストラクチャ管理(DCIM)を活用してシステム全体で省エネを実現しているのか。そこではDCIMをソフトウェアプラットフォームとして統合管理し、中圧開閉装置や三相UPS、デジタル遮断器、スクロールコンプレッサー、CRAH(コンピュータルーム用エアハンドリングユニット)、リチウムイオンバッテリー、チラー(冷却水循環装置)などのハードウェアが、1つのアプリケーションで統合管理されている。
シュナイダーエレクトリックはEcoDataCenter1の設計段階から、超低二酸化炭素排出のデータセンターを構築するためのパートナーに選ばれ、コンサルティングやさまざまなソリューション提供を進めてきた。DCIMに関しては、サードパーティも含めたハードウェアやソフトウェア、モニタリングをシームレスに接続するオープンアーキテクチャとしてシュナイダーエレクトリックのソリューション「EcoStruxure」を導入している。
実際の運用においては、クラウドベースのソフトウェアソリューションであるEcoStruxure IT Expertがシステム全体を監視しながら、全てのIoTセンサーや機器の稼働状況について温度なども含めて測定し、それらの情報をEcoStruxure IT Advisorがまとめて分析。例えば、もっと空調の温度を下げた方がいいとか、この機器は運用効率が悪いから調整した方がいいといった分析を行ってくれる。さらに、そうした分析に基づいたシミュレーションなどもIT Advisor上で行える。
DCIMによるトータルソリューションでPUE1.15を実現
こうした制御に加え、シュナイダーエレクトリックのCRAHユニットとフリークーリングや自然エネルギーを用いることでエネルギー効率(EER)132を達成しているシステムによって、データセンターの冷却も効率化している(EERはエネルギー消費効率を示す数値で、冷暖房の出力[kw]/入力[kw]によって算出され、値が大きいほど空調効率が良いことを示す)。また、それぞれ1250kWで運用できる4台の三相UPS Galaxy VX UPSも導入しており、電力使用効率を最大99%まで高められる運転モード「eConversion」で稼働させることで、UPSのエネルギー消費を削減して負荷を低減する。
さらに、シュナイダーのターボコア圧縮機を搭載したUniflairチラーを冗長構成で導入することにより、非常に湿度の高い夏の日であっても、高効率かつ安定した空調環境を、サステナブルな形で確保できている。このようなトータルソリューションの採用によって、EcoDataCenter1では、データセンター全体の消費電力量を削減することに成功し、PUEは1.15~1.2を実現できた。
EcoDataCenter1がここまでPUEの値を下げられたのは、冬期にフリークーリングが可能など北欧の寒冷な気候も大きく影響している。一方で日本においても、北海道や新潟などの豪雪地帯で、積雪を利用した省エネデータセンターの取り組みが進み始めている。こういった地域では、データセンターの排熱を暖房に利用して冬季にビニールハウス農業に活用するような事例も既に実施されており、日本の独自の環境配慮型データセンターの大きな取り組みにつながっていくかも知れないと期待している。