メンバーの力を引き出す効果的なチームマネジメント
プロジェクト成功のカギは何か。周到なプロジェクト計画の策定、適切な人材のアサイン、組織的なプロジェクト管理支援等、様々な要素が挙げられる。いずれも重要であるが、それらが揃ったとしてもプロジェクトが成功するとは限らない。最終的にカギを握るのは、プロジェクト現場における一人ひとりのメンバーの活力である。
今回は、チームリーダーの立場を担う上で重要となる『メンバーの力を引き出す効果的なチームマネジメント』について、事例を取り混ぜつつ、5つのポイントに絞り、紹介していく。
ポイント1 : メンバー間における信頼関係の構築
- お互いを尊重しあう姿勢
チームが有効に機能するために重要なことは何か。まず基礎になるのはメンバー間の信頼関係である。一朝一夕に築き上げられるものではないが、お互いの立場や考えを尊重し、誠実な対応を積み重ねることにより、信頼関係はゆっくりではあるが少しずつ築かれていく。リーダーは一人ひとりのメンバーに対して、その姿勢で接することが大切である。
信頼関係の構築には相応に時間がかかる。リーダーは焦ることなく、理想のチーム像をイメージし、信頼関係を基礎として助け合い、困難を乗り越えられるチーム作りを目指したい。
ポイント2 : メンバーの強みを活かす
- 適材適所
次に多様なメンバーで構成されるチームを効果的に機能させるには、一人ひとりの特徴を踏まえ、適切な役割、ポジションで力を発揮してもらうことが大切である。
チーム編成時には、人材要件を明確にし、面談やレジュメにより適性を判断した上でアサインを行う。アサイン後もプロジェクトにおける活動状況を注視し、各メンバーの強みを捉え、柔軟に役割分担を見直したい。また、その際には、理由と期待内容を明確に伝えることが重要である。
ここで、あるプロジェクトにおいて役割分担の見直しにより、チーム内に良い影響を与えた事例を紹介しよう。
そのプロジェクトでは当初メンバーXさんが議事録作成を担当していたが、展開が遅く、関係者との情報連携において、いくつか問題が発生していた。そこで、メンバーAさんのスピーディな仕事振りに着目し、朝会における議事録作成と関係者への展開については、XさんからAさんへ担当を変更した。
朝会と同時進行で議事録を作成し、終了後30分程度で関係者に展開、というスタイルを3ヶ月継続した結果、関係者とのコミュニケーションは円滑に進み、さらに副産物として、チーム全体の仕事に対するスピード感も向上した。メンバーが強みを活かして良い仕事をするとチーム内に伝播するのである。
ポイント3 : メンバーの主体性を引き出す
- 参画なくして決意なし
経営者向けの書籍などで「参画なくして決意なし」という教示を目にすることがあるが、これはチームマネジメントにおいても重要なポイントである。
意思決定プロセスに参画したメンバーはその決定に責任を持ち、主体的に活動するが、その逆もまた然り、である。実際には、チーム内の主要メンバーによる意思決定が中心になるが、内容に応じて、適切なメンバーを参画させ、各メンバーの意見を尊重したい。主要メンバーによる意思決定が日常化すると、リーダーが気付かないうちに他メンバーのモチベーション低下に繋がることがある。
ポイント4 : 運営ルールの策定と継続的改善
- 形骸化はモラル低下に繋がる
チーム規模にもよるが、円滑なチーム運営を行うには、一定の運営ルールが必要である。例えば、会議体運営、ドキュメント管理、情報展開、などである。策定時には前述の通り、メンバーの意見を取り入れたい。また、大切なのは策定後の運用であり、状況に応じて継続的に改善を行うなどの対応が必要だ。
例えば、例外対応が日常化し、ルールが形骸化した経験は無いだろうか。ルールの形骸化はチーム全体のモラル低下につながり、作業品質低下やセキュリティ事故の原因になりかねない。例外は例外として認め、改善すべきは改善し、守るべきはしっかりと守る。小さなほころびに気付いたら、早めに手を打ちたい。
ポイント5 : 迅速かつ均等な情報展開
- 情報格差を生じさせない
通常、リーダーはメンバーより早く、チームにとって重要な情報を入手する。その際、メンバーへの情報展開は迅速かつ均等に行いたい。情報の性質に応じて制限は必要だが、チーム内での情報格差は、展開されないメンバーにとってモチベーション低下に繋がる恐れがあるため、展開基準を明確にしておきたい。
先ほど紹介したものとは別のプロジェクトにおける情報展開の好例を紹介しよう。
リーダーのBさんは"プロジェクト成功のカギはメンバーのモチベーション管理"と心得ており、中でも"メンバー間で情報格差を生じさせないことが重要なポイント"と考えていた。そこで、Bさんはリーダークラスが参画する会議から戻ると、必ず全メンバーを集め、情報展開、質疑応答を行った。
プロジェクト期間を通じて、このスタイルは変わらず、チーム内の情報格差(プロジェクト全体に対する状況認識、等)は非常に少ない状態であった。プロジェクト期間の後半においては、プロジェクト状況に応じてチーム内タスクの優先順位が変更になるケースが発生したが、メンバー全員が状況を理解し、納得した上で行動していたため、情報格差に起因したトラブルはほとんど起こらなかった。
QCDに対する要求が非常に厳しいプロジェクトであったが、チームが一丸となり、プロジェクトを完遂できたことは、リーダーの一貫したマネジメントスタイルによるものが大きかったと思う。
チームリーダーに求められるもう一つの責務
さて、今回は『メンバーの力を引き出す効果的なチームマネジメント』について紹介してきたが、リーダーにはもう1つの重要な責務がある。それはプロジェクトのメンバーの育成だ。
リーダーは該当プロジェクトにおけるチームの責務を果たすと同時に、ひとりひとりのメンバーがプロジェクトで何かを学び、自らの成長に繋げていくことができるように、広い視野・広い心でチームをマネジメントしていくことが求められているのである。
では、どのようにすれば実現できるのか? 次回はチームマネジメントの後編として、プロジェクト活動を通じてメンバーを成長させる支援策について、具体的な事例を紹介していきたいと思う。お楽しみに。
執筆者紹介
土出康弘(DODE Yasuhiro) - 日立コンサルティング マネージャー
システムインテグレーター、システムコンサルティング会社を経て、現職。さまざまな業種のシステム構築プロジェクトにおいて、要件定義、設計、開発、定着化支援等に取り組む。監修者紹介
篠昌孝(SHINO Masataka) - 日立コンサルティング ディレクター
国内最大手のファイナンシャルグループで、BPRプロジェクトや、数多くのEコマース構築プロジェクトにて、PMを歴任。2001年に外資系大手コンサルティングファームに入社、主にERP導入や、SOA技術を駆使した大規模SIプロジェクトを成功に導いた。同社のパートナー職を経て、2007年より現職。